『しろくまのパンツ』や『わくせいキャベジ動物図鑑』、『うんこしりとり』など大ヒットした絵本をはじめ、ワークショップ、立体作品、舞台美術、アニメーション、雑貨制作など、さまざまな分野で幅広く活躍している亀山達矢さんと中川敦子さん夫婦によるユニット・tupera tupera(ツペラ ツペラ)。2人が名付けたというおまじないのようなユニットの名称は、楽しさを追求し続ける2人のマインドを象徴しています。9月25日まで兵庫県の豊岡市立美術館で開催されている絵本原画展では多くのファンたちの心をわしづかみしています。そんな2人に、生きていく上で大切なことをお聞きしました。
■絵本作家ユニット・tupera tupera に聞く 仕事も生活も共にしながら夫婦が長続きする秘訣
美大予備校の仲間からスタート。ユニット結成のきっかけは「偶然」
――お2人の出会いとユニットの結成のきっかけを教えてください。
亀山さん:ぼくと中川の出会いは、東京都の三鷹市にあった美術予備校でした。そこで知り合った友人たちはアートに対する熱い情熱を持っていて、予備校の先生が展覧会をしたりファッションショーを開いたりするのをみんなで手伝ったりしていました。その頃の経験は、自分たちの財産になったと思っています。ぼくは武蔵野美大、中川は多摩美大とそれぞれ進学した学校は違っていましたが、お互いの学校仲間とも交流がありました。
中川さん:それから時を経て、20代半ば過ぎの2002年にユニットを結成しました。もともと私が大学でテキスタイルデザインを専攻していて、最初は1人で布を使った雑貨ブランドを作って展示販売をしていたんです。その頃、亀山はバイトをしながら絵を描いていましたが、その絵がユニークで自分にはない世界観だったので、一緒に作品を作ってみたら面白いんじゃないかと思ったんです。
最初は1回だけのコラボレーションのつもりでしたが、発表してみたら評判が良くて、その後もあちこちから展示をする機会をいただきました。それで2人で一緒に2年ほどオリジナルの布雑貨を作って展示販売をする活動を続けていました。
亀山さん:そんな中、展示会に来てくれたお客さんに「絵本は作ってないんですか?」と聞かれたり、海外の自由な絵本の造り方に刺激を受けたり、いろいろな出会いやきっかけが重なって、絵本作りに興味を抱きはじめました。でも、文章は苦手だったので、絵をメインにしたインテリアにもなるような飾れる絵本にしようと考えたんです。
アコーディオンブックの形で、広げるとずらっと並木道が広がる絵本『木がずらり』です。最初の1000部は自費出版で、印刷や製本をしてくれるところも自分たちで探して作りました。今は、ブロンズ新社から出版されています。
tupera tuperaは、それまでは雑貨ブランドとして認知されていたのですが、その絵本をきっかけに、イラストや絵本の仕事が増えていくようになりました。
ユニットが“自然なスタイル”になったのは「役割分担をしなかったから」
――ユニットとしてのお2人の役割分担はどのようなものですか?
亀山さん:ユニット結成した当初は、まさか2人でこの先もずっと一緒にやっていくなんて想像できてなくて。お互いに自分たちが好きなことを続けながら、2人で時々ユニットを組んでtupera tuperaとして活動をするつもりだったんですよ。
中川さん:そうですね。2人ともクリエーターだから自意識が高くて、最初はどちらがどれだけ担当するのか?ぶつかることもありました。でも、最初から役割分担を決めて固定しなかったことが良かったんだと思います。続けていくうちに、自然と2人でやっていくスタイルができてきました。
――なるほど。具体的にはどんな風に2人で作っていくんですか?
亀山さん:ぼくがピーンとひらめいたアイディアを中川に話し、中川がそれを深堀りして展開を考える、という風です。もちろんいつも同じとは限らず、ときには中川から提案されたアイディアをぼくが形にしていくこともあります。
アイディアの出発点が違っていても、2人の間でキャッチボールをしながら作り上げていきます。『パンダ銭湯』という絵本では、背景を中川が描き、パンダはぼくが作りました。これも最初から決めないで制作に入ってから、「どれを描こうか」というやり取りをしてでき上がった絵本です。「決めない」ことが結果的に「決めていた」ことになりました。
中川さん:2人のアイディアや作風を、tupera tuperaという名前で発表することによってごちゃまぜにして。いつの間にかそのほうが楽になったんです。
亀山さん:ぼくが出したアイディアを中川に投げ、それを中川に進めてもらったり。どちらかが調子が悪くて煮詰まったら相手に投げかけるとか、ケースバイケースでお互いに任せながら進めていけるというのが、2人でやっているメリットです。
かじ取りを決めずに、自分たちの表現ややり方をその時々で見つけていって、最終的に一つのプロジェクトのような形になっていきましたね。
仕事でも生活でも大切にしていることは「遊び心」
――絵本やものづくりの原点はどんなところにあるのでしょうか?
