大物アーティストのデビュー50年が重なった2022年。ライター田中稲さんが今回取り上げる三人組「アリス」もそのひとつ。『チャンピオン』『冬の稲妻』『遠くで汽笛を聞きながら』などのヒット曲で知られ、ソロ活動も華々しい彼らの歩みを、懐かしエンタメ通の田中さんが自身の思い出とともに振り返ります。
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「50周年」──。文字にするのは簡単だが、長い。なんたって半世紀だ。私は53歳だが、50年ただ生きるだけで必死のヘトヘトである。それをずっと第一線で多くの人に音楽で幸せにし続けるなんて。そのパワーと努力、尋常じゃない!
前回の郷ひろみさんに続き、日本を代表するフォークグループ、アリスも50周年を迎える。谷村新司さん、堀内孝雄さん、矢沢透さんという骨太なトライアングルが、苦い記憶も素晴らしい栄光も、ガツンと腹に響くサウンドにして脳内に蘇らせる。郷愁とプライドが絡み合い、ジンジンと心を照らす。嗚呼、活動を続けてくれてサンキューゥ! 最高だぜオーラーイッ! (書きながら時々堀内孝雄さんの物真似をしています)。
『チャンピオン』の衝撃
アリスとの出会いは今でも鮮明に覚えている。小学生の時、遊びから帰って来たら、父がレコードで『チャンピオン』を聴いていたのだ。
ジャンカジャンカと攻めるように激しく鳴るギター。唸りに近い歌声から繰り出される「立ち上がれ!」「血に染まった」などの攻撃的かつハードボイルドなワード。低い声で響く「ヨー・キン・キングス!」(そう聴こえた)という激シブな英語の呟き!
ノンキな子どもだった私でも、ただならぬ曲の迫力に「戦い」を感じた。レコードジャケットを見ると、薄暗い扉のところで集まっているオジサン3人の写真。そして、その姿と声からは程遠い「アリス」という可愛いグループ名にもう一度ビックリした。
後々この楽曲は、実在するボクサー・カシアス内藤さんを応援した歌だと知った。なるほど! いくらパンチをもらっても立ち上がるリアル感は、モデルがいるからなのか。ボクシングをしている人の多くは、もちろんこの曲に勇気をもらっているだろう。格闘技が大好きだった父もきっと、レコードでこの曲を聴き、自分を鼓舞していたのだと思う。
そして私も今や、神様からドカドカとパンチをもらいまくる人生のボクサー……。年を取るごとに、この歌への共感と感動は深まるばかりだ。心の奥に残る、ほんの少しの意地と負けん気を、何度も何度も引っ張り出してもらっている。