
主人公が高校時代に受けた壮絶ないじめのシーンで幕を開けるNetflixオリジナルシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~。衝撃のパート1(第1~8話)に続き、3月10日に一斉配信したパート2(第9~16話)は、配信開始翌日には世界視聴ランキング「TOP10」テレビ番組で3位にランクイン、韓国をはじめ日本、香港、メキシコ、インドネシア、サウジアラビア、ナイジェリアなど26か国・地域では1位を獲得(主要動画配信サイトのランキング情報を提供するフリックスパトロールによる)。話題沸騰中の韓国ドラマを、韓国留学経験を持ち、韓国のドラマや映画などに詳しいライター・むらたえりかさんが紹介します。(レビューはネタバレを含みます)
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母親たちの姿に注目
ソン・ヘギョ、イ・ドヒョンらが出演するドラマ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』のパート2が、3月10日からNetflixで一斉配信された。
2022年12月に配信開始したパート1(第1~8話)では、ソン・ヘギョが演じる主人公のムン・ドンウンが高校時代に受けた壮絶ないじめのシーンが話題となった。ドンウンをいじめていたのは、同級生のパク・ヨンジン(イム・ジヨン)、チョン・ジェジュン(パク・ソンフン)、イ・サラ(キム・ヒオラ)、チェ・ヘジョン(チャ・ジュヨン)、ソン・ミョンオ(キム・ゴヌ)の5人だ。
ドンウンは、いじめ被害がもとで高校を自主退学することになる。一方、大人になったヨンジンたちは気象キャスターやアパレル会社の社長、アーティスト、客室乗務員などになり、夢を叶えた生活を送っていた。身体も心も傷ついたドンウンは、彼らへの復讐計画を立て、それを実現させるべく動きはじめる。大学の先輩であり医者のチュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)は、ドンウンの復讐計画をサポートしようと名乗りをあげる。
パート1では、ドンウンの復讐に動揺した加害者たちがお互いを疑うようになる。そして、加害者グループのひとりが消息を絶ったところでパート2に突入した。復讐はさらに深みに入っていく。

いじめリーダー・ヨンジンの母親、ホン・ヨンエ
『ザ・グローリー』パート2で注目したいのは、母親たちのさまざまな姿だ。
いじめ加害者グループのリーダー的存在であるヨンジンは、裕福な家庭の生まれ。貧困家庭育ちのドンウンやユン・ソヒ(イ・ソイ)、キム・ギョンラン(アン・ソヨ)らに目をつけて、いじめを繰り返していた。成長して気象キャスターになったヨンジンは、建設会社の社長、ハ・ドヨン(チョン・ソンイル)と結婚し、娘のイェソル(オ・ジユル)をもうけた。
小学生のイェソルは両親を尊敬していて、将来はヨンジンと同じ気象キャスターになりたいと無邪気に言う。しかしイェソルはドヨンの子ではなかった。ドンウンはその事実を利用して、ヨンジンと周囲の人々の関係を破壊していく。

「なぜ持たざる者は、勧善懲悪や因果応報を信じるんだろう」
復讐を成し遂げようとするドンウンに、ヨンジンはこう言った(第9話)。
かつて、ヨンジンの母親、ホン・ヨンエ(ユン・ダギョン)は、警察に勤めている同級生のシン・ヨンジュン(イ・へヨン)にお金を渡し、娘のいじめを隠ぺいさせたり、ドンウンを退学させたりしてきた。幼い頃から母親とお金に守られて生きてきたヨンジンは、悪いことをしても、それを自分が背負うことはないと思っている。いじめは過ぎたことだし、弱い者はいくら頑張っても弱いままだと考えているのだ。
人に憧れられる仕事をし、お金持ちの夫と結婚した、美しいヨンジン。彼女は、悪いことをしたこどもを叱らずに、弱い者やお金で動く者にその罪を背負わせる力のある母親・ヨンエによって、自分の罪と向き合えない母親になっていた。

ヒョンナムおばさんが守った母親の尊厳
若く美しいヨンジンとの対比のように、「おばさん」と呼ばれる母親も登場する。夫のソ・ヨンジェ(リュ・ソンヒョン)にDVを受けていたカン・ヒョンナム(ヨム・ヘラン)だ。ヒョンナムは、娘のソナ(チェ・スイン)を夫の暴力から逃がすために、ドンウンの復讐に協力する。
ヒョンナムおばさんは自己犠牲の人だ。ソナを守るためならなんだってする。ドンウンと出会い、夫を殺すと決めてからはますます強くなっていく。けれど、何もかもを諦めた人ではない。

