ヒョンナムおばさんが守った母親の尊厳
若く美しいヨンジンとの対比のように、「おばさん」と呼ばれる母親も登場する。夫のソ・ヨンジェ(リュ・ソンヒョン)にDVを受けていたカン・ヒョンナム(ヨム・ヘラン)だ。ヒョンナムは、娘のソナ(チェ・スイン)を夫の暴力から逃がすために、ドンウンの復讐に協力する。
ヒョンナムおばさんは自己犠牲の人だ。ソナを守るためならなんだってする。ドンウンと出会い、夫を殺すと決めてからはますます強くなっていく。けれど、何もかもを諦めた人ではない。
復讐計画の途中、ヒョンナムおばさんはドンウンから赤い口紅をプレゼントされる。それまで必要以上のかかわりを拒否していたドンウンからの、思いがけない贈り物だ。夫から暴行を受けながら、彼女はこう叫ぶ。
「私はもう、あんたが怖くない! 赤い口紅も塗る!」
赤い口紅を塗ると、顔が華やぎ、顔色も良くなったように見えた。暴力によって奪われていた強さと美しさを、口紅が取り戻した。それは、彼女が自分の人生を生きる力を表現するためのアイテムに見えた。
ヨンジンは、ヒョンナムがドンウンに協力していることを突き止める。暴力夫のヨンジェに金を与えていたヨンジンは、「おばさんも罰を受けなきゃね」と笑って去っていく。その後、帰宅したヨンジェはヒョンナムを殴り続ける。
「罰を受けなきゃね」と言われたヒョンナムの表情は怯えているようだ。だが、ヨンジンの脅しは、ヒョンナムには効いていなかった。強い心を得た母親は、自分の名誉と尊厳を守り抜いた。ヒョンナムの存在は、ドンウンの協力者というだけではなく、タイトルの『ザ・グローリー』の意味をさらに際立たせるものだということに気づく。
死の尊厳を守る母親、無力を認める母親
高校時代、ドンウンがいじめのターゲットになる前にも、いじめの被害者はいた。それがソヒ。ろうあ者の母を持ち、貧困家庭に育つソヒは、転校したあと、命を失ってしまう。ソヒの母親は自殺ではないと主張し、娘の名誉を重んじて遺体の引き取りを拒否し続けている。
酷い母親だと誹られようともなぜ遺体を引き取らないのか。ろうあ者の彼女には、言いたいことが十分に伝わっていないもどかしさや怒りもあったはずだ。大切な娘を遺体安置所に置いたままで、悲しくないわけがない。それでもソヒの名誉を守ろうとしていた彼女も、強い母親だ。
ドンウンの協力者であるチュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)の母親パク・サンイム(キム・ジョンヨン)は、ヨジョンが復讐に加担すると知りながら、それを黙認する。表には出さないが、家族を殺した男、カン・ヨンチョン(イ・ムセン)を彼女も憎んでいた。