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鈴木京香の怪演が話題 『御手洗家、炎上する』で見せた姿はどこが「とんでもなくすごい」のか?

Netflixシリーズ「御手洗家、炎上する」場面写真
Netflixシリーズ「御手洗家、炎上する」独占配信中
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7月13日よりNetflixにて独占配信中の『御手洗家、炎上する』が、熱い注目を集めています。Netflix内の「今日のTV番組TOP10(日本)」にもランクイン。攻めに攻めたシーンの連続はもちろんのこと、主演の永野芽郁さん(23歳)が“復讐劇”を果たそうとする役どころで新境地を切り開いたこと、そして何よりその復讐対象である役を務める鈴木京香さん(55歳)の怪演ぶりが「とんでもなくすごい」ことが大きな理由でしょう。まさに大人の女性俳優の“こんな姿が見たかった”作品といえますが、そんな「大人の女性俳優」について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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そもそも、「大人の女性俳優」とは何なのか。これをどう表記するのが最適なのか迷ったのですが、平成生まれで若輩者の筆者からすると、鈴木さん世代の俳優は確実に私よりも多くを知り、多くを経験している人生の先輩。そういった意味で、便宜的に「大人の女性俳優」と表記したいと考えたしだいです。

Netflixシリーズ「御手洗家、炎上する」ポスタービジュアル
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さて、藤沢もやしさんの同名マンガを原作とした『御手洗家、炎上する』が描くのは、先述しているように“復讐劇”です。ざっくりとしたあらすじはこんなもの。

代々病院を経営する御手洗家は、13年前に自宅兼病院が全焼するという事件がありました。台所での母の火の不始末が原因とされ、燃え上がる家の前で彼女が父に土下座をしているところを長女の杏子(永野芽郁)は目の当たりにしていました。

Netflixシリーズ「御手洗家、炎上する」場面写真
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その後、母は娘たちを引き取り離婚することになるのですが、杏子はあの火事を前に笑みを浮かべていた渡真希子(鈴木京香)の存在が気にかかり、彼女が放火したのではないかと疑いを深めます。なぜなら彼女は杏子の父と再婚をし、華々しい変身を遂げるから。やがて年齢を重ねた杏子は“御手洗真希子”の真相を暴くため、家政婦として御手洗家に潜入するのです――。

鈴木京香の圧巻の業は誰もが息を呑むもの

全8話からなる本作の大半が、杏子の視点を通して描かれます。火事の真相については未見のかたのためにも触れないでおきますが、真希子が御手洗家を乗っ取ったのは紛れもない事実。シングルマザーとして2人の息子を懸命に育てていた彼女は、富も名声も力も手に入れます。なので、“渡真希子”と“御手洗真希子”はまるで別人です。

Netflixシリーズ「御手洗家、炎上する」場面写真
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当然ながら鈴木さんの演技も趣を異にしたものになる。“渡真希子”は視聴者の多くがリアルな人物だと受け取るのではないかと思いますが、芸能人のように持て囃される“御手洗真希子”は違う世界の住人のよう。鈴木さんの語調は鋭く自信に満ち溢れていて、立ち振る舞いにも洗練されたものを感じます。“渡真希子”と“御手洗真希子”は鈴木さんが演じる同一人物ですが、両者間には非常に大きな振れ幅があるわけです。

すべてのエピソードで鈴木さんのパフォーマンスに圧倒されるのですが、特に凄まじいのが物語のクライマックス。素性を明かした杏子に真希子が追い詰められるシーンです。

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狼狽するさまをどうにか隠そうとしながら、真希子は平静を装い抵抗を試みます。が、どれだけ杏子の追及をはねのけようとも、次から次へと証拠を突きつけられる。鈴木さんの痙攣するような表情やいまにも裏返りそうな声は、不意に真希子の中に生じた不安を示しています。それでも絶対的な自信を保とうと、彼女の表情も声もすぐさま通常のものに戻ります。けれども、杏子のさらなる追及に畳み掛けられる。激しいスピードで真希子の自信と不安とを往復し、その一つひとつをつぶさに表出させてみせる鈴木さんの業は圧巻。誰もが息を呑むものでしょう。

「大人の女性俳優」たちの主演作が見たい

本作『御手洗家、炎上する』は、多くのものを奪われた女性(杏子)の復讐劇である一方、多くのものを手にして新たな人生を歩もうとする女性(真希子)の物語だともいえます。

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筆者はこの作品に触れてみて、鈴木さんが体現する真希子像に心を惹かれました。褒められるような人間ではないとはいえ、自分の人生というものを自ら生み出そうとしているからです。いくつになったって自分の人生を歩んでいい。このような人物に筆者は惹かれますし、このような人物の物語がもっと見たい。ひるがえってこれは、自分の人生を歩む女性主人公の物語が見たい、ということでもあります。

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現在の日本の映画やドラマでは、鈴木さん世代のかたが主役を演じる作品があまりにも少ない。たとえば大企業を舞台にしたものや時代劇など、男性俳優が主役の作品は数多くありますが、女性俳優が主役の作品はとても限られています。これは実社会において、いまだ女性の活躍の場が限られていることの反映であり、証明だともいえるでしょう。

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10代や20代の女性俳優には主役を演じる機会が多くありますが、年齢を重ねていくうちに主人公の「お母さん」や「妻」などのような特定の役割を担うポジションばかりが増え、“自分の人生を歩む女性主人公の物語”は減少していく。

鈴木さんと近い世代の女性俳優でアクティブな活動を展開しているかたは数多くいます。『御手洗家、炎上する』関連でいえば、主人公・杏子の母を演じる吉瀬美智子さん(彼女は比較的、主役級の役どころを演じる機会の多いかただと思いますが)や、「みたらい病院」の看護師長を演じる濱田マリさん、真希子の義姉の一人を演じる片岡礼子さんなど、あらゆる作品を支えることに貢献し続けている人々です。

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バイプレーヤーである彼女たちがより主体性を持った役どころを務める作品が、その姿が、もっと見たい。需要があればその機会は増えるはずですし、そもそもいまのこの時代に需要がないはずはないでしょう。これは常日頃から思っていたことですが、鈴木さんの怪演によって誕生した御手洗真希子と出会い、よりいっそう思いが強くなったのです。

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◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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