沢田研二さん(74歳)が主演を務めた映画『土を喰らう十二ヵ月』が11月11日より公開中です。長野の山奥で独りで生活をする男の姿を描いた本作は、四季折々の美しさや大自然の恵みを映し、人間の“死生観”についても考えさせられる作品に仕上がっています。本作の見どころや沢田さんをはじめとした役者陣の演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
“死”に近づく主人公が“生”を考える日々
本作は、『ナビィの恋』(1999年)や『ホテル・ハイビスカス』(2002年)の中江裕司監督が、水上勉さんが1978年に発表したエッセイ『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』を映画化したものです。
主演に沢田さん、ヒロインに松たか子さんを迎え、料理研究家・土井善晴さんが映画の料理を初めて担当。静謐な、けれども大変意欲的な作品となっています。
大自然に囲まれた、1人の男の悠々自適な生活
人里離れた長野の山荘でたった1人、自給自足の生活を送っている作家のツトム(沢田)。彼は幼い頃に奉公に出された禅寺で身につけた精進料理によって、山で収穫する山菜や畑で育てた野菜といった自然の恵みを食し、季節の変化を感じながら原稿執筆に向かっています。
そんなツトムの元を、彼の担当編集者にして恋人でもある真知子(松)が東京から訪ねてきます。食いしん坊の真知子と一緒に旬のものを料理して食べるのは楽しく、ツトムにとって特別な時間。
こうして悠々自適な暮らしをするツトムですが、彼は13年前に亡くした妻の遺骨を墓に納められずにいます。大自然に囲まれた環境の中、老いによって彼もまた“死”に近づきつつあり、“生”について考える日々を過ごすのです――。
檀ふみ、火野正平らベテランキャストが物語に与える深み
“ツトム=沢田研二”を囲むのは、大自然だけではありません。ベテラン俳優陣の存在もまた、本作が観る者に与える贅沢な時間の重要な要素。
ヒロインの真知子は編集者として頭脳明晰な一面を持つ一方で、ツトムの料理が大好きな“食いしん坊”でもあるキャラクター。松さんがチャーミングに演じ、主演の沢田さんとのやり取りがじつに愉快なものになっています。
その他のツトムの生活を支える存在として、写真屋を瀧川鯉八さんが、大工を火野正平さんが、かつてツトムが奉公していた禅寺の和尚の娘を檀ふみさんが、ツトムの亡くなった妻の母を奈良岡朋子さんが演じています。
さらに、ツトムの義弟を尾美としのりさんが、その妻を『ナビィの恋』で中江監督とタッグを組んだ経験を持つ西田尚美さんが演じ、コミカルなシーンを創出。この座組の中心に存在し続けるのが、沢田さんなのです。