復讐計画の途中、ヒョンナムおばさんはドンウンから赤い口紅をプレゼントされる。それまで必要以上のかかわりを拒否していたドンウンからの、思いがけない贈り物だ。夫から暴行を受けながら、彼女はこう叫ぶ。
「私はもう、あんたが怖くない! 赤い口紅も塗る!」
赤い口紅を塗ると、顔が華やぎ、顔色も良くなったように見えた。暴力によって奪われていた強さと美しさを、口紅が取り戻した。それは、彼女が自分の人生を生きる力を表現するためのアイテムに見えた。

ヨンジンは、ヒョンナムがドンウンに協力していることを突き止める。暴力夫のヨンジェに金を与えていたヨンジンは、「おばさんも罰を受けなきゃね」と笑って去っていく。その後、帰宅したヨンジェはヒョンナムを殴り続ける。
「罰を受けなきゃね」と言われたヒョンナムの表情は怯えているようだ。だが、ヨンジンの脅しは、ヒョンナムには効いていなかった。強い心を得た母親は、自分の名誉と尊厳を守り抜いた。ヒョンナムの存在は、ドンウンの協力者というだけではなく、タイトルの『ザ・グローリー』の意味をさらに際立たせるものだということに気づく。

死の尊厳を守る母親、無力を認める母親
高校時代、ドンウンがいじめのターゲットになる前にも、いじめの被害者はいた。それがソヒ。ろうあ者の母を持ち、貧困家庭に育つソヒは、転校したあと、命を失ってしまう。ソヒの母親は自殺ではないと主張し、娘の名誉を重んじて遺体の引き取りを拒否し続けている。
酷い母親だと誹られようともなぜ遺体を引き取らないのか。ろうあ者の彼女には、言いたいことが十分に伝わっていないもどかしさや怒りもあったはずだ。大切な娘を遺体安置所に置いたままで、悲しくないわけがない。それでもソヒの名誉を守ろうとしていた彼女も、強い母親だ。

ドンウンの協力者であるチュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)の母親パク・サンイム(キム・ジョンヨン)は、ヨジョンが復讐に加担すると知りながら、それを黙認する。表には出さないが、家族を殺した男、カン・ヨンチョン(イ・ムセン)を彼女も憎んでいた。
大切な息子の手を汚させたいはずがないが、サンイムは息子の悔しさを理解し、復讐について見て見ぬふりをする。本当にヨジョンが危ういときには「ヨジョンを助けて」とドンウンに頼む。自分の無力さを知っているからこそ、サンイムはドンウンを頼れたのではないか。こどもに対して無力な自分を認めることも、母親の強さである。

また、忘れてはならないのが、ドンウンが暮らしていたアパートの管理人のおばあさん(ソン・スク)のこと。彼女は物語が終盤に差し掛かるまで、名前も明かされず「管理人さん」「おばあさん」として存在している。けれど、パート1の最初からずっとドンウンの「住む場所」を守っていたのが、このおばあさんだった。
なぜ、おばあさんはドンウンに優しくし続けたのか。それがただの同情などではなかった。ぜひ、最終話でそのセリフを聞いてほしい。
復讐する「罪」に主人公をどう向き合わせるか。作品によってそれは違う。『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』においては、このおばあさんの存在が「復讐の罪」が際立たせている。

脚本家であり母親であるキム・ウンスク
『ザ・グローリー』には、酷い母親も登場する。ドンウンの母親、チョン・ミヒ(パク・チア)は、ドンウンが苦しむのを見て笑うような人だ。また、ヨンジンの母親、ヨンエは、ヨンジンを可愛がっているようで、自分の保身だけを考えている人だということが、窮地に立たされたときに明らかになる。
ミヒとヨンエは、どちらも娘にとっては害のある母親だったと言える。母親たちにどう向き合い、何を決断したかが、ドンウンとヨンジンの行く先をわけた。
脚本家のキム・ウンスクは、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016年)や『ミスター・サンシャイン』(2018年)を手掛けるヒットメーカーだ。彼女は、高校2年生になる娘との会話のなかで、学校で起こる暴力の話に触れて、『ザ・グローリー』を仕上げていったのだそうだ。娘がいじめを受けることを心配したキム・ウンスクに対して、娘のほうは「もし自分が校内暴力をしたら」という仮定の話をはじめたのだという(朝鮮日報 2022年12月20日による)。
被害者になることは想像しても、加害者側になる可能性は忘れがちだ。娘の話を聞いて、自分が加害者側ならと考えていたことが、『ザ・グローリー』に多様な母親たちが登場するきっかけになっているのではないだろうか。

Netflixオリジナルシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』
演出:アン・ギルホ
脚本:キム・ウンスク
出演:ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン 他
制作:ファエンダムピクチャーズ、スタジオドラゴン
◆ライター・むらたえりか

ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。https://twitter.com/eripico___
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