
暑い季節に「夏バテ」があるように、これからの寒い季節は「冬バテ」が起きやすくなります。そこで、寒さによる体調不良である「冬バテ」の症状や対策について、医学博士で健康科学アドバイザーの福田千晶さんに聞きました。
寒さが「健康の天敵」である理由
冬になると疲れやすくなったり、気分が沈みやすくなったりする…。そう感じているのなら、それは気のせいではないかもしれません。「冬バテ」の可能性があると福田さんは指摘します。
内外の寒暖差も一因に
「寒さは体調不良の大きな原因になります。寒さにより体は熱を逃がさないようにするため、全身の血管が収縮します。すると血液によって運ばれるべき酸素や栄養分が充分に届かなかったり、老廃物の回収が遅くなったりするので、それが“疲れ”につながります。
また、寒いと私たちの体はガタガタと震えたりしますね。これは筋肉を動かして熱を作っているんです。とは言っても、ガタガタ震えて小刻みに体を動かし続けると筋肉は疲労しますから、疲れの原因になってしまいます。

また、冬は暖房によって、内と外の温度差が激しくなっています。私たちは自律神経の働きで、体温調節、血管の太さ、心拍数などを自動的に調節しています。温かくなったり寒くなったりを繰り返していると、その状況に合わせようと、体に大きな負担がかかります。それも冬バテにつながります」(福田さん・以下同)
今年は特に冬バテのリスクが高い
冬の日照時間が短くなることも、冬バテに関係します。
「冬は夏に比べて、日照時間が短くなります。特に日本海側は晴れの日が少ない。すると、日光を浴びることで脳内に分泌されるセロトニンという神経伝達物質が作られにくくなります。セロトニンは精神を安定させる働きをして、前向きで幸せな気持ちになりやすくしてくれます。ですから、冬は精神的に落ち込みやすいのです」
夏バテとの違いは、年末年始の忙しさにもあると福田さんは説明します。
忘年会、親戚の集まりが増加?
「政府は10月から、旅行代の割引きや飲食店等で利用できるクーポン券を配布する“全国旅行支援”を実施しています。その後押しもあり、今年の冬は忘年会や新年会、親戚の集まりなどが活発になる可能性があります。
そういったイベントが好きな人なら元気をもらえていいのですが、苦手な人にとっては神経がピリピリして気が休まらず、自律神経のバランスが崩れます。そうなると疲れてストレスも溜まっていきます。今年は例年以上に冬バテに注意しなければいけません」

日常のちょっとした行動が冬バテ対策になる
冬バテの予防や対策としては、寒暖差をつけないよう工夫して、自律神経を整えることが重要です。外に出る際には近場でもマフラーや手袋で防寒対策をするのはもちろんですが、服装にもポイントがあります。
「コロナ禍なので、冬でも換気のために窓を開けている場所は多いでしょう。忘年会の会場などは、行ってみないと温かいかどうかわかりません。ですから、ホームパーティーにお呼ばれしたら寒さ対策にルームシューズを持参する、暑かったら脱げるような服装をするなど、こまめに体温調節ができるような格好をするのも大切です。

軽めのエクササイズを
寒くなると外で運動をするのが億劫になりますが、健康のためには冬こそ体を動かしたい季節です。
「寒い季節は筋肉が緊張して固まりやすいので、急に動かすと体を痛める恐れがあります。室内でできるヨガやストレッチなどで筋肉のコリをほぐす軽めのエクササイズがおすすめです。ゆったりとしたペースでできる運動を続けると、リラックスしている際に活発に機能する副交感神経が優位になります」
自宅にいても、お風呂場やトイレが冷えていると移動により温度差が生じてしまいます。入浴前に風呂場にシャワーを当てて温めたり、脱衣所やトイレにコンパクトなヒーターを設置するなど、暖房のある部屋との温度差を減らしましょう」

朝、目が覚めたらカーテンを開けて、しっかりと日光を浴びることも、冬バテ対策の一つです。
「日光を体で感じて、体内を活動モードへと切り替えましょう。日光はセロトニンの分泌をうながすほか、免疫力の維持に欠かせないビタミンDを生成したり、約16時間後にメラトニンという快眠につながる“睡眠ホルモン”を分泌するスイッチが入るといわれています」
年末年始は慌ただしくならないよう、無理のないスケジュールを組むことも健康を守る手段になります。
「50代前後の女性なら、バリバリと働いている方や、配偶者やお子さん、早い人はお孫さんまでいらっしゃいます。付き合いが多岐にわたるので、すべてのお誘いを受けていては疲れてしまいます。ときには断る勇気も必要です。“体調が悪いので、もしうつしてしまったら迷惑をかけてしまう”と、上手に断りましょう。
実際に、空気が乾燥する冬はインフルエンザなどの感染症や、ノロウイルスによる食中毒になりやすく、健康上のアクシデントがあると一気に体調が悪くなります。新型コロナウイルスも含めて、しっかりと対策してください」
◆教えてくれたのは:医学博士・健康科学アドバイザー・福田千晶さん

1988年に慶應義塾大学医学部卒業。医師として東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学科勤務を経て、1996年より、フリーランスの健康科学アドバイザーとしてテレビやラジオ番組への出演、執筆、講演などで活動。『そもそも血糖値ってなんですか?』『高たんぱく質レシピ151』 (ともに主婦の友社)、『危ない! 命を縮める健康法』(アントレックス)など著書・監修書多数。https://fukuda-chiaki.com/
取材・文/小山内麗香