演技巧者の吉岡が見せる凛のキャラクターの変化の自然さ
本作に登場する沖縄県民は、愛おしい人々ばかり。年齢や立場によって戦争との向き合い方は異なりますが、その多くが微かな希望を胸に生きています。
そんな人々の中でとくに目立つのが吉岡さん演じる凛。彼女は当時の日本国民の多くと同じく、「きっと神風が吹く」と信じてやまない人物です。国の教えに従い、アメリカ軍を相手に自らも武器を取る覚悟で、もしも敵の捕虜になるくらいならば自決するのだと固く決意している。
戦争が激化する直前のまだ穏やかな頃の凛と、明らかな戦局の悪化を肌で感じているときの凛はまるで別人で、このキャラクターの変化の自然さに、さすが吉岡さんの演技巧者ぶりが表れているように思います。凛がもともと持っていた柔らかさは消え、次第に吉岡さんの演技も“力みっぱなし”のものへと変わっていくのです。
“力みっぱなし”というのは、大切な人たちを次々に失っていく凛がどうにか自分を保ち、立ち続けるため。少しでも気を抜いてしまえば、たちまち彼女は崩れ落ちてしまうのでしょう。第2次世界大戦というものから遥か遠く離れた時代に生まれた筆者にとって、凛が内に隠している恐怖や悲しみの大きさははかり知れません。
彼女は深く傷ついていながら、それをどうにか隠そうとしています。けれども、力を込めれば込めるほど、緊張すればするほど、それが弾けたときの反動は大きいものではないでしょうか。吉岡さんの“力演”は、まさにそんな不安定さを表現するもの。戦争に翻弄された当時の人々の心情を体現するものだと思います。
戦時下から現代へと手渡された“凛というキャラクターのバトン”
やがて物語は“現代パート”へと移行。島田知事らの言葉を受けてどうにか沖縄戦を生き延びた凛というキャラクターのバトンを、吉岡さんが香川さんへと渡します。
香川さんといえば戦争経験者の世代であり、数々の名匠とともに傑作を生み出してきた俳優の1人。かつて沖縄戦を舞台とした『ひめゆりの塔』(1953年)に出演していたこともあり、これが一つの象徴のような、とても示唆に富んだキャスティングでしょう。
戦時下から現代へと手渡された“凛というキャラクターのバトン”が背負っているものこそが、本作のテーマである“平和と人の命の尊さ”だと思います。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun