
ランチの後、しばらくして「眠くなる」「だるくなる」。あるいは十分に食べたはずなのにすぐに小腹が減る、集中力が途切れる、イライラする、首の後ろがずんと重くなる──。こんな症状が出ている人に対して警鐘を鳴らすのは、北里大学北里研究所副院長・糖尿病センター長で『糖質疲労』の著者、山田悟医師。山田さんは食事をとった後に、血糖値の上がり幅が大きい「食後高血糖」、その後に急激に血糖値が下がる「血糖値スパイク」の影響で、食後に感じている体調不良を「糖質疲労」と名づけています。
糖質疲労の段階ではまだ病気とは言えず、今すぐに薬を飲む必要があるわけではないものの、放置しておくと、いずれドミノ倒しのように糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症に至る可能性があるといいます。血糖値スパイクを招くランチ習慣をご存じですか? 『糖質疲労』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けします。
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糖質疲労を助長する「糖質かぶせランチ」
私がその昔──糖質制限の概念がまだ時代的に科学的証明が不十分で、私自身がカロリー制限や脂質制限を信奉していた頃です──やせたいと思ったときに選んでいたランチが、「おにぎりと野菜ジュース」「ざるそばと食後のそば湯」といったメニューでした。また、私自身はやったことはありませんが、コンビニのレジに並ぶ列でよく見かけるのが「おにぎりとスープ春雨」というメニューです。

昔の私も含め、本人は真摯に、健康によい選択をしたつもりでも、これは逆効果なのです。
なぜならこれらのメニューは完全な「糖質かぶせ」だからです。ダブル炭水化物ともいわれるようですが、ここでは食物繊維も含む炭水化物という表現を避け糖質の重ね食いを「糖質かぶせ」という言葉で表現しています。
野菜ジュースも糖質たっぷり
おにぎりは白米ばかりで糖質が栄養素のほとんどですし、野菜ジュースも同様です。ざるそばやそば湯も栄養素のほとんどが糖質です。春雨は緑豆でんぷんが原材料であり、やはり栄養素のほとんどが糖質です。春雨としらたきは似ているようで非なるものなのです(しらたきは糖質量が極めて少ない食材です)。
「炒飯&ラーメンセット」も糖質かぶせという点で同じです。
「炒飯&ラーメンセット」は「おにぎりと野菜ジュース」よりもたんぱく質と脂質が追加されているという点ではましかもしれませんが、糖質かぶせという点では同等であり、食後高血糖(糖質疲労)を予防するにはブレーキとしての力が不足していることでしょう。
「そばならOK」は誤解だった
そばやそば湯は糖質が多くて食後高血糖を招くと私がいうと、驚く方が多いのです。それは、そばが低GI食品として有名だからでしょう。

GIとはGlycemic Index(グライセミック・インデックス)を省略した言葉です。GIは食品中の炭水化物がどれだけ血液中のブドウ糖の量を上げるかを示す数値であり、50gのブドウ糖を基準(100)として表現します。低いほど血糖値を上げにくいことを意味し、GI値が55以下だと低GI食品とされます。
そばのGIは54とされ、主食(穀類)としては、確かにGIの低い食材です。
しかし、こんな研究結果があります。(1)高糖質・高GI食、(2)高糖質・低GI食、(3)低糖質・高GI食、(4)低糖質・低GI食の4種の食事を食べた場合の食後の血糖値の上昇具合を見ると、もっとも血糖値を上げたのは(1)高糖質・高GI食でしたが、その次に血糖値を上げていたのは(2)高糖質・低GI食でした。一方、(3)低糖質・高GI食と(4)低糖質・低GI食では、(3)低糖質・高GI食のほうが血糖値を上げていましたが、その差はわずかでした。
要は、糖質摂取が多いときにはGIの多い少ないに意味がある(血糖値上昇に差異を作る)ものの、低糖質にする方がGI値にかかわらず食後高血糖を食い止める力が大きいということです。別な表現をすれば、そばは低GIであっても、糖質摂取量が多ければ血糖値を上げてしまうということです。その意味で、そば+そば湯には大きな問題があるのです。
そばを食べるなら直前に卵焼きや野菜サラダを
ただ、どうしてもそばを食べたい、という方もいらっしゃるでしょう。そうした方には、ぜひ、たんぱく質や脂質の力で血糖値上昇を抑えることをお勧めします。
まずは、朝食でしっかりとたんぱく質と脂質を摂取しておき、さらに、ランチにおいても、そばの前にたんぱく質の豊富な卵焼きや脂質たっぷりのドレッシングをかけた野菜サラダを食べておくことで、ある程度食後高血糖の予防になります。この食べ方でそばランチの後に感じていた昼下がりの眠気がなくなったなら、大成功ですね。

なお、「とろろそば」は健康的なイメージがありますが、とろろ芋が糖質豊富なので糖質かぶせになることはお知りおきください。せめて鴨南蛮か天ぷらそばにしておいたほうがましというものです。
また、低GI食と同様に取り入れられることがあるのが、「白い食べ物=白米や精製された砂糖など」をやめ、「黒い食べ物=玄米や未精製の黒砂糖など」に変えるという食べ方です。
見た目が黒や褐色ならばヘルシー。多めに食べても大丈夫。そんなイメージを抱く方もいらっしゃるようです。確かに、褐色の部分に食物繊維が存在していることが多く、若干の血糖値上昇抑制作用があるかもしれません。しかし、先ほどのGIと同じで、糖質量が多ければ、その血糖値上昇抑制作用は不十分となります。
玄米は白米にない栄養がとれることは確かですから、玄米がお好きな方は玄米にしていただいてよいのですが、糖質量を意識する必要があるという点は白米と同じであることをご認識いただければと思います。
◆教えてくれたのは:北里大学北里研究所病院糖尿病センター長・山田悟医師

1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。https://www.ikushimakikaku.co.jp/yamada-satoru/