裏を読み合うダークな選挙戦
ドヒとギョンスクの選挙戦では、ジェミンや、当選最有力候補と言われているソ・ミンジョン議員(チン・ギョン)との裏の読み合い、足の引っ張り合いがダークでハラハラが止まらない。
イスルへの過ちを省みることもなく、票のために市民の暮らしをかき乱すジェミン。ミンジョンも「政界では人の命は軽い」と言い放ち、自分に協力した女性のファス(キム・ソニョン)の命を踏みにじろうとする。
ドヒは、選挙戦に必要なものは「お金、組織、スター性」の3つだと言っていた。ジェミンとミンジョンの周りでは、当選のために大きなお金や人の命が簡単に動く。実際の政治や選挙戦で同じことが起こっていたらと想像すると、ゾッとすることばかりだ。
ジェミンやミンジョンのような候補者たちだけでなく、彼らに影響される市民たちも描かれていく。
ジェミンは「大衆はパフォーマンスに弱い」と言っていた。労働者の権利を守るためにギョンスクと一緒に戦っていた市場の人たちは、ジェミンが弁当を配ったり、市場の再開発を約束したりすると、ギョンスクを見限ってジェミンを支持してしまう。また、インターネットに候補者を馬鹿にする動画がアップされれば、それがどんなに侮辱的な内容でも、一緒になって馬鹿にして盛り上がる。捏造された情報を信じて、嘘を拡散したり、ポスターや看板を壊したりする。
候補者たちの思惑どおりにあっちへこっちへと揺れ動く大衆の様子は、単純で面白い。けれど、候補者に舐められている彼らのなかに自分もいるのかもしれないと想像すると、これもまたゾッとしてくる。
他のものに自分の姿を見てゾッとしているのは、ドヒも同じだ。ドヒは、性暴力被害を告白したイスルを追い詰める。学費のために、過去の一時期だけバーで働いていたことを「水商売で稼いだ」と言い換え、それが公表されてもいいのかと脅した。
性暴力が事実だと確信したドヒは、イスルの件の責任はジェミンにあると告げる。ジェミンは「室長、それはひどい。水商売の子でしょう?」と言い返す。ジェミンの言葉で、ドヒは自分がイスルにどれだけひどいことを言ったのかを自覚することになる。
また、キジ撃ちをするヨンシムと話していたときもそうだ。レジャーのために撃たれて死んだキジを、口を血だらけにした犬が咥えて帰ってくる。ヨンシムの足元に死んだキジを届ける犬を見たドヒは、その様子から目が離せなくなる。人が死んでも「成果」としてヨンシムに報告してきた自分の姿を、その犬に見たのだろう。
自分がしてきた愚かな行為からは逃げられない。それを受け入れて、どう償っていくのかを、ドヒが見せてくれる。