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50代が太りやすく、やせにくいのはなぜか? 「栄養素」「食べ方」の問題を管理栄養士が解説

年をとるほどやせにくく、太りやすくなる理由とは?(Ph/photoAC)
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「太りやすく、やせにくい」──これは体質の問題というより、特に50代以降に訪れる体質の変化や生活習慣の影響が大きい、と管理栄養士で日本抗加齢医学会指導士の森由香子さんは指摘します。『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)を上梓した森さんに、50代からの健康的なダイエットに必要な「栄養素」「食べ方」のポイントについて聞きました。

どんな体型の人もやせにくくなる

「どんな体型の人でも50代に入ると、若い頃に比べてどうしても太りやすく、やせにくい体質になっていきます」という森さん。なぜ50代はやせにくくなるのでしょうか。

最大の理由は「基礎代謝」低下

「最大の理由は、基礎代謝の変化です。基礎代謝とは、生命を維持するために必要なエネルギー代謝のこと。実は1日の全エネルギー消費量の約60%をこの基礎代謝が占めます。そして私たちは、年齢とともに細胞の数が減り、機能低下が怒り、筋肉も減っていくため、基礎代謝がどうしても落ちていきます。“燃えにくい体”になっていくのです」(森さん・以下同)

そのため、30代でダイエットしたときと同じように食事量を減らしたところでやせなくなる半面、30代と同じ量(同じエネルギー量)を食べ続けたら、50代では太ってしまうのです。

女性が「つい食べ過ぎる」わけ

さらに女性の場合、「若い頃よりつい食べてしまう」人も少なくありません。

つい食べ過ぎてしまうのにも理由が(Ph/photoAC)
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「その原因は、女性ホルモンの低下にあるという説があります。女性ホルモンが十分に分泌されている間は比較的満腹感を得やすいのですが、更年期になると女性ホルモンが減って満腹感が得にくくなり、食欲が増すというのです」

また、50代は生活上の変化が生じやすい年代でもあります。

生活環境の変化も影響か

「更年期前後は、介護などの生活環境の変化もあるので、そうしたストレスが過食や太りやすさと関連しているとも考えられます」

太る人ほど栄養素が足りてない?

一方、中年以降にどんどん太っていく人もいれば、朝昼晩しっかり食べている割にはあまり太らない人がいます。森さんは、そこに「栄養素」や「食べ方」の問題があると指摘します。

太っている人に多い食事内容

「栄養指導で日々の食事内容を確認していると、肥満の人に共通する点がいくつかあります。まず、丼ものや混ぜご飯、麺類など炭水化物がメインの単品料理を多めに食べていて、主菜の肉や魚、副菜の野菜が不足している傾向があるいます。さらに間食もしがちで、おせんべいや甘いもの、菓子パンなどを食べていたりするケースが多くあります」

ビタミン、ミネラル不足が代謝を下げる

バランスよく食べてビタミン、ミネラルの補充を(Ph/photoAC)
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そうした食事内容では不足する栄養素があるといいます。

「食事全体のエネルギー量に占めるたんぱく質の割合が低いことが多く、脂質や糖質ばかりでお腹が満たしているため、たんぱく質だけでなく、ビタミン類、ミネラル類なども不足しています。

しかし、私たちが食事から摂った脂質や糖質、たんぱく質を燃やすには、ビタミンB群をはじめとするさまざまな栄養素が必要で、これらが足りていないとエネルギー代謝が円滑に進みません」

太る人と太らない人を分けるのは、「どれだけのエネルギー量を食べているか」ばかりでなく、「何を食べているか」「栄養素は足りているか」も重要なポイントなのです。

やせないのは「食物繊維不足」も

そうした栄養素の一つに、「食物繊維」も含まれます。

「ダイエットをしてもやせにくい人は、食物繊維が足りないのかもしれません。50代以降は、腸内細菌のバランスが崩れ、腸内環境が乱れてくる年頃です、しっかり食物繊維をとって腸を元気にし、短鎖脂肪酸ができるだけ減らないように心がけ、適正な体脂肪率をキープしましょう」

腸内細菌によって作られる短鎖脂肪酸には、胃腸の動きをゆるやかにする働きがあります。短鎖脂肪酸が体内に十分にあると、食事をしたときに食べ物がゆっくり胃腸を通過していくため、満腹感を得やすくなって、自然と食事の量が減ると考えられているそうです。

太る人に多い「食べ方」とは

クリニック勤務当時に4500人近くの患者の栄養指導を行った森さんは、それらの経験から「太っている人は食事の食べ方にある共通点がある」とわかってきたそうです。どんな共通点でしょうか。

食事のときに食べる順番が大事(Ph/photoAC)
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とにかく「ごはん」が好き

「太っている人のほとんどが、(食事を)炭水化物から食べているのです。その際には味の濃いおかずや“ごはんのお供”が欠かせず、さらにひと口の量が多いので、お茶碗のごはんがすぐになくなります。

おかずを食べ終わる前にごはんをお代わりし、最後に野菜を食べるが、残してしまいます。こうした食べ方を、後先考えずに無意識のうちに続けているのです」

和食や洋食、中華を問わず、どんなメニューでも、自分の食欲を満たすために自由奔放な食事を続けていたら、やがて太るのは当たり前かもしれません。

「おかずから先に」が食べやせの基本

基礎代謝が落ちて誰しもが太りやすくなる50代以降は、「食べ方」に注意が必要です。

おかずから先に食べる(Ph/photoAC)
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「お腹がすいていると、つい炭水化物から手を付けがちですが、空腹時に炭水化物を食べると、血糖値が急激に上がるため太りやすくなり、糖尿病や動脈硬化の原因になります。まずは、野菜か肉・魚などのおかずから先に食べる習慣をつけていきましょう」

これが、バランスのとれた食事を上手にとって体脂肪を落としていく「食べやせ」の基本なのです。

◆教えてくれたのは:管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士・森由香子さん

管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士の森由香子さん
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東京農業大学卒業、大妻女子大学大学院修士課程修了。医療機関での栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導、フレンチの三國清三シェフとともに病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを経験。抗加齢医学会指導士の立場からは〈食事からのアンチエイジング〉を提唱し、独自の食事法の普及に努めている。著書多数。2023年1月、『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)を出版。https://moriyukako.com/

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