亀山さん:「制作の原点はなんですか?」という質問をよくされますが、一言でいえば「遊び心」ですね。遊びの延長線上に、モノを作っているという感じです。
あと、「どんなジャンルでも2つとして同じものはない」ということもそう。絵本を作るときも「いつも新しいものを作る」ことを心がけていています。ぼくらの絵本は、役に立つとか、メッセージ性とかより、純粋に「面白い!」とまずは自分たちが思えるかを大事にしているんです。自分たちが楽しんでいるからこそ、周囲を楽しくできるはずなので。
でも、そうして形にした絵本を読んだ人が、「食育になった」とか「自然の大切さを感じました」とか、いろんなことを受けとってくれています。絵本を通して「これ、面白いでしょ?」と、こちらが投げかけることで、それに共感してくれたり、自分たちの予想を超える反応も返ってくる。それが面白いところです。
絵本は介護の現場でも。大人のための絵本ワークショップ
―――絵本を通じて、伝えられることは何でしょうか?
中川さん:絵本は、子供だけのものではないと思っています。大人にこそ響くようなデザイン性の高いものもあるし、小さいころに読んだ絵本も大人になってから読むとまた違う感動があったりすると思います。介護の現場や老人ホームなどでも使われていますよね。例えば寝たきりで身体がしんどい方でも、絵本なら扉を開いてからほんの数分で、違う世界に行って帰ってこれる。それが絵本というものの魅力です。
亀山さん:各地で開催しているワークショップでは、子供を連れて来る大人にも変化があって。純粋に楽しむ子供とともに、これまで長い間、絵を描いたり、手を使って動くものを作ることをしていなかった大人たちが実際に手を使って作る面白さを知ると、喜びにあふれる表情をしてくれる。それがぼくらにとっても嬉しいし、そんな親を見て、子供たちも誇らしげです。最初は、「作るの苦手なんですよ〜」と言っていた人が、びっくりするようなパワーのある作品を作りますよ!
ユニット結成20年。今後も「イレギュラーな日常を楽しむ」
―――20周年が経ちますが、今後の活動や抱負を教えてください。
中川さん:2002年から活動を開始してから、今年で20年目。これまで手掛けた本は50冊以上になりました。絵本だけでなく、イラストや空間デザイン、舞台やテレビのお仕事、ワークショップや絵本ライブなど。常に形を決めずに様々な活動を続けてきましたが、原点を聞かれる度に、私たちは「面白いことをしたい」と答えていて、これからもそうでありたいです。
亀山さん:ぼくもこれからもイレギュラーな日常を楽しんでいきたいですね。予測不能な依頼のほうがワクワクするし、これから誰かと会ってどうしているかなんかまるでわからない。2人でユニットを結成していますが、そこには必ず第三者が絡んでくるので、そこでまた化学反応が起こって、新しいものが生まれたりする。だからあまり目標は立てずに、日々真剣に楽しんで目の前のことに向き合っていくことで、次の未来につながると思っていますし、いろんな出会いに感謝しています。
中川さん:そうですね。いろいろな人とのつながりで、新しいことにチャレンジできるのは本当に楽しいです。
9月25日まで開催中の豊岡市立美術館の絵本原画展「ツペラツペラツアーズ」もそう。志賀直哉の小説『城の崎にて』で有名な城崎温泉の町おこしプロジェクト「本と温泉」の一環で、城崎でしか買えないお土産として作られた絵本『城崎ユノマトペ』を2年前に作ったんですが、それから豊岡の人たちとの繋がりができて、今回の展覧会をすることになりました。
『城崎ユノマトペ』は、城崎の町を散歩するような気分で楽しめる絵本なのですが、この展覧会では、絵本原画約60点を、絵本の世界を”旅”するように展示しています。
亀山さん:そういえば、個人的には1つだけやりたいことがあって。ワインや日本酒のラベルを作ってみたいんです。お酒がすきなだけなんですけどね(笑い)。
◆tupera tupera(ツペラ ツペラ)
亀山達矢さんと中川敦子さんによるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。絵本に『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)、『パンダ銭湯』(絵本館)など。『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)は第23回日本絵本賞大賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。10月30日まで、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で神戸初の展覧会「つくろう!さがそう!やってみよう!tupera tuperaの工作ワンダーランド」を開催。「瀬戸内国際芸術祭2022」の秋会期(9月29日~11月6日)ではすごろくプロジェクトに参加。『しろくまのパンツ』の続編となる新作絵本『ねずみさんのパンツ』(ブロンズ新社)も発売中。https://www.tupera-tupera.com/
■豊岡市立美術館 特別展「tupera tupera 絵本原画展 ツペラツペラツアーズ」
取材・文/夏目かをる