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「世界の山ちゃん」を率いるのは元専業主婦 カリスマ創業者だった夫の急逝をどう乗り越えたのか

一人ひとりの専門性や責任感を強める経営

業界未経験ながら熱い思いで代表取締役に就任した山本さんの下で、「世界の山ちゃん」は業績を落とすことなく、コロナ禍に見舞われる前の2019年には過去最高の売上高を達成した。就任から3年で結果を出した山本さんの経営とはどのようなものなのだろうか。

山本久美さん
社員とのコミュニケーションも積極的にとる山本さん
写真7枚

「代表取締役になって最初にしたことは、これまでのようにトップダウンでいろんな決定が下りてくる経営ではなくなったので、『そこをどうかご理解ください』『一緒に考えてください』と社内や取引先に伝えることでした。どうしたって、私が会長と同じようにできるはずがないので、それを正直に言って助けてもらう道を選びました。

『私も一から勉強しますから、ちょっと年を取った新入社員が入ってきたと思って教えてください。皆さんと一緒にやっていきたいと思っているので助けてください。会長がいない今こそ、皆さんのお力が必要です』、そう訴えました」

社員それぞれがスペシャリストに

山本さんのこの率直なメッセージが効いて、会社は従来よりもボトムアップでさまざまな活動や提案が生まれやすい体質に変わった。また、社内の組織も再編成した。

「これまでは社員みんながいろんな業務を兼任していました。営業や企画、管理といった部門に関係なく、いろんな仕事をしていたんです。しかし、兼任者ばかりでは責任の所在もはっきりしませんよね。そこで、明確に部門を分けてそれぞれの仕事に専念してもらう形に変えました。営業部なら営業の仕事に専念して、逆に他の部門の人は営業にはノータッチ。経営幹部にもそれぞれ担当を割り振りました。

会長の時代は、みんな会長が指示した仕事をしていたので、失敗しても責任は会長にありました。でも会長亡きあとは、それぞれが自分の仕事のスペシャリストになって、各部門でみんなが“小さな会長”になったつもりで責任を持って取り組む。そうでないと会社は回っていかないんだと理解してもらいました」

山本久美さん
一人ひとりの専門性や責任感を強める経営にシフト
写真7枚

会社の理念を明文化

この組織改革で、社員それぞれの持ち場が明確になって責任感がこれまで以上に強くなると同時に、一つの業務に集中して経験を積むことで、スキルが身に付きやすくなった。

「もう1つ、会社の理念を明文化しました。それまで、会長の頭にあった思想、哲学、そのときどきにいろんな人に対して発していた言葉。そういうものを集めて、まとめ直したんです。プロジェクトチームを設けて、幹部や社員はもちろん、アルバイトの皆さんからも企業理念に盛り込むべき言葉を募りました。勉強会を開いて、集まった言葉を精査し、編集しながら盛り込んでいきました」

企業理念を文章に表して社内に浸透させることで、社歴が浅い人も、アルバイトのスタッフも、会社の目指す方向や大事にしているものを理解しながら働けるようになった。理念がつねに頭にあることで、一つひとつの仕事の質が高まっていくことにつながったのだった。

【後編に続く】

◆株式会社エスワイフード代表取締役・山本久美さん

株式会社エスワイフード代表取締役・山本久美さん
写真7枚

やまもと・くみさん。1967年生まれ。居酒屋「世界の山ちゃん」などを展開する株式会社エスワイフード代表取締役。2000年、エスワイフード創業者・山本重雄氏と結婚。2016年8月、急逝した夫に代わり、専業主婦から転身して同月より同社の経営トップに就任した。3児の母でもある。『世界の山ちゃん』は1981年に創業し、現在60店舗(4月1日オープン新店含む、のれん分け店舗含む)を展開。エスワイフードグループは77店舗(他業態・海外店舗含む)を展開。https://www.yamachan.co.jp/

取材・文/赤坂麻実

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