ボディケア

注目集まる「メディカルダイエット」 ”糖尿病薬ダイエット”、脂肪吸引、脂肪冷却、痩身マシン…やせる仕組みとリスクを専門家が解説

ダイエットもう医療に頼る時代(Ph/pixta)
ダイエットもう医療に頼る時代?(Ph/PIXTA)
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真夏のような日差しは、薄着とダイエットの季節が到来したサイン。やせるためには食事制限や運動が必要だが、いまそこに「医療」という強い味方が加わってきた。注目が続く“禁断の糖尿病薬ダイエット”のほか、脂肪吸引、冷却、溶解、痩身マシンまでメディカルダイエットの実情を専門家に教えていただきました。

監修

・海野由利子さん(美容・医療ジャーナリスト)
・星良孝さん(『ヒフコNEWS』編集長)

50代のうちに適正体重にするのが理想

加齢とともに、「太りやすく、やせにくい」体になるのは、代謝が落ちて消費エネルギーが減ってしまうから。体重増加は、見た目はもちろん健康維持にも直結する。

美容・医療ジャーナリストの海野由利子さんが言う。

「中高年は体の機能が低下し、肝臓や腎臓、血圧、血管など至るところに不調が出てくる。体重増加は、これらの不調に拍車をかけ、体に負担となるので50代のうちに適正体重にしておくことが理想です」

注目されているメディカルダイエット

とはいえ食事制限や運動は、つらいし面倒だからやりたくない、いつも三日坊主で続かないという人が圧倒的に多いなか、注目されているのが薬をはじめとした医療に頼るダイエット(メディカルダイエット)だ。

美容脱毛サロン大手が2020年に行った調査では、ダイエット経験者(10~50代以降の女性)の約60%がメディカルダイエットのひとつである「脂肪冷却をやってみたい」と回答。

昨年からは糖尿病治療薬を使用した“禁断のダイエット”も話題になっている。東京都に住む会社員Aさん(48才)がこっそり打ち明ける。

「去年、糖尿病の薬でダイエットをしている人が増えているというニュースを見て、私もチャレンジしてみたんです。糖尿病ではないので、完全な自由診療としてクリニックで薬を購入しました。評判通り、食欲が落ちて、みるみるうちに体重が減っていったんです。

本来必要な人に行き渡らなくなることは申し訳ないので、目標体重まで落としてからはのんでいません。 一度体重がしっかり落ちたので、気持ちも前向きになって“もう太らないようにしよう”とキープできています」

薬飲むイメージ
“禁断のダイエット”で減量に成功した人も(Ph/イメージマート)
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“やせ薬”として注目されているのは、「GLP-1受容体作動薬」で、インスリン分泌を促すことで満腹感を得たり、食欲抑制効果もあることから食事量が自然と減って体重減少につながるとされる。

美容医療について情報発信を行う『ヒフコNEWS』編集長の星良孝さんが解説する。

「GLP-1のなかでも、昨年3月に肥満症治療薬として承認された『ウゴービ』はBMIが27以上で、高血圧など肥満に関する健康障害が2つ以上あるといった場合には、医師の診断の下、保険適用で利用できます。血糖値をコントロールすることで体脂肪がつきにくい体にし、脂肪細胞に働きかけて基礎代謝を上げるので、脂肪が分解されやすくなる」

さらに、今年4月に販売が始まった“日本で初めての内臓脂肪減少薬”とうたった市販薬が登場。18才以上で、腹囲が男性85㎝以上・女性90㎝以上あり、生活習慣改善に取り組んでいれば、薬剤師の指導の下、ドラッグストアでも購入できるとあって、発売前から約3000個の事前予約が入った店舗もあった。

脂肪を「燃やして」「溶かして」「冷やす」

ダイエットのための医療は薬だけではない。外科的手法や体の外から刺激を与える方法など、美容クリニックはいま「リバウンドなし」「医療で即やせ」とこぞって打ち出しており、医療痩身を専門としたクリニックが全国展開されるなど、市場は活況を呈している。

「直接脂肪にアプローチする施術として脂肪吸引や溶解、冷却などがありますが、国際美容外科学会の統計によると脂肪吸引は年間230万件と、世界でいちばん多く行われている美容外科手術です」(星さん)

おもな目的について海野さんが続ける。

「脂肪溶解は、脂肪を減らしたい部分に注射を打って薬剤を注入する手法です。あごや頰など顔回りのもたつきをすっきりさせたいと選ぶ人が多いようです」

脂肪を減らしたいところに注射をする脂肪溶解を選ぶ人も増えている(Ph/pixta)
脂肪を減らしたいところに注射をする脂肪溶解(Ph/PIXTA)
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手術や注射だけでなく、治療機器を使ってのアプローチもある。

「EMSといって筋肉に電気刺激を与え脂肪燃焼を促すものや、脂肪冷却マシンで脂肪細胞を冷やし、凍らせて破壊するものなどがあります。脂肪や筋肉の状態を見ながら、どの施術がいいか適切なものを選択することになります」(海野さん・以下同)

こうした痩身マシンは、体の外から脂肪に働きかけるタイプで、“切らない脂肪吸引”とも呼ばれている。

「安全性の高さで注目されていて、振動や熱、超音波などさまざまなタイプの機器があります。お腹や顔回り、二の腕など気になる部位をターゲットに脂肪細胞を壊し、体外に排出させる仕組みです」

また、脂肪ではなく筋肉をターゲットにした注射として、いまや美容医療の代名詞的存在になっているのがボトックス。ダイエットだけでなく、しわを薄くするなどの美容効果もあり、20代や30代など若い世代からも支持されている。

