
「脳の霧」という意味の「ブレインフォグ」。頭がモヤモヤして記憶力や集中力の低下がみられ、新型コロナウイルスの後遺症の一つとしても注目されている症状です。そこで、漢方にも詳しい管理栄養士の小原水月さんにブレインフォグの原因やセルフケア方法、改善のためによいとされる食材や漢方薬について教えてもらいました。
ブレインフォグとは? 症状をチェック
ブレインフォグとは病名ではなく、症状をさす言葉です。頭に霧がかかったようにモヤモヤする症状の他に、ボーっとする、日中の眠気、集中力の低下、考えがまとまらず混乱する、物忘れが増える、言葉に詰まるなどの症状をさします。
ブレインフォグの原因ははっきりとしていませんが、加齢や過労、ストレスなどで血管が収縮して血流が悪くなり、脳に酸素や栄養が十分に行き渡らないことや、脳疲労による脳機能の低下が原因の1つではないかと考えられています。

たとえば、スマートフォンやパソコンの長時間の使用は、短時間に大量の情報が脳に入り、脳は情報処理が追い付かず疲弊します。その結果、機能低下を起こし、ブレインフォグがあらわれる可能性があります。
また、人間関係や体調の不安など精神的なストレスが長期間かかり続けると自律神経のバランスが乱れ、脳疲労を招きます。これもまた、ブレインフォグを引き起こすケースとなります。
ブレインフォグを改善するセルフケア
ブレインフォグを改善するためには脳に疲労をため込まず、速やかに機能を回復することが重要です。そのために行いたいセルフケアを紹介します。
睡眠を見直す
睡眠時間の不足は脳の機能回復を遅らせてしまいます。目覚ましなしでスッキリと起きられる程度の睡眠時間を確保しましょう。

また、十分な時間を確保できない場合は特に、就寝前にスマートフォンを見ることをできるだけ避け、綿や麻など着心地のよい寝具を身に着けるなど、睡眠の「質」の向上を意識することが有効です。
リラックスする習慣をつける
リラックスすると自律神経の副交感神経(体の機能を抑制させる神経)が優位になり、活発になり過ぎた交感神経(体の機能を活性化させる神経)を抑えることができます。
ゆっくり動く、ゆっくり話をする、ゆっくり食事をするだけでも副交感神経を優位にすることができます。
正しく水分補給をする
脳細胞の機能を維持するための栄養を運ぶ血液は約90%が水分で構成されているため、脳を健やかに保つには水分が欠かせません。水分摂取の目安量は、栄養素のように摂取基準値が設けられていないので、排泄などで失われる水分量から必要な摂取量を考えるといいでしょう。
1日に排泄される水分量は約2.4リットルです。あくまでも目安ですが、平均的な食事からは約1.1リットルを摂取でき、栄養素がエネルギーになるときに「代謝水」が約0.3リットル体内で生成されます。

そのため、飲料水からは約1リットルを摂取すれば、自然に排泄される約2.4リットルを補うことができます。これを基準に運動で汗をかいた日や気温が高く汗ばむ日などは、意識的に水分を摂るようにしましょう。
ただし、水分の必要量は気温や体格などの条件でも変化するため、各個人による調整が必要です。(公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」(https://www.tyojyu.or.jp/net/)“水は1日どれくらい飲めば良いか”より)
ブレインフォグの改善におすすめの食材
ブレインフォグ対策におすすめの食材は、4〜6月に旬を迎えるグリーンアスパラガスです。グリーンアスパラガスに含まれる「グルタミン酸」はうま味成分として有名ですが、実は、副交感神経の働きを高めるためリラックス効果が期待できます。

また、グリーンアスパラガスの色素成分の「ルチン」には毛細血管を丈夫にし、血流をスムーズにする働きがあり、脳機能を維持するための栄養の運搬を支えてくれます。
うま味成分は単独よりも、組み合わせることで強くなる性質があるため、グルタミン酸と他のうま味成分を一緒に摂ることで、より副交感神経の働きを高めやすくします。たとえば、グリーンアスパラガスをそのまま食べるのではなく、「イノシン酸」を含む肉と合わせた肉巻きや、「グアニル酸」を含むキノコと一緒にソテーにして食べるとより効果的です。

うま味成分以外に酸味も副交感神経を活性化させる働きがあるため、酢や梅干し、柑橘類などを料理にとり入れると、ブレインフォグの改善に役立ちます。
ブレインフォグの悩みには漢方もおすすめ
ブレインフォグの対策には、「血流を整えて脳の働きをよくすることで脳の老化を抑える」「消化・吸収機能をよくして疲れをとる」「自律神経を整えてストレスを緩和する」といった働きのある生薬を含む漢方薬を用いて根本改善を目指します。
漢方薬による体質改善によって、記憶力や集中力の低下だけでなく、疲れにくく、ストレスに強い体を手に入れることができます。

ブレインフォグでお悩みの人におすすめの漢方薬2つ
・釣藤散(ちょうとうさん)
「気(き)」(エネルギー)の流れを整え、体にたまった熱を冷ますことで、血圧を下げるとともに、自律神経を整える漢方薬です。肩こりやめまい、頭痛に用いられます。
・桂枝人参湯(けいしにんじんとう)
体を温め、胃腸の機能を高めることで冷えを解消し、痛みに働きかける漢方薬です。頭痛や動悸に用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。