失敗から学んだり成長したりすることもある。ピンチは時にチャンスに
真理子さん:ここ何年か、もうちょっと長い期間かな、失敗をものすごく嫌う風潮があると思うんですけど、でも失敗から学んだり成長したりすることってありますよね。お客さまとの関係の上でもピンチは、時にチャンスだったりする。例えば、クレームが入っても、そこで落ち込んだりうろたえたりしないで、いい対応ができると、逆にファンになってもらえることもあります。まあ、とはいえクレームってやっぱりヒヤッとしますけど(笑い)。
シンシアさん:誰だってそうだと思います。だから私は「あなたが考えたベストの判断でやって」「どうにもならなかったら、このお客さまには1泊分無料で対応するから大丈夫」と声をかけます。
真理子さん:そう言ってもらえると落ち着いて対応できて、結局は深刻な事態にならずに済みそうです。
シンシアさん:そうだといいなと思っていますけど。みんな焦ってしまうけど、そもそもそんなに大変なことって別にないでしょう。お客さまを5分待たせてしまったとして、それで寿命が縮まるでもないし、わざとモタモタしているわけじゃないんだし、落ち着いて順番にやっていけばいい。
みんな責任感が強くて真面目なのはいいけど、そこまで引き受けなくていいんですよ。これはビジネスなんだから、お客さまが支払う代金、ホテルが提供するサービス、それが見合ってお互いWIN-WINでないと成り立たない。あまりに過度な要求をされたら、私はその方にチェックアウトをご提案します。
――サービスと対価が見合っているか、一般にはユーザーが「コストパフォーマンス」といった言葉で評価をしますが、事業者側でもそのバランスを意識して当然だということですね。
真理子さん:私はフリーランスとして働いたときに思ったんですが、そういう真っ当なことを受け入れてくれるお客さまが集まってこないと仕事にならないんですよね。無茶な要求をする人に対してはどこかで線を引かないと、自分で自分の首を絞めてしまうことになる。お客さまは選ぶべきです。
お金をたくさん払ってくれる人を選ぶという意味ではなく、“まっとうな”お客さまを選ぶこと。さっきの採用の話と通じるものがありますね。サービス提供する側とお客さまもまたマッチングなんだと思います。
シンシアさん:そう、マッチングですね。
◆LOF Hotel Management 日本法人社長・薄井シンシアさん&井上真理子さん
薄井シンシアさん/1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う大学のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラ社に入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任するも五輪延期により失職。2021年5月から現職。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
井上真理子さん/大学卒業後看護師としてキャリアをスタートさせ、看護師経験10年を経て美容業界に転身。美容専門学校教員、ヘアメイク講師、フリーランスヘアメイク、エステサロン受付、注文住宅営業、製薬会社プロジェクト立ち上げ等経験。現在はフリーランスとして経営者の業務サポートや、マネジメント、企画・運営などを担当。
撮影/黒石あみ 構成/赤坂麻実、編集部
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