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「僕をオーディションしてくれないか」沢田研二が新作映画で刻んだ“生き様”

スター・沢田研二という存在のあり方

筆者は平成生まれのため、沢田さんがスターとして、エンターテイナーとして一世を風靡していた姿は、インターネット上などにある動画によって知った人間です。過去の映像に収められた、気品あふれる佇まいと身のこなし――。その姿と一挙手一投足には、世代の隔たりを超えて圧倒され、魅了されるものがあります。

出演された映画では『太陽を盗んだ男』(1979年)、『ときめきに死す』(1984年)、『夢二』(1991年)といった主演作がパッと思い浮かびますが、それぞれの作品で演じていたのはどれもまったく異なるキャラクターたち。しかしいずれの作品でも、その得も言われぬスター性やカリスマ性が漏れ出ているのを感じていました。というより、そういった性質を持つ人物にしか務まらないキャラクターたちだったと思います。

映画『土を喰らう十二ヵ月』場面写真
(C)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
写真12枚

一方、本作で演じているのは、山荘で暮らすごく平凡な男性(もちろん、これまでにも平凡な役柄を演じているのを知っています)。映画は大自然に囲まれた彼の存在にフォーカスし、時間は淡々と流れていきます。

ここで重要になってくるのが、このツトムという人物を誰が演じるのかという問題。いくら平凡な役どころとはいえ、ツトムには幼少期に禅寺へと奉公に出されたという特別な経験がありますし、ただ与えられた役を演じているだけでは、強力な自然の存在に取り込まれてしまいます。

映画『土を喰らう十二ヵ月』場面写真
(C)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
写真12枚

むろん、それはそれで正解なのかもしれません。けれども本作は、俗世間と離れ、大自然と共存する男の物語。つまり、大自然と拮抗できるような人物でなければツトム役は務まらない。この役を沢田さんが演じているのは大いに納得です。ごく自然な振る舞いであっても、その一つひとつの所作には、やはりかつてのパフォーマンスのような美しさがあるのです。

”沢田研二しかいない”監督の思いが結実

中江監督はこのツトム役を演じられるのは「沢田さんしかいない」と考えてオファーをしたようですが、逆に沢田さんから「僕をオーディションしてくれないか」と言われたといいます。沢田さんとしては、“昔の沢田研二ではない”、“このような自分でもいいのか”、“いまの自分を画面にさらしたい”という想いがあったようです。

映画『土を喰らう十二ヵ月』場面写真
(C)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
写真12枚

こうして監督の想いと沢田さんの想いは見事に結実。年齢と、特別なキャリアを重ねた者にしか纏うことのできない、そんなオーラをツトム役には感じます。ただそこにありのままの姿で存在しているだけながら、“大自然の中で生と死について考えながら生きる男”の像を沢田さんは立ち上げているのです。

映画『土を喰らう十二ヵ月』場面写真
(C)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
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沢田さんと世代の近いかたも筆者のように離れたかたも、「これから」を生きていく指針の1つとなるような存在として、彼の姿はこの映画に刻まれていると思います。

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