役所広司さん(67歳)が主演を務めた映画『ファミリア』が1月6日より公開中です。吉沢亮さんらを共演に迎えた本作は、あらゆる差異を超えて「家族」になろうとする人々の物語。世界中で分断が加速する現代において、いま何が必要なのかを客観的に見つめた作品に仕上がっています。本作の見どころや役所さんらの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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さまざまなルーツを持つ人々が集まった骨太な“家族のドラマ”
本作は、映画『八日目の蟬』(2011年)や『いのちの停車場』(2021年)など、その年を代表する作品を次々と世に放ってきた成島出監督の最新作です。
2003年公開の監督デビュー作『油断大敵』、2011年公開の『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』に続き、役所さんとタッグを組むのはこれが3度目(ちなみに5月には4度目のタッグ作『銀河鉄道の父』が公開予定です)。今作では、さまざまなルーツを持った人々が集まり、話す言葉も生まれ育った環境も異なる者たちよる骨太な“家族のドラマ”を生み出しています。
主人公・神谷誠治を中心に交錯する想い
妻を早くに亡くし、山里で独り暮らしをしている陶器職人の神谷誠治(役所)。
その彼のもとに、アルジェリアに赴任中の一人息子の学(吉沢)がやってきます。難民出身のナディアと結婚した学は、ある想いを父に伝えるため、彼女を連れて一時帰国したのです。
誠治に対する学のある想いとは、この結婚を機にいまの仕事を辞めて窯元を継ぐこと。しかし、誠治はこれに反対します。
そんなある日、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年・マルコスが半グレ集団に追われ、彼らのもとに逃げ込んできます。誠治と学は救いの手を伸ばし、それから2人とマルコスらのコミュニティとの交流が始まることに。
日々は和やかに流れていくかに思えますが、半グレ集団は執拗で残酷。マルコスたちは追い詰められてしまいます。そのうえ、アルジェリアに戻った学とナディアを思いもよらない悲劇が襲うのです……。
演技派の手堅さと新人の瑞々しさによるアンサンブル
この映画は、役所さんを中心とした演技巧者が揃っている作品です。息子の学を演じる吉沢さんといえば、主演を務めた大河ドラマ『青天を衝け』(2021年/NHK総合)での好演がいまなお鮮明に残っているというかたかたも多いのではないでしょうか。
昨年は主演舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur』の出演で1年が始まり、主演ドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)と映画『ブラックナイトパレード』で幕を閉じました。まだ20代ながら、すでに“国民的俳優”の称号を手にしているといっても差し支えないでしょう。「家族」が主題の今作では主人公の息子役として物語の主軸との接点を持ちながら、何層にもなった社会問題を提起する役どころを担っています。
MIYAVIさんは半グレ集団のリーダーを凄みたっぷりに演じており、その過激さはスクリーンのこちら側にいる私たちさえも脅かすもの。しかし彼の執拗さと残酷さには理由があり、この理由をもMIYAVIさんは体現しています。
さらに、佐藤浩市さんが誠治の友人である刑事役を、松重豊さんが地元のヤクザを演じているほか、中原丈雄さん、室井滋さんらベテランの力が作品の根幹を支えています。