「ボツリヌス菌の毒素から抽出した成分をもとに作られた薬剤で、筋肉の動きや汗腺の働きを抑制します。ボトックスの注入は、全世界で1年に922万件ほど行われており、手術を伴わない非外科的治療のうち最もメジャーなものと言えるでしょう」(星さん)

日本よりも韓国の方が施術費用を安く抑えられるため渡韓する人も増えており、韓国では顔以外の部位への注射も珍しくない。

韓国の方がボトックス費用が安く済むと渡韓するひとも
韓国の方がボトックス費用が安く済むと渡韓するひとも(Ph/PIXTA)
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「太ももやふくらはぎの筋肉にボトックス注射をすることで脚やせをするという施術が一時期、大流行しました。ただし、脚の筋力が衰えると歩行に困難を来す可能性も高く、施術の判断は慎重に行う必要があります」(海野さん)

かように「つらくない」「失敗しない」「短期間で効果がある」とメリットばかりが強調されるメディカルダイエットだが、副作用やリスクがあることを忘れてはいけない。糖尿病治療薬ダイエットについては吐き気や下痢、めまい、低血糖や急性すい炎など重篤な症状を招く可能性もある。

「胆のうがんのリスクが上がるという研究報告もあり、やせるメリットより、副作用によるデメリットの方が大きくなるケースもあるのです」(星さん・以下同)

おもな「メディカルダイエット」一覧

施術方法/施術名/内容

手術

脂肪吸引
皮下脂肪に直径数mmのカニューレという吸引管を挿入し、脂肪を吸引する。

注射

注射脂肪溶解(分解)
脂肪細胞を溶解し破壊する薬剤を皮下脂肪に入れ、老廃物として体外に排出させる。

ボトックス
ボツリヌス菌由来のたんぱく質を注入し、一時的に筋肉や汗腺を麻痺させることで小顔効果、しわ改善、多汗症治療、ダイエット効果などを得る。

糖尿病治療薬(GLP-1)
インスリン分泌を促し、食欲抑制や血糖値上昇抑制などが期待できる。

医療機器

EMS
筋肉に電気刺激を与え、脂肪燃焼を促す。

脂肪冷却
皮膚や神経とは異なり脂肪は4℃で凍結することから、ほかの細胞を傷つけずに脂肪細胞のみを凍らせて破壊、体外に排出させる。

危険性があるということも忘れずに

施術例の数では群を抜く脂肪吸引も国内で死亡例が報告された。

「昨年4月、大阪の美容整形外科クリニックで頰などの脂肪吸引手術を受けた40代の男性が術後に死亡しました。手術中の出血により血腫ができたことによる窒息が原因です。過去にも皮下脂肪に挿入された吸引器が腸などを傷つけ、女性が死亡しています。しっかりとした実績がある医師を選ぶのはもちろん、大きな危険があるという意識を持ちましょう」

命に別条はなくても、吸引した箇所に凹凸が生じるといったケースも見られるという。

「水着が着られないほど、デコボコになってしまったという例はよく耳にします。美容クリニックなどの広告を見ると気軽にできるようなイメージを受けますが、外科医による高度な技術が必要で、筋肉や神経など体の仕組みを熟知していないと危険です」(海野さん)

施術は常に危険との隣り合わせと思おう(Ph/pixta)
施術は常に危険との隣り合わせと思おう(Ph/PIXTA)
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脂肪溶解やボトックスなど注射の場合には、使用される薬剤に気をつけたい。 星さんが指摘する。

「アレルギーが出てしまうケースは多々あります。さらに、海外では安全と認められていない薬が使われていることもある。ボトックスは偽物が出回っているようです。どんな薬を使っているのかは必ず確認しましょう。また、脂肪溶解注射でも痛みや腫れが出たり、注射の痕が大きなニキビのように残ることもあります」

海野さんは脂肪溶解についてこう疑問を投げかける。

「溶かしたり破壊した脂肪は皮下にあるので、なんらかのルートで消化管に入らないと便として排出されません。つまり体内を巡っているうちにほかの部位につく可能性もあるということ。こうした疑問については事前に医師に質問し、その対応で知識量などを見極めるのもいいでしょう」

過度な宣伝には要注意

医療の力を頼る際には、信頼できるクリニックを選ぶ必要があるが、その見極めのポイントのひとつは「過度なアピール」だと星さんは言う。

「“脂肪がごっそり取れます!”などとうたっているところは要注意です。脂肪吸引でも脂肪溶解でも、一度の施術でできる量は限られています。最近は、安全性よりビジネスを優先させているクリニックも少なくありません。院長の顔が見えないクリニックよりは、見えるクリニックの方が信頼できるでしょう。また、事前にリスクについて説明しているかどうかも重要です」

中にはビジネスを優先している病院も。病院選びは慎重に(Ph/イメージマート)
中にはビジネスを優先している病院も。病院選びは慎重に(Ph/イメージマート)
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コスト面の透明性にも注意したい。

「メディカルダイエットの多くは保険適用外の自由診療です。クリニックによって金額も異なります。同じ脂肪吸引でも、数万円でできるところもあれば、数十万円かかるところもある。あまりにも高額なところは費用の内訳の確認を。逆にモニター価格などとして低価格を打ち出しているところも不安があるでしょう。また、一度に減らせる脂肪の量は多くありません。

欲しい効果を得るには回数を重ねることが必要なので費用も増大します。医療でやせるのであれば、まずは食事内容の見直しや運動を行い、それだけではどうしてもやせにくい部位に取り入れることを考えてみては」(海野さん)

施術方法やクリニックを選ぶところから、あなたのメディカルダイエットは始まっているのだ。

※女性セブン2024年5月23日号

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