アクション俳優ミシェル・ヨーとの共鳴
「弁護士か? ミシェル・ヨーでは?」
第1話、ケンカが強く、大きな男たちを倒していくミランを見て、駆けつけた刑事がこうつぶやいていた。ミシェル・ヨーは、現在上映中の映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)や『クレイジー・リッチ!』(2018年)などに出演しているアクション俳優だ。
アクションシーンに監督のこだわり
このドラマには、ラブコメディ作品にも関わらずアクション監督がついている。監督キム・ジョンクォンは、「武侠映画やノワールでは見せられない、アクション自体がロマンスというシーンを演出したかった。 だからこそ、主人公たちがアクションの練習をしながら気持ちが通じ、理解し合うようになる瞬間には特に気を遣った」と話しているそうだ(「恋愛嫌いな男女の壮絶バトル!キム・オクビン×ユ・テオのラブコメ「その恋、断固お断りします」がアツい」MOVIE WALKER PRESSより)。「ミシェル・ヨー」の名前を出すほど、ミランたちのアクションにはこだわりを持っていることがうかがえる。
そのミシェル・ヨーは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』についてのインタビューで、彼女が演じた主人公について「日常にはこういった平凡な女性がたくさんいて、彼女たちはそれぞれ母親、祖母、叔母……として家庭の犠牲になり、いつだって軽んじられてきた。だから、この映画は彼女たちを照らす絶好のチャンスだと思ったのです」と話している(「60歳でキャリアの絶頂を迎えるミシェル・ヨーが今、思うこと」Vogue Japanより)。
また、別のインタビューでは「私はいつも、女性はお互いに力を与え合うべきだと信じてきました。女性は賢いんです。そして、わきまえません。そうあることを恐れてはいけないんです。」と語った(「ミシェル・ヨーが語る映画『エブエブ』。主人公エヴリンは「チームワーク」と「アジア・フェミニズム」でできている。」GINZA webより)。
「ミシェル・ヨーでは?」と言われたミランと同じように、彼女自身も、女性が家庭や社会に軽んじられてきたことへの憤りを感じていた。このシンクロニシティは、どこまで制作の意図したものだったのだろうか。(余談だが、韓国ではミシェル・ヨーを本名の韓国語呼びである「ヤン・ジャギョン」で呼んでいるのだと、このドラマを見て初めて知った)。
お酒を飲みたくなってくる
ところで、ミランやガンホ、ウォンジュン、そしてミランのルームメイトのシン・ナウン(コ・ウォニ)たちは、よくお酒を飲んでいる。接待で飲むこともあるが、ふたりだけの親密な時間を楽しんだり、不安な夜にはわざとはしゃいでゲームをしながら飲み、互いの心を慰め合ったりする。そのお酒の飲み方を見ていると、自分もお酒を飲みたくなってくる。
飲酒のシーンはどれも印象的だが、ミランの誕生日にガンホとふたりで居酒屋で焼酎を飲んだ場面は、彼らがお互いに心の読み合いをしている。心の声のすれ違いが可笑しい。また、落ち込んだウォンジュンがナヨンを誘い、屋台のような店で飲む場面。イケメンすぎるウォンジュンを警戒する気持ちと、心配する気持ちがせめぎ合うナヨンの葛藤と、素直にナヨンに甘えられないウォンジュンがもどかしい。
ずらりと並んだビールグラスの上に、これまたずらりと並んだ焼酎のグラス。ミランが焼酎グラスを蹴ってドミノ倒しのようにしてつくる「爆弾酒」は、韓国好きのお酒好きには盛り上がりポイントだ。宴会芸のしょうもなさに笑いながら、韓国焼酎が恋しくなる。
改めてミランとガンホの名前を見る。「ヨ・ミラン」と「ナム・ガンホ」。名字の「ヨ」と「ナム」は韓国語で「女」と「男」の意味も持っている。出会ったことでいい影響を与えあったふたりは、世の中の「ヨ」と「ナム」の変化していく姿を象徴している。
ゲラゲラと笑い、キュンキュンしながら気軽に見られるこのドラマ。でも、腰を据えて見ようと思えば、たくさんの仕掛けやこだわりが隠されている。作品に散りばめられたたくらみを探すため、何度も見たり思い返したりしたくなるドラマだ。
Netflixオリジナルシリーズ『その恋、断固お断りします』
演出:キム・ジョンクォン
脚本:チェ・スヨン
出演:キム・オクビン、ユ・テオ、キム・ジフン、コ・ウォニ
アクション監督:リュ・ヒョンサン
音楽監督:HowL
制作:ビンジワークス
◆ライター・むらたえりか
ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。