愛情を注ぐときも怒るときも「野生」だった
母ちゃんの性格をひと言で言うと「野生」だね。たとえば子供の私を可愛がるときは親犬が子犬にじゃれつくようで、それは50代の私と久しぶりに会ったときもそう。「おお、どしたい?」という愛おしそうな視線は愛情100%よ。
その分、怒ったときの野生も100%で、子供の頃は「手でも足でもぶっちょちまうがら(砕いてやるから)」と怒鳴る目に殺意がよぎるから、本当に怖かった。
そこまでの場面でなくても喜怒哀楽が単純で、それが顔にも出るし、口にも出る。介護中も体調が良くなると今度は調子に乗って、「ヒロコ、新生姜の酢漬け作れ」と上から目線で命令する。言われるほうはたまったもんじゃないわよ。シモの世話をしてる娘に、何、負荷かけてんだよって。
ま、亡くなった人に腹を立てたところでどうにもならない。わかっちゃいるんだけどね。野生の母ちゃんから、野生では生きられない私はどう見えたんだろうと、それを聞きたかったな。
母ちゃんがちょっと頭をつかった説教は、「金は使えばなくなるんだ。いくらかでも貯めておけ」と、そればっか。「なんであんな父ちゃん(義父)と結婚したんで?」と聞くと、「男は自分よりバカな方が自由になっからいいんだ」と必ず。こんなアドバイス、なんの役に立つのよ。
スマホに突然現れる在りし日の姿
私のスマホには、去年の今頃の廃人同然だった母ちゃんにご飯を食べさせている動画があるんだけど、これまでどうしても見る気になれないんだわ。でもスマホって突然、畑仕事を終えたばかりの元気だった頃の母ちゃんが画面に飛び出してくるから、油断もすきもありゃしない。
こっちの精神状態次第では、あわててスマホ画面から目をそらしたり、一瞬見て、しばらく呆然としたり、ときどき怒りが湧いてきたり、悲しくなってホロッときたり。われながら何が出るかわからない。
「まぁ、それももう少しだよ。初盆が終わると気持ちがストンとおさまるって、これはみんな言うね」
両親を見送ってる友だちはそう言うんだわ。まもなく初盆。「みんな言う」にかけてみようっと。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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