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《認知症介護の心得》“失敗しない施設選び”6つのポイント「声のかけ方」「展示物」からわかる「いい施設・ダメな施設」

介護士と老女
家族を介護施設に入れるときにチェックするポイントを専門家が指南(写真/photoAC)
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自宅で介護してきた認知症の家族を施設に入居させることを躊躇したり、罪悪感を覚えたりする人も少なくない。『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)の著者で理学療法士の川畑智さんは、そう感じる必要はないと言う。そこで、施設入居の際に家族がしなければいけないことや施設を選ぶ際のポイントなど、認知症患者が安心して施設で過ごすために知っておきたいことを教えてもらった。

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介護施設に入居するメリット

自宅での介護の負担が大きくなり、介護施設への入居が選択肢にのぼったとき、多くの人は「家族として、これでいいのか?」と考えるという。

川畑さんは、家で過ごしてほしいという思いがあり、本人もそれを望んでいる場合、「必ずしも施設に入れることが最善とだとは思わない」とし、ヘルパーやデイサービス、ショートステイを活用しながら、自宅介護を続ける方法もあると話す。

一方で、施設に入居するメリットは家族だけではなく、認知症患者自身にもたくさんあることを知っておいてほしいと川畑さん。では、どんなメリットがあるのだろうか?

近い境遇や能力の人と暮らすことで心が穏やかになる

家族の年長者であることが多い認知症患者は、できることが減っていき、家族にも「しなくていい」と言われる場面が増えることで、自分が邪魔もののように扱われていると感じることがあるという。

「その点、施設では自分と似た年代、似た症状の人たちと過ごすわけですから、お互いの話にうなずきあったり、最近の境遇や昔の話題にも花を咲かせたりすることで、心が落ち着きやすくなります」(川畑さん・以下同)

介護施設での運動風景のイメージ
能力が近い人たちと暮らすメリット(写真/photoAC)
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また、周りの人たちと能力が近いということも重要で、「生活する能力がある程度近い人たちと暮らすことは、自分の役割を見つけやすくなる」という利点があるという。自分より苦手な人を手伝ったり、誰かに頼られたり、自宅とは違う環境に身を置くことで、自発的に役割を見つけたりできる。それは、「心の穏やかさと認知機能を保つために、とても大切なんです」と川畑さんは話す。

生活にメリハリができ、活動量が増える

もう1つ、川畑さんが強調するメリットは、施設に入ることで生活リズムが生まれることだ。

1日中寝ていたり、テレビを見ていたり、せいぜい散歩や買い物に出るくらいといった引きこもりがちな生活を送る認知症患者は、体操やリハビリなど、いろいろなメニューが用意されている施設にいることで1日の流れをつかみやすくなるという。生活にメリハリがつくことで、頭も体も活動量が増えていくことにつながる。

「施設の職員は、たくさんの認知症のかたと接した経験をもつ、『介護のプロ』。本人がどこまで理解しているかを慎重に感じ取りながら、施設や道具を使い、できる限り1人ひとりに合わせた形での介護を行うことができます」

このようなメリットは、家で提供することが難しいものだ。

施設選びを間違えないための6つのポイント

いざ、家族を施設に入居させる決断をしたときに、川畑さんが「必ず直面する問題」だと話すのが、施設の選び方だ。

介護施設の外観
介護施設の選び方のポイント6つ(写真/photoAC)
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施設には必ず足を運んでチェックする

大切な家族を預ける場所とあって、調べれば調べるほど、どこにすればいいのかわからなくなってしまうものだという。そこで、川畑さんがチェックするべきだという6つのポイントを教えてもらった。

「まず大前提として、施設を選ぶときは、必ず見学してください。ホームページやパンフレットに載っている情報だけでなく、その場に行ってみないとわからない『雰囲気』や、聞かなければわからない話が必ずあります」

施設見学で見るべき6つのポイント

1つ目は、職員が来客者だけでなく、すれ違う同僚や入居者にちゃんと「あいさつをしているかどうか」。無言で通り過ぎていく職員が多いとしたら、忙しすぎて施設全体に余裕がない可能性がある。

2つ目は、「職員から入居者への声のかけ方」だ。乱暴な言葉使いは論外として、なれなれしすぎるのも、入居者と適切な距離感がとれていないことが考えられる。

「『ちゃん付け』や『あだ名』は人生の先輩への振る舞いとは思えませんし、間違いや失敗に対して“あはは、かわいい”なんて高齢者をペット扱いされるのもごめんです」と川畑さん。一般的な常識で許容できる範囲か、見ておく必要がある。

車椅子の女性に話しかける介護士
職員の声のかけ方から距離感を見る(写真/photoAC)
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3つ目は、「施設のスケジュール」。これは、適度な活動が組み込まれているか、活動中に集中しているかといって放置していないかといったことだ。見学の時間帯を変えて何度か施設を訪れたり、別のフロアを見せてもらったり、説明してくれる職員を変えてもらったり、「同じ施設でも違う側面が見えるようにするといいですね」と川畑さんは言う。

4つ目は、「複数の職員へヒアリング」すること。同じ質問をしたときに、同じ答えが返ってくるかどうかがチェックするポイントになる。

「例えば、活動のプログラムを尋ねたときに、ある職員は