
7月7日からスタートする竹内涼真主演のドラマ『六本木クラス』(テレビ朝日系)。コロナ禍の2020年、日本でも大ヒットした韓国ドラマ『梨泰院クラス』のリメイク作として、日韓共同プロジェクトで作られる“ジャパン・オリジナル版”ということで、放送前から大きな注目を集めています。『六本木クラス』は視聴者の評価を得ることができるのでしょうか? そこで韓国ドラマの日本でのリメイクにおける課題について、韓国エンタメライター・田名部知子さんが解説します。
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『六本木クラス』にかけるテレ朝の本気度
『六本木クラス』の脚本を手掛けるのは、田中圭、吉田鋼太郎主演で社会現象にもなった『おっさんずラブ』(テレビ朝日系/2018年~)や、多部未華子主演の『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/2020年)など数々の話題作の脚本を手掛けた徳尾浩司氏。さらにこの枠では異例の全13話。テレビ朝日の本作にかける意気込みが十二分に伝わってきます。
六本木で居酒屋を営む宮部新(竹内涼真)は、高校時代、巨大外食産業「長屋ホールディングス」の跡取り息子(早乙女太一)が引き起こしたある事件により、絶望の淵に立たされます。宮部はこの事件をもみ消した長屋ホールディングス会長(香川照之)とその息子に土下座をさせて罪を償わせるため、復讐を心に誓い、突き進みます。

今回、パク・ソジュンが演じたパク・セロイの役(宮部新)を竹内涼真が、キム・ダミ演じるチョ・イソ役(麻宮葵)を平手友梨奈が、いずれもインパクトのある強烈なビジュアルで、独特なヘアスタイルまでをもしっかり再現しています。
そして原作とのシンクロ率で最も期待が高まるのが、香川照之演じる巨大飲食企業のドン・長屋茂(原作ではユ・ジェミョン)。『半沢直樹』(TBS系/2013年)の大和田常務を彷彿とさせる口上と怪演が見られるかと思うと、ワクワクします。SNS 上でもこれらのキャスティングに対する評価はおおむね高く、私自身も「よくぞここまで集めた!」と感じています。
リメイクの背景にあるのは「圧倒的なコンテンツ不足」と「制作コストの削減」
ここ数年、韓国ドラマのリメイクは確実に増えています。2019年には夏の1クールだけで、唐沢寿明主演『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)、三浦春馬主演の『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)、大森南朋主演の『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)とゴールデンタイムに3本も放送され、大きな話題になりました。

この背景には、日本のドラマ界の慢性的なコンテンツ不足があります。限られた人員と予算の中で、テレビ局がオリジナル作品を作るリスクはあまりに大きいため、オリジナル作品はどんどん減る傾向に。その点、韓国ドラマのリメイクであれば、原作がヒットしているからある程度の視聴率が期待でき、韓国版のファンをも取り込めるという理由から、もはや日本ドラマ界におけるひとつのコンテンツとなりました。
またリメイク作は、韓国サイドに原作使用料を払ったとしても、日本の人気脚本家に一から依頼するより安いコストであげることができるというメリットもあります。
圧倒的な制作費の違いやキャスティング文化の違いも
とはいえ韓国ドラマのリメイクには、尺の違い、圧倒的な制作費の違い、キャスティング文化の違いなどによる課題が多いのも事実。
最近は比較的尺の短い作品も増えてきましたが、依然、韓国ドラマは日本のドラマよりずっと長いのです。この尺の違いにより、日本版の展開は駆け足で、エピソード、ディテールなどはあちこちをつまんだ感じが否めません。韓国ドラマの持ち味である「サブキャストの人生をも生き生きと描く」点などは、圧倒的に薄くならざるを得ないのです。
また現在、日本でヒットしている韓国ドラマの多くが、Netflixやディズニープラス、Apple TV+などとの業務提携による潤沢な制作資金をもとに作られているのに対し、日本の制作費は低下の一途にあるため、韓国ドラマの壮大な世界観を再現するには予算的に太刀打ちできず、こぢんまりとした作りになりがちです。

そして韓国では、俳優自体の人気よりも、作品の世界観にあったキャスティングと俳優の高い演技力が高視聴率につながります。例えば『ペントハウス』(2020年/最高視聴率31.1%)や『夫婦の世界』(2020年/最高視聴率28.4%)のように、一見地味なキャスティングでも、内容さえよければ社会現象になるほどのヒット作となりうるのです。

その点、日本のドラマは人気俳優ありきのキャスティングが優先され、韓国ドラマのリメイク作でもそうしたキャスティングが行われてきました。しかし、“人気”というだけで行われる安易なキャスティングは韓国ドラマ自体の価値をも下げてしまう危険をはらんでいます。
『六本木クラス』がリメイク文化に影響を及ぼす!?
以上述べたように、リメイク作には「埋められない課題」がありますが、中には『グッド・ドクター』(フジテレビ系/2018年/山崎賢人主演)や『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系/2018年/坂口健太郎主演)などのように、日本で高い評価を得た作品もあります。

『グッド・ドクター』は、オリジナルのチュウォン、ムン・チェウォンに負けないほど山崎賢人と上野樹里のカップリングが素晴らしく、『シグナル~』は原作にほぼ忠実になぞらえていて、伏線の丁寧な回収などは見応えがあり、多くの支持を集めました。
オリジナルが素晴らしすぎて期待はずれのリメイク作が多い中、それらは、日本的な丁寧な演出や俳優陣の細やかな演技力によって、“オリジナルとは別作品”としてリメイクの課題を感じさせなかった作品と言えるでしょう。『六本木クラス』はそうした課題をどう“解消”していくのか――その点は大きな注目ポイントです。
『六本木クラス』の成否は、今後の韓国ドラマのリメイクに関し、ひとつのターニングポイントになるかもしれません。

『梨泰院クラス』は『愛の不時着』とともに第4次韓流ブームを牽引し、韓国ドラマに縁のなかった中年男性や若年層など新たな韓流ファン層を獲得した作品です。日本のファンはより厳しい目で『六本木クラス』を見ることになるでしょう。演出から、俳優の演技、音楽まで原作と比べて評価する声がSNSに溢れるのは間違いありません。
苦笑混じりの残念作で終わるか、『グッド・ドクター』のように、本家『梨泰院クラス』とはまた別ものの良作、大作としてのちのち語られるようなものになるか――。

あまりよい評価を得られなければ、韓国ドラマの日本でのリメイクについてテレビ界で否定的な声が上がりかねません。場合によってはこれまで韓国ドラマになじみのなかった人や、アンチ韓国ドラマの人から、「本家もつまらないんでしょ」と韓国ドラマ人気に“冷や水”を浴びせられるかもしれません。『六本木クラス』がうまくいかなければ、第4次韓流ブームは終焉に向かう――それほどの重責を担っている作品だと思っています。
◆韓国エンタメライター・田名部知子

『冬のソナタ』の時代から16年、K-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2018年に韓国の名門・梨花女子大学に短期語学留学し、人生2度目の女子大生を経験。twitter.com/t7joshi