
ラグジュアリーな旅もいいけれど、「コロナを経て人の価値観も本質的なものへ回帰している」というのは、旅行ジャーナリストの村田和子さん。今回は、村田さんに“今だから楽しみたい大人の宿”を紹介してもらいます。
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「旅へ行ってまで我慢は嫌、でも自分の行動が自然環境やよりよい未来につながるのなら協力したい」――そんな意識が広がっています。いわゆるSDGsへの関心は、コロナを経て加速的に高まり、旅の体験を通じて、「世の中や将来の役に立つ」「自身の生活習慣を見直す」ことに価値を見出す人も増えています。今回は、ラグジュアリーではないけれど、ユニークな思いやコンセプトに共感、プライスレスな体験や学びが得られる宿を紹介します。
ごみステーションにホテル!?「ゼロ・ウェイストアクションホテル HOTEL WHY」
2020年5月にオープンした「HOTEL WHY」。日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言(Zero=0、Waste=廃棄物)を行った徳島県上勝町にあるホテルです。

上勝町ではごみの収集は行わず、生ごみはコンポストを用い各家庭で肥料に変え、それ以外は『ごみステーション』へ持ち込み45種類に分別をする施策をとっています。ごみのリサイクル率は約80%を超えるといい、日本のSDGsの最先端をいく町です。
今回ご紹介する「HOTEL WHY」は、そのごみステーションのあるゼロ・ウェイストセンターに併設された全4室の小さなホテル。ごみステーションというと、ちょっと驚くかもしれませんが、整理整頓されにおいもなく、ここでのスタディツアーは、「HOTEL WHY」に泊まる大きな目的になっています。

コンセプトをカタチに。建物からもメッセージが
ごみステーションやホテルの建物は、町内の空き家や取り壊しになった校舎の窓枠やドアを譲り受けて再利用。歴史や懐かしい思い出はそのままに、お洒落によみがえり心地よい空間がひろがります。


他にも捨てられてしまう廃材や床材などを利用し、客室のドアには消費をあおる新聞紙に「WHY」の文字を印刷。ロフトタイプの客室のカーテンは、継ぎはぎがされて高さを整え、ロフトにあるラグは町民から集めたジーンズをパッチワークでリメイク。どれもスタイリッシュで、「どう? これがゴミになる運命だったなんて信じられる?」「あなたの生活はそれでいいの?」と問いかけてくるようです。


滞在のルールは、石鹸は使う量だけ&ごみは6分別
チェックインは、ごみステーション内のリユースショップ「くるくるショップ」で行います。ゼロウェイストの第一歩は「ごみを出さない」こと。ここでは上勝町民が不要となった品を持ち込み、だれでも欲しいものがあれば無料で持ち帰りができます。ちなみに持ち帰るときには、重さを量り記入。毎月どれくらいのゴミが減らせたかを重さで可視化する工夫も素晴らしい。

チェックインでは、石鹸を使う分だけ宿泊者自らがカットするという体験も。1泊2日で使い切るにはどれくらいが適当なのか? 同行者と想像しながら無駄のないようにカットするのも新鮮です。


客室にごみ箱はなく、チェックインの時に渡されたかごに6分別でごみを分け、チェックアウト時には、ごみステーションで45分別に挑戦します。
ゼロウェイストのスタディツアー「STUDY WHY」とは?
チェックイン後、夕方からは「STUDY WHY」という、ごみステーションを舞台に、上勝町の歴史や施設に込められた思い、目指すべき姿をレクチャーするスタディツアーへ参加します。(※宿泊者無料。視察のみの参加 1人1500円)
分別の説明では、それぞれのごみの置き場にプレートがあることに注目。「このゴミはどこへ持っていき、何に再利用されるのか? それにかかるコストはいくらなのか?」が明記されているという説明に、びっくりしつつ感心しきり。


滞在を通じてのいきついたのは…
チェックアウトの際には、6分別したごみをステーションに持っていき、自ら45分別に挑戦します。そもそもプラスチックと金属フィルムが一体化している容器はどうしたらいいのか? 使用済みのティッシュはどうする? など、6分別でさえ悩むことに驚きます。さらにペットボトルはきれいに洗って完全に乾かさないとカビが生えて再利用できないといいます。

