人生100年時代を迎え、多くの人がひざの痛みや歩行のトラブルを抱えています。60代から急に増える「変形性膝関節症」という病気は代表例といえるでしょう。加齢とともにひざの軟骨はすり減り、歩くときに痛みが出たり、歩けなくなったりと健康寿命に大きく影響します。「軟骨は、一度すり減ったら戻らない。自力では戻せない……」と言われることもありますが、自力で治すことも可能だといいます。どんな方法をとればいいのでしょうか。ひざ関節を専門とする整形外科医の巽一郎さんの著書『痛みが消えてずっと歩ける 100年ひざ』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成して紹介します。【前後編の後編】
* * *
ひざの関節軟骨と半月板の中央の薄い部分には神経や血管がありません。
つまり「あ、すり減った」「しまった、裂けた」と気づいたり、すぐに痛みを感じたりするようなことはないのです。
そして、血管がないということは、指を切ったときのように「炎症→痛み→患部に血が集まる→線維で覆う→修復」のサイクルで速やかに治らないということです。この特徴のせいで「軟骨は再生しない」という誤解が生じたのかもしれませんね。
しかし、軟骨も日常的に損傷・修復は行われています。血管はなくても、必要な栄養補給や代謝のルートはちゃんとあるからです。
血管の代わりにはたらいているのは「関節包」という関節を包む袋の内側の膜、「滑膜」です。滑膜の細胞から関節包内の関節液が分泌され、軟骨細胞に栄養を補い、不要な老廃物を引き受けてくれます。
この栄養・代謝を促すには、関節を動かして、関節包を伸ばしたり縮めたりして滑膜に刺激を与えることが有効です。つまり、ずっとじっとしているのもあかん、のです。
これはからだのどこの関節も同じで、骨折などした場合になるべく早くリハビリテーションを行うのは、関節軟骨の栄養や代謝を促すためにも大事なことです。それを怠ると骨はくっつきますが、関節が固まってしまいます(関節拘縮)。
具体的には、関節軟骨の栄養・代謝を促すには、関節包(その袋の裏側を張っている滑膜)を伸び縮みさせ、滑膜細胞に刺激を与える運動が効果的です。これは、僕が大阪市立大学整形外科に入局したときの教授だった山野慶樹先生が考案し、論文も書かれた方法でそれを僕なりに改良したのが、「足放(あしほう)り体操」です。
手で脚をかかえ、太ももの筋肉は脱力した状態で、手で放り出すようにして振り出すのがより有効なやり方です。
脚に力が抜けた状態で放ると、スリッパを履いていたら、気持ちよくスリッパが飛んでいきます。
ひざから下(下腿といいます)を腕の力で30回放ると、滑膜が伸び縮みします。関節の間隔も広がり、関節液が軟骨をうるおしてくれます!