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Chara「甘い歌声」の恍惚…「言語化できず持て余していた気持ち」を浮かび上がらせ、時に包み込んでくれることも

1997年の発売後、ミリオンセラーとなったChara『Junior Sweet』(リマスター版が2016年発売)
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1991年のデビュー以来、30年あまりにわたり数々の作品を世に送り出してきたChara(55歳)。オリジナリティ溢れる楽曲のみならず、強い存在感を放つファッションや生き方は、同時代を生きる女性たちから支持され続けています。そんな彼女の歌声を、ライターの田中稲さんは「まるで砂糖菓子のよう」と表現。でも単に甘いだけではないというCharaの魅力について、田中さんが綴ります。

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もうとっくに過ぎてしまったが、2月14日はバレンタイン・デーだった。己には関係ない記念日だとスルーしたが、もっと気軽においしいチョコを買って楽しめばよかった……。イベントは過ぎ去ってから「乗っときゃよかった」と思うものである。

しかも3月に入れば、お返し記念日、ホワイト・デーがやってくる。ぬうう、漂う恋の季節フレイバー。せめて甘い空気だけは楽しみたい!

ということで、前のめりで、チョコ、マシュマロ、キャンディを購入。しかも自分で食す! 記念日のセオリーとしてはいろいろ間違ってはいるが、いいのだ。ああ、口に入れただけでトロンと幸せが広がっていく、このスイートさよ。ちょっと知覚過敏にしみるのも、背徳的でいいよね……。

この感覚をそのまま声にしたら、一番誰がぴったりくるだろう? そう考えてみたとき、一番に頭の中で流れたのがCharaさんの声だった。

アルバム『Junior Sweet』との出会い

初めて買ったアルバムは、1997年にリリースされた5枚目のアルバム『Junior Sweet(ジュニア・スウィート)』。

きっかけは確か、CDショップの視聴ブースである。ジャケット写真に映るCharaさんの笑顔と、フォークロアチックなワンピースがカワイイ! そう思ってヘッドホンを手に取ったことを覚えている。

1曲目が『ミルク』で、美しくやさしいギターの音色がチロチロと鳴る。そして、とろけるような彼女の甘い声が、耳をくすぐってきた。

「甘い、こそばいっ!!」

あれこそ、お菓子の声であった。耳で砂糖菓子をなめて溶かす感じ。文章にするとヘンタイのようになってしまうが、感覚的にわかってもらえるとありがたい!

2曲目の『やさしい気持ち』は、私のイメージはベビーベッドの上でクルクル回るおもちゃ(ベビーメリーというらしい)の音楽だ。今聴いても、ニコニコ笑って手を伸ばす赤ちゃんがベビーベッドに乗り、オモチャが回るのを見ているシーンが思い浮かぶ。

タ行が「テャ・チィ・チュ・ティエ・チィヨ」になる甘ったるい発音。聞き取れない歌詞があっても、不思議と意味がちゃんと「届いてくる」響き。彼女の歌声はすべてが独特で、音楽を聴いているというより、なにか科学で解明できない自然現象を受け止める感覚にさせられる。

ああ、赤ちゃんが胎内でお母さんの歌を聴いているときって、こんな感じかもしれないなあと思うのだ。

“終わり”を感じる名曲『タイムマシーン』

こりゃスゴイと思って購入したアルバム『Junior Sweet』だが、ヘビーローテーションという訳にはいかなかった。『しましまのバンビ』とか、タイトルもなんてかわいいんだろう! そう思って夢見心地で聴いていたら、5曲目で『タイムマシーン』がドカンと来るのだ。

淡い光に包まれている中で、何かの「終わり」を告げられているようで、ゾワッとくる。この曲は浸透力があり過ぎて、聴く時期を間違えると心の「入るな危険ゾーン」までジワジワ侵入し、眠れなくなってしまうのである。同じ声なのに、ユートピアにもディストピアにも連れていかれる。それがCharaボイス!

「Charaの歌声はすべてが独特」(写真は2006年、Ph/SHOGAKUKAN)
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吐息交じりでキュンキュンにどこまでもガーリー。でも、突然ダーク。何気に甘いチョコレートやキャンディを食べていたら、ウィスキーの蜜や、苦いコーヒーヌガーが中からドロリと出てきてギョッとする、あの感覚と似ているかも。

ただ、私はこの「終わりを感じる系」が嫌いなわけではない。頻繁に聴けないだけで、猛烈に聴きたくなる周期は定期的にやってくる。なんだろう、あの絶望感とともに味わえる、クセになる恍惚は……。

しかも、『タイムマシーン』がリリースされた1997年は特に、この系の名曲が多い。中谷美紀 with 坂本龍一の『砂の果実』、globeの『Wanderin’ Destiny』、Coccoの『強く儚い者たち』、山崎まさよしの『One more time, One more chance』、米良美一の『もののけ姫』など、なにかが消えていくようなイメージが、すさまじい美しさを放っている。

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