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俳優・生田斗真の「個性を打ち消すパフォーマンス」「抑制の利いた新鮮な演技」 主演映画『渇水』で見せた新境地

俳優・生田斗真の新境地がここに

生田さんといえば俳優として、常に最前線を走り続けてきた存在です。ですが演じる役の傾向としては、キャラクター性の強いものが多かった。例えば、『土竜の唄』シリーズ(2014-2021年)や『予告犯』(2015年)、『秘密 THE TOP SECRET』(2016年)など、彼が主役を務めた作品はいずれもマンガ作品が原作です。

スクリーンデビュー作である『人間失格』(2010年)は言わずと知れた太宰治による傑作文学を映画化したものですが、これまた主人公・大庭葉蔵という人物がかなりクセのあるキャラクター。演者本人の個性が立っていなければ、役は成立しないでしょう。つまり、生田さんがこれだけキャラクター性の強い人物を演じてこれたのは、彼自身に固有の個性があったからです。

映画『渇水』場面写真
(C)「渇水」製作委員会
写真10枚

けれども今作で演じている岩切は、これまで演じてきたキャラクターたちとはまったく違います。表情というものはほとんどなく、目に光がなければ声にも覇気がない。生田さん自身の個性も打ち消すようなパフォーマンスに、彼の俳優としての新境地が垣間見えます。

私たちの心情を代弁

言ってしまえば岩切とは、とても地味な人物です。ただ規則に従い、受動的に生きている人間ですから。本作のほかの登場人物たちが感じているであろう気持ちと同じで、彼はあくまでもただの水道局職員でしかない。生田さんの抑制の効いた演技は新鮮です。

しかしそんな岩切がある瞬間、能動的にアクションを起こします。それはままならない現実に対するささやかな抵抗の意志の表れ。彼の言動は、同じ現代社会を生きる私たちの心情を代弁するもののように感じます。

映画『渇水』場面写真
(C)「渇水」製作委員会
写真10枚

かといって生田さんのパフォーマンスは熱演に陥るものではありません。あくまでも受動的に生きていた頃の岩切の人生と地続きです。まさに栓が外れて水が溢れ出すように、“内なる叫び”を体現しているのです。

水=他者との繋がり

本稿では、主演の生田さんをはじめとする俳優陣の魅力について主に書いてきましたが、この映画は芸術作品としてもとても優れています。日照りが続いているはずなのに、岩切らが住む街には光が差しません。モチーフとして扱われる「水」は、他者との繋がりを表象しています。水道料金を支払わない人々は、そこにいかなる理由があったにせよ、社会から排除されてしまうのです。いかなる理由があったにせよ、です。

映画『渇水』場面写真
(C)「渇水」製作委員会
写真10枚

主人公・岩切のアクションは、これに異議を唱えるもの。社会で「当たり前」とされている規範に収まることのできない人々は確実に存在します。この渇ききった世界の中で、もっと想像力を働かせ、生きてみる。繋がっているようで、あちこちで断絶が起きているのがいまの社会です。岩切の姿は、きっとあなたの心に一滴の水を与えてくれることでしょう。

※高橋正弥監督の「高」は正式には「はしごだか」。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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