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夫婦が会話で衝突しないための秘策 帰宅前の玄関で3回つぶやくべきたった2文字の言葉  

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子さん
黒川伊保子さんが夫婦の「会話の壁」を乗り越える秘策を教えてくれた
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「在宅問題」「不倫問題」など数ある「夫婦の壁」。中でも最も大きな壁は、「会話の壁」だと話すのは、脳科学コメンテイターで人工知能研究者の黒川伊保子さん。8月上梓した『夫婦の壁』が話題を呼ぶ黒川さんに、壁を乗り越える秘策を聞きました。

夫婦の壁の中で一番大きな壁は「会話」

「妻は共感してほしくて愚痴を言っているのに、夫は共感どころか問題解決のため余計なアドバイスをしてしまう。その結果、夫婦関係がこじれる――こうしたケースはとてもよく耳にします」と、黒川さん。

「何か嫌なことがあったとき、女性の多くは、“事のいきさつ反芻派”と言い、あの時何がいけなかったのか、ああすればよかった、などと頭の中でぐるぐると反芻します。その反芻を止める唯一の手立ては、共感してもらうこと。『それ嫌よね、わかるわー』って言ってもらったら、その晩、寝られるんです。

だから共感してもらうために、嫌な出来事を話すわけですが、問題解決型の脳をしている男性は問題解決する以外に答えがないので、『いや君も、ああすればよかったんじゃないの』などと余計なアドバイスをして、怒りを倍増させてしまう」

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子さん
共感してほしいだけでアドバイスはいらない
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50代を過ぎると男女で「共感型」「問題解決型」が逆転

ただし、必ずしも女性が共感型、男性が問題解決型とは限らないそう。

「女性でも仕事をしていれば問題解決型の人は多いです。特に50代半ばでお互い生殖期間が終わると、男女が反転し、女性が問題解決型になりがち。『何の話? 結論から言って』みたいに。

実際、うちの夫婦の場合、外で働いている私が問題解決型で、既に定年退職して家事をして過ごす夫は共感型。家事をやってるとどうしても共感型になってしまうようです」

共感を忘れてしまうことも…

黒川さん自身、つい先日こんなことがあったそう。

「私が出張前でバタバタしているとき、夫から『こんな天気じゃシーツが乾かないよね~』と言われたんです。そこで条件反射的に、『うちには浴室乾燥機もあるし近所のコインランドリーには大型乾燥機があるんだから、問題ないでしょう』と返したら、『いや、もう乾かしたんだけどさ~』と、夫。一体何が言いたかったの?とイライラしました。でもあとから考えると、夫は共感してほしかったんですね。

普段、取材や講演で『相手の話には共感を!』と強調している自分が、肝心な時に共感できず、問題解決型になってしまうなんて…。反省しました」

玄関のドアを開ける前に「共感」と3回つぶやく

夫婦が言葉の壁を乗り越えるためのルールは、ただ一つ。

「相手の話は必ず共感で受けて、自分の話は問題解決型で進めることです。

相手が問題解決型であっても、共感されて悪い気はしません。『そうよね、大変よね。でもそれってさ、コインランドリーに行くっていう手があるよね』というように。とはいえ、私はとっさに“共感脳”に切り替えられず、相手の意図をつかめなかったわけですから、思っていても実行するのは難しいですよね」

そこで黒川さんが提案するのが、外から帰ってきたとき、ある習慣をつけること。

「人間の脳は、共感型と問題解決型、どちらかしか使えない仕組みになっています。だから、問題解決型が立ち上がっているときは、共感型の気持ちが一切わからない。

ではどうするか。“切り替えの術”です。

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子さん
外から帰ってきたら脳を「共感」に切り替える
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男性であれ女性であれ、外で働いてきた人は、家に入る前に『共感』という言葉を3回つぶやくこと。口に出すことで、『共感脳』に回路を切り替えるんです。

玄関の扉を開けた瞬間に、『今日もさ~、息子が全然宿題しないの~』など、いろいろと愚痴が飛んできます。その時、とっさに『それは困ったね』と共感ができるように」

「共感脳」は子供に対しても有効

「共感脳は、子供に対しても有効」だと、黒川さんは続けます。

「男女問わず、自分の子供に対しては、結構問題解決型の言葉を投げかけてしまいがち。例えば、『宿題やったの?』は問題解決型の質問。『まだやってないよ~』と言われとき、『どうしてなの?』と返すのも問題解決型。

聞きたくなるのはよくわかりますよ。もちろん宿題に関しては、問題解決しないわけにはいかないですよね。

でも、そこをぐっと我慢して、『じゃあ今からやろうか』『宿題やだよね、面倒くさいよね。でもがんばろう』といった相手に寄り添う言葉がけを意識したいですね」

親が「共感脳」だと、子供が大きくなった時、恋人とのコミュニケーションの壁に悩む確率も低くなると、黒川さんは考えます。

「共感型の声がけは、経験しないとできません。『どうして宿題しないの?』『早く寝なさい』と言って育ててしまうと、そういう口の聞き方をしてしまう男性に育ってしまいます。男性同士ではなかなか共感型の会話はマスターできないので、親から伝授して、パートナーに使ってもらえれば、息子の恋愛は長続きするでしょう(笑い)。そういう意味では親がやり方を教えてあげるつもりで共感していきたいですね。え、なかなかできない? それならぜひ、子供が玄関のドアを開けた瞬間、『おかえり』の前に『共感』を3回つぶやいてください」

とにかく家族の会話は、一に共感、二に共感、三四がなくて五に共感。これで夫婦の壁のみならず、親子の壁も乗り越えられる…かもしれません。

◆教えてくれたのは:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子
人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子さん
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1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。

取材・文/桜田容子 撮影/浅野剛

黒川さんの新著『夫婦の壁』