“肉体派スター”同士の衝突が生む強固な緊張感
主演の岡田さんといえばアクションに定評があり、日本でも随一の肉体派俳優だと言えるでしょう。放送中の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)では人間離れした新たな織田信長像を立ち上げて注目を集めているところですが、映画『ザ・ファブル』シリーズに『燃えよ剣』(2021年)、『ヘルドッグス』(2022年)など、近年の主演映画にはほとんどすべてアクションの要素が密接に絡んでいます。主演俳優でありながら、共演者のアクション指導を担当している事実なども、彼を肉体派俳優だと呼べる根拠になっているのです。
一方の綾野さんもまた、非常に高い身体能力を持った俳優です。それらは映画『るろうに剣心』(2012年)や『武曲 MUKOKU』(2017年)、同じくアクションを得意とする佐藤健さんとスピード感あふれる一騎打ちを繰り広げた『亜人』(2017年)に見られますし、藤井監督がメイン監督を務めたドラマ『アバランチ』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)で激しい格闘シーンをいくつもこなしていたのが記憶に新しいところです。
本作にみなぎる緊張感は、物語の展開が生むものだけではありません。“肉体派スター”同士の衝突もまた、強固な緊張感を生んでいるのです。
コミカルな岡田准一とシリアスな綾野剛――その細部に注目
本作の見どころは“肉体派スター”同士のぶつかり合いだけではありません。物語そのものには、これでもかというほどにギミックが施されていますから。スタートからゴールへと向かって、この2人の俳優としての新しい一面だって見えてくることでしょう。
現在の岡田さんは、先述しているように大河ドラマ『どうする家康』の織田信長役でお茶の間をにぎわせているところ。その姿はまるで“魔王”のようです。ところがこの『最後まで行く』で演じる工藤はその正反対とも言える人物。いろいろと問題のある刑事であり、とにかく間が悪く、とことんツイていない。作品の中心に堂々と鎮座している信長役とは違い、声にしろ表情にしろ、徹底的に“小物”的な存在を表現することに徹しているのです。それはときに観客の笑いを誘うものでもあるでしょう。
対する綾野さんは、どこまでも冷徹な人物をシリアスに演じています。観ていて驚かされたのは、彼の表情の豊かさです。“豊かな表情”と言えば普通は、喜怒哀楽がくるくると変わるものを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、本作での綾野さんは違います。演じる矢崎はいつだって自らの感情を抑圧しているような人物。それなのに、怒りの感情を抑えても抑えてもあふれ出てくるから怖いのです。
自身を取り巻く状況に翻弄されているのは工藤だけではありません。それは矢崎も同じ。変化する環境に対して露骨に反応していくさまを表現する岡田さんとは違い、綾野さんは顔の一部の筋肉を操作することでそのときどきの心情を示しています。彼の“性格派俳優”ぶりを見せつけられるというものでしょう。本作は彼ら2人の対照的なパフォーマンスを堪能することができるのです。