吉岡里帆が群像劇の中心に
吉岡さんといえば、凶悪犯を追う盲目の女性を演じた『見えない目撃者』(2019年)や、男社会の中でアニメーターの頂点を狙う女性を演じた『ハケンアニメ!』(2022年)など、社会が作り上げたある種のシステム性の中で奮闘する女性主人公を多く演じてきた印象があります。
けれども本作は少し、いや、だいぶ趣が違います。作品のタッチやトーンだけでなく、物語を展開させるほとんどの登場人物が女性だからです。
とはいえ、その背景にはもちろん男性の存在する社会が屹立している。それが覆いかぶさっている。その中で、女性たちは女性たちによる新しい連帯のかたちを形成する物語を紡いでいるのです。この中心に吉岡さんが立っているのを必然だと思うのは筆者だけでしょうか。
ありのままに変化していく女性像を体現
この物語に登場するキャラクターたちは誰もが個性的ですし、特別な人間関係を築いているかもしれません。ですがそこには“誇張”のようなものが存在しない。個々が流れに身を任せて変化していきます。つまり、彼女たちが生きているのは私たちの社会と地続きというわけです。
いくら趣向を凝らした映画表現の中だとはいえ、そんな環境を表現するのは簡単なことではありません。座組が一丸となるだけでやれるものでもない。これを率いる存在が必要なわけです。つまりはそれが吉岡さん。私たちの身近にいそうなキャラクターを自然体で体現しながら、それでもやはり、観客の鑑賞に耐えうる“物語の登場人物”を演じているのです。それは彼女の視線やふとした仕草、セリフの言い淀みなどから感じられることでしょう。
この世界で私たちは常に誰かと関わり合っている
本作が描いているのは、複数の女性たちの物語です。そう、女性たちの物語です。けれども私たち観客は彼女たちの背後に、また別の誰かの存在を感じることでしょう。この“実感”がなければ社会というものは成り立たないのではないかと思います。
女性たちの関わり合いの中やその外側に、また別の関わり合いがある。これが社会というものなのでしょう。この“社会”に彼女たちや私たちがどう向き合っていくのか。これが本作の描く核のように思います。みなさんはいかがでしょうか。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun