大切な息子の手を汚させたいはずがないが、サンイムは息子の悔しさを理解し、復讐について見て見ぬふりをする。本当にヨジョンが危ういときには「ヨジョンを助けて」とドンウンに頼む。自分の無力さを知っているからこそ、サンイムはドンウンを頼れたのではないか。こどもに対して無力な自分を認めることも、母親の強さである。
また、忘れてはならないのが、ドンウンが暮らしていたアパートの管理人のおばあさん(ソン・スク)のこと。彼女は物語が終盤に差し掛かるまで、名前も明かされず「管理人さん」「おばあさん」として存在している。けれど、パート1の最初からずっとドンウンの「住む場所」を守っていたのが、このおばあさんだった。
なぜ、おばあさんはドンウンに優しくし続けたのか。それがただの同情などではなかった。ぜひ、最終話でそのセリフを聞いてほしい。
復讐する「罪」に主人公をどう向き合わせるか。作品によってそれは違う。『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』においては、このおばあさんの存在が「復讐の罪」が際立たせている。
脚本家であり母親であるキム・ウンスク
『ザ・グローリー』には、酷い母親も登場する。ドンウンの母親、チョン・ミヒ(パク・チア)は、ドンウンが苦しむのを見て笑うような人だ。また、ヨンジンの母親、ヨンエは、ヨンジンを可愛がっているようで、自分の保身だけを考えている人だということが、窮地に立たされたときに明らかになる。
ミヒとヨンエは、どちらも娘にとっては害のある母親だったと言える。母親たちにどう向き合い、何を決断したかが、ドンウンとヨンジンの行く先をわけた。
脚本家のキム・ウンスクは、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016年)や『ミスター・サンシャイン』(2018年)を手掛けるヒットメーカーだ。彼女は、高校2年生になる娘との会話のなかで、学校で起こる暴力の話に触れて、『ザ・グローリー』を仕上げていったのだそうだ。娘がいじめを受けることを心配したキム・ウンスクに対して、娘のほうは「もし自分が校内暴力をしたら」という仮定の話をはじめたのだという(朝鮮日報 2022年12月20日による)。
被害者になることは想像しても、加害者側になる可能性は忘れがちだ。娘の話を聞いて、自分が加害者側ならと考えていたことが、『ザ・グローリー』に多様な母親たちが登場するきっかけになっているのではないだろうか。
Netflixオリジナルシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』
演出:アン・ギルホ
脚本:キム・ウンスク
出演:ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン 他
制作:ファエンダムピクチャーズ、スタジオドラゴン
◆ライター・むらたえりか
ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。https://twitter.com/eripico___
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