大切とわかっていても毎日となると、正直かなり面倒だと感じます。そんな今回の滞在からいきついた私なりの答えは「ごみを無くすには、製造段階から環境に配慮することが必要不可欠」ということ。帰宅後は、世の中や企業を見る目が、ちょっと変わった気がします。
素晴らしい自然環境と真に贅沢な時間を過ごす
学びのユニークさを中心にお伝えしましたが、「HOTEL WHY」の滞在は自然に囲まれ贅沢なひととき。夜になるとあたりは真っ暗で満天の星が美しく、朝には鳥のさえずりに、キツツキが木をたたく音が響きわたり、これこそ贅沢の極みだと感じます。こういった環境だからこそ、身を置くことで癒され、守るために自分に何ができるかという意識へつながるようにも感じます。


「ゼロ・ウェイストアクションホテル HOTEL WHY」
料金:1泊 1万3200円~(2名1室利用時1名あたり、税・サ込、朝食付)
https://why-kamikatsu.jp/
自然遺産の島でエコツーリズム「星野リゾート 西表島ホテル」(沖縄県西表島)
豊かな生態系や希少な固有種が多いことから、2021年7月、奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに世界自然遺産に登録された西表島。

そんな環境への配慮から、「星野リゾート 西表島ホテル」では、日本初のエコツーリズムリゾートとして運営を開始。西表島の生態系を守るため、滞在者に唯一無二の島の魅力を伝えながら、エコに関する協力や理解を仰いでいます。

使い捨てアメニティは持参、インフォームドチェックイン
使い捨てのプラスチックアメニティの提供をなくす「1WAYプラスチックフリー」を進め、宿泊客にも事前の案内でアメニティやマイボトル持参を推奨。ショップや自販機でのペットボトル飲料の販売を取りやめ、館内にウォーターサーバー(利用無料:フリードリンク)を設置しています。

チェックイン時には、館内での案内に加え、島内での滞在中に知っておきたい西表島の自然保護への取り組みやルールを伝えるインフォームドチェックインも実施。


また、島では下水道の設備がほとんど整ってなく、排水の量や質への配慮も必要なことから、コスメブランド『OSAJI(オサジ)』と協力し、ひとつで髪や体を洗えるオールインワンソープを開発。ランドリーでは、洗剤を使わずアルカリイオン電解水のみで洗い上げる、環境や人に優しい洗剤レスのスマートランドリーを導入。ゼロ・エミッションへの取り組みを丁寧に伝えることでお客の共感をよび、積極的に協力する人が増えたといいます。

無料アクティビティも充実。世界遺産やイリオモテヤマネコのレクチャーも開催
西表島ホテルの敷地周辺には、ビーチやマングローブが生息する汽水域、さらにはジャングルまであり、コンパクトながらも多様性を感じる環境が整っています。そこで、身近な自然から生態系を学べるように、無料アクティビティ「イリオモテガイドウォーク」を宿泊者向けに開催。


西表島の大自然をアクティブに楽しむ予定のかたには導入として、癒しやリゾートを目的に訪れた人も滞在を通じて西表島の自然や保護活動へ理解を深める機会になると好評です。



「星野リゾート 西表島ホテル」
料金 :1 泊 1万4000円~(2名1室利用時1名あたり、税・サ込、朝食付)
https://iriomotehotel.com/
世界で高まるサスティナブル:Sherwood(シャーウッド)(クィーンズタウン@ニュージーランド)
サスティナブルな取り組みは世界中で高まっています。例えば昔から自然と共存するライフスタイルが根付くニュージーランドでは、次世代のために社会を守る「ティアキ・プロミス」を制定、旅行者にもプロミスに沿った行動を求めています。



そんなエコ意識の高いニュージーランドの人からも支持されているのが、リゾート地クィーンズタウンにあるホテル「Sherwood(シャーウッド)」。

客室は、タイヤでできた床に、カーペットは釣りの網、壁はワインコルクをアップサイクルしたという客室はセンスの良さが光ります。

レストランでは隣接する自家菜園から調達した野菜を提供し、食事で出た生ゴミはコンポストへ。肥料になって畑へ返る循環になっています。

「Sherwood (シャーウッド)」
https://sherwoodqueenstown.nz
次の旅は、ラグジュアリーから一歩進んだ大人旅をしてみては? 長年慣れ親しんだ消費型のライフスタイルを見直すきかっけにもなりますよ。
◆教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん

旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表(https://www.travel-k.com/)。旅ブログも行っている(http://www.murata-kazuko.com/)。
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