
冬場、空気が冷たく乾いていると、流行し始めるのが風邪。人間に限らず、猫も真冬は風邪を引きやすくなります。咳やくしゃみをしたり、鼻をぐずぐずいわせたり。今回は、いわゆる猫風邪について、原因や症状、治療法や予防法について、獣医師の山本昌彦さんに聞きました。
ウイルス感染や細菌感染から発症する
「猫風邪」は、風邪っぽい症状を呈する猫の病気の総称です。咳やくしゃみ、鼻水、目ヤニといった症状が出る病気全般を「猫風邪」と呼んでいます。ウイルスや細菌に感染し、免疫力や抵抗力が落ちていた場合などに発症するものです。
山本さんによると「代表的なのは、ヘルペスウイルスに感染して発症する猫ウイルス性鼻気管炎と、カリシウイルスに感染して引き起こされる猫カリシウイルス感染症」とのこと。この2つの病気は主に猫同士で、鼻汁や唾液などの分泌物を介して感染します。基本的に、人間には感染しません。
「他に、細菌感染やクラミジアによって猫風邪の症状が出ることもあります。猫風邪の主な症状は咳、鼻水、目ヤニ。ひどくなると、発熱したり、食欲が落ちたりします。カリシウイルス感染症の場合は口内炎になることもありますね」(山本さん・以下同)
ただ、「風邪」と呼ばれるだけあって、若齢であったり免疫力が過度に低下していたりしなければ死に至るようなことはめったにないとのことです。
猫風邪は常に蔓延している
重篤化しにくい猫風邪ですが、飼い主さんが認識しておくべきことが2つあると山本さんは言います。
「1つは、感染力が強くて、日本中どこでも蔓延しているということ。発症するかどうかは別にして、屋外で生活している地域猫などなら、ヘルペスウイルスやカリシウイルスに感染しているケースが多いと思います。拾ってきた子猫などは、体が小さく弱いので、すでに発症して目ヤニや鼻水で目鼻の周りがぐしゅぐしゅしていたりすることが多いと思います」

よって、先住猫がいる家に新しい猫を迎えたときに猫同士で接触して、先住猫に感染してしまうケースがあります。新しい猫を迎え入れるときには注意が必要です。また、飼い主さん家族が外で地域猫に接触して帰ってきた後なども注意が必要です。帰宅したら、愛猫に触れる前にまず手をよく洗いましょう。
「ブリーダーやペットショップでワクチン接種済みの猫を迎える場合には、猫風邪に罹っていることはないかと思いますが、野良猫を保護して飼い始める際にはしっかり注意する必要があります。発症していれば治療が済むまで、発症していなくても数日間は新しい猫と先住猫を一緒にしないようにしてください。猫を保護して飼い始める際に、動物病院を受診し、しっかり相談するとよいと思います」
ウイルスが体内に残って再発することも
もう1つ、飼い主さんが理解しておくべきことが、潜伏感染の問題です。
「ヘルペスウイルスなどに一度感染すると、猫の体内からそのウイルスが完全に排出されずに残留することが多いんです。治療の結果、ウイルスを抑え込むことができて症状が治まっても、何かのきっかけで再発することがあります。一度、猫風邪を経験した猫のことは、また風邪をひきやすい子だと思って気を付けてあげてください。
転居などで環境が激変してストレスがかかったときや、避妊・去勢や他の病気のために手術を受けたときなどは、免疫が低下しやすいので、要注意です」
治療は動物病院で対症療法を施す
猫風邪にかかったときの治療は、どのようにすべきでしょうか。
「まずは病院へ連れて行ってあげてください。病院では、抗生剤を注射薬や内服薬、点眼薬、点鼻薬の形で使ったり、インターフェロンを使ったりして対症療法を行います」

インターフェロンは抗ウイルス作用のあるサイトカイン。サイトカインは主に免疫系細胞から分泌される低分子のたんぱく質のことです。
「対症療法をして、ご飯をしっかり食べられるようになって、体力がつくと、ウイルスの増殖を抑え込むことができて、風邪が治ります。猫風邪は発熱までしなかったとしても、鼻づまりや口内炎のせいで食欲不振になる子が結構いるので、症状を抑えて食欲を取り戻すことは大切なんです」
猫風邪の対症療法に使う薬は市販されていないので、やはり動物病院を受診するのが基本です。人間の風邪薬は、猫には有害な成分も含まれているので、決して与えるべきではありません。
かかりつけ医と相談の上、なるべくワクチンを
猫風邪は感染症なので、予防にはワクチンが有効です。猫の場合は、犬の狂犬病ワクチンのように義務化されたワクチンはなく、接種しない選択をする飼い主さんも多いのだそうですが……。
「ワクチンを打たずに病気にかかって重篤になったり亡くなったりすると悲しいので、ワクチンは打っておいたほうがいいと思います。ワクチンで免疫をつけることで、感染症にかかりにくくなったり、かかっても軽症で済むようになったりします」
猫がワクチンを接種したときの副反応は「犬に比べても、総じて強くない印象」と山本さんは言います。
「もちろん個体差がありますし、体質もあるので、かかりつけ医に相談して接種するかどうか、どの種類を接種するか選択してください。猫の混合ワクチンは3種から5種のものがあり、ヘルペス、カリシは3種混合ワクチンに入っています。クラミジアは3種には入らず5種に入っています。ワクチンは午前中に打って、できれば午後は飼い主さんが仕事を休むなどして、何かあったときのために待機しておけると安心ですね」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
●犬や猫の寒さ対策を獣医師が解説 ブラッシングや加湿が有効、ホットカーペットは低温やけどに注意