
親の資産がどのくらいあるか把握していますか? 親の死後に知らなかった資産や負債が見つかると、遺産相続でもめたり、扱いに困ったりしてしまうことになりかねません。『一生お金に困らない!新・お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)の著者で元メガバンク支店長でもあるお金の専門家・菅井敏之さんから、資産について知っておくべき理由や親と話すときのコツを教えてもらいました。
* * *
親の資産を知らないことのデメリット
子どもにお金の心配をかけたくない、株式投資で失敗したのを知られたくない、アテになる資産があるとわかると子どものためによくない、など親が子どもに自分のお金の話をしない理由はさまざまあるといいます。
負債とは借金だけに限らない
しかし、もし親が突然倒れたりしたら、医療・介護費や葬儀費などに加えて、住宅や車のローンなど、これから支払いが発生する「負債」も引き継がなければいけなくなる可能性があります。
また、知らなかった資産が見つかった場合、相続でもめる可能性があるだけでなく、負債として引き継がざるをえないこともあるのです。
「親がなくなってから、親の土地が何か所かあるとわかった知人がいます。しかし、どれもほとんど価値のない土地で買い手がつかず、いまだに放置したまま毎年の固定資産税を払いつづけています」(菅井さん・以下同)

親に危機管理意識がないケースも多い
兄弟姉妹が相続をめぐって骨肉の争いをしてしまうのは親の責任だと話す菅井さんは、親に危機管理の意識がなさすぎるケースを銀行員時代にたくさん見てきたそうです。
「生前、自分の資産をオープンにして、『オレはこう考えている』と子どもたちにちゃんと伝えておけば、争いを回避できたケースがたくさんあります」
親の死後、困らないために知っておくべきことは、どのくらいの価値のあるものがどれだけあるのか、そして負債がどれだけあるのかということです。

資産は、現金、預金、株式、投資信託などの「金融資産」と土地や家などの「不動産資産」に分けられます。現金や預金と違って、今の価値がわからない不動産などは、不動産会社に問い合わせれば教えてもらうことができます。
「負債」(=借金)については、短期の少額ローンも含めて、総額を出しましょう。そして、資産から負債を引いた額が“純資産”となります。
親の資産を守るのは子の役目
近年頻発している「オレオレ詐欺」などは、高齢者の持っている「金融資産」を狙った犯罪です。また、詐欺に限らず、“うまい話”による失敗から親を守ることにもつながります。
「また、『狙う』というと怒られるかもしれませんが、金融機関、とくに銀行は、金融資産からなんとか収益を得ようと、熱心に誘いをかけてきます」

銀行は親の貯蓄や退職金がいついくら入ったかなど、まとまったお金がどのくらいあるのか、たまにしか連絡を取らない子どもよりも詳しく知っています。「そして、『販売のプロ』が何時間も親の相談にのっているかもしれないのです」と菅井さん。
「財産を『アテ』にしていると思われたらイヤかもしれませんが、子は、親の経済状態や資産内容などをきちんと把握し、親の資産を彼らから『守る』必要があります。親の資産が狙われ、減ってしまってからでは、あとの祭りなのです」
「エンディングノート」を活用して絆を深め、資産も知る
では、どのようにすれば、親から自然とお金の話を引き出すことができるのでしょうか。その方法として菅井さんが提案するのが、「エンディングノート」です。
「エンディングノートといえば、人生が終わるときに備えて高齢者が書くものというイメージをお持ちかもしれません、しかし、まだまだ若いうちに活用したっていいんです。私だって50歳くらいから、積極的に活用しています」
まずは自分がエンディングノートを書いて親に見せることで、親にも書いてもらいやすくなるのだそうです。

人生を振り返りながらエンディングノートを書く
書店や文房具店で売っているエンディングノートを購入したら、「預金」「保険」「不動産」など、資産を書き込む欄に注目しましょう。ここに現状の金額を記入します。
「病気や、介護が必要になったときの対応、葬儀の希望などを書くページは、夫婦で話し合ってもよいですし、『自分の考えを整理する』ためにとても役立ちます」
また、資産内容に変更があった場合は、その都度書き直していきます。誕生日など、定期的に見直す日を作るのもよいでしょう。自分史や家系図を書くページもあるので、人生を振り返りながら楽しんで書くのがいいそうです。
自身のエンディングノートが親にも書いてもらうきっかけに
こうして、自身の資産や考えをまとめたエンディングノートを親に見せれば、それをきっかけに親にも書いてもらうことができるでしょう。
子どもが自分の誕生日にエンディングノートを親に見せ、『「これまで育ててくれてありがとう」といえば、喜ばない親はいないでしょう」と菅井さん。
「自分の子がエンディングノートを書いてきたら、親は『えっ!まだ若いこいつが書いたのか』と、かならずギョッとしますよ。そして、『しょうがない。オレも書くとするか』という気持ちになるのではないでしょうか」
しばらくしたら、さりげなく「書いてみる?」とエンディングノートを渡します。2~3か月放っておいて、親がペンをとろうとしなければ、「手伝ってあげるよ。まず、自分史のところはどう?」と申し出てみてください。

最初から資産の項目ではなく、まずは親のヒストリーを聞くのがポイントです。記者になったつもりで話を聞き、それを記入していきます。
「実はこれ、最高の親孝行なのです。親からすれば、自分の過去輝かしい思い出や苦労話を聞いてもらえるのは、とてもうれしいことです」
エンディングノートを活用することで、よりよいコミュニケーションをはかることができ、その結果として親の経済状況を知ることができれば、一石二鳥なのです。
◆教えてくれた人:菅井敏之さん

すがい・としゆき。1960年、山形県生まれ。学習院大学卒業後、1983年に三井銀行(現・三井住友銀行)へ入行。個人・法人取引、およびプロジェクトファイナンス事業に従事し、2003年に金沢八景支店長(横浜)、2005年に中野支店長(東京)に就任する。48歳で銀行を退職したのちアパート経営をスタートし、現在は10棟80室のオーナー。銀行を舞台にしたテレビドラマの銀行監修を務めるほか、報道・情報番組などのメディアにもお金の専門家として出演している。著書『お金が貯まるのは、どっち!?』シリーズ(アスコム)はシリーズ52万部を突破。https://toshiyukisugai.jp/