
50歳前後の女性は自覚があるなしにかかわらず、更年期に差し掛かる年齢です。そして、夏は更年期症状の一部が強く出てしまう可能性があるといいます。医学博士で産婦人科医の高尾美穂さんに、夏の更年期を健康に過ごすアドバイスをもらいました。
夏に更年期症状が増幅する可能性も
そもそも、女性の更年期とはどんな期間なのでしょうか。
「更年期は月経が完全になくなる“閉経”をした年の前後5年、計10年間をさします。閉経する年齢は個人差がありますが、平均すると50歳前後であり、仮に閉経が50歳だとすると、45~55歳が更年期にあたります。
更年期を迎えると卵巣機能が低下して、女性ホルモンの分泌量が不安定になるため、体調に著しい変化が起こります。症状は多岐にわたり、ほてりや汗だくになるホットフラッシュ、不眠、冷え、肩こり、疲れやすい、イライラする、不安になるなど、心身に影響を及ぼします」(高尾さん・以下同)

自律神経のバランスの乱れも
日本の夏は高温多湿で、汗をかいたり寝苦しくなったりする季節です。
「自律神経の働きが不安定になることも更年期症状のひとつです。そこに夏の暑さによる不調が同時に重なると、ホットフラッシュや疲れなどの更年期症状が増幅する可能性があります」
猛暑や冷房による寒暖差で自律神経を調整する脳の視床下部に負担がかかると、機能が落ちてしまいます。自律神経の調整が乱れて交感神経がたかぶっている状態が続くと、発汗やほてりが治まりにくい状態になりかねません。
夏の更年期を乗り越えるカギは自律神経
夏の不調、更年期の不調は、ともに自律神経を整えることが改善の鍵になりそうです。
「自律神経活動を活発にするには、意識的に心拍数を上げるような運動がおすすめです。汗ばむ程度のウォーキングを定期的に行うことで、交感神経と副交感神経のスイッチがスムーズになり、体温調整がうまくできるようになります」

睡眠の質を上げるために昼間は体を動かす
運動により肩こりや腰痛などの緩和も期待できるので一石二鳥です。また、昼間しっかりと体を動かすことは、睡眠の質を上げる効果もあります。
「きちんと眠るためには、起きている昼間の過ごし方がとても重要です。私は朝からヨガをして、通勤には自転車を使い、昼間も活動的に動いています。日中に体を動かすことで、夜ぐっすりと眠れるようになりますよ。起きてから夜眠るまでに一度も眠気を感じることなく過ごせたら、前日の夜に充分な睡眠がとれた証です」

睡眠の質は、エアコンの温度調整や寝具の見直しなどをして、睡眠環境を整えることでも向上します。
「上半身だけほてるのであれば、保冷剤をタオルで包み、首に巻いてみる、胸のあたりに当ててみる。自分の気持ちいい方法を探してみるのも大事な工夫です。寝汗の不快感で夜中に目覚めた場合には、こうこうと電気をつけて着替える方もいますが、明るさを落とした中で着替えを済ませて、速やかに布団に戻りましょう。トイレも同様です。すぐに寝直すことができれば、睡眠の満足度はそこまで下がりません」
家族の理解も重要
ホットフラッシュは夜間にも起きるので、夏の寝汗は暑さだけが原因ではないかもしれません。更年期の睡眠トラブル対策も、健康維持の大きなポイントです。
「生活の中で取り入れられること、改善できることをすべてしても更年期症状がつらい場合は、がまんをせずに婦人科に相談してください。ホルモン補充療法も検討してみましょう」

更年期の症状は、どんなにつらくても外からではわかりにくいものです。「いつもイライラしている」「なまけている」と誤解されてしまうこともあるでしょう。
「更年期は不調が起こりやすいのだと身近な人、特に家族に理解してもらうことが大切です。体調が悪い時には家事を代わってもらうなど、頼れる人がいると精神的にも肉体的にも楽になります」
◆教えてくれたのは:医学博士・高尾美穂さん

愛知県出身。イーク表参道副院長。産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者としても女性の健康を支えている。著書に『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など多数。https://www.mihotakao.jp/
取材・文/小山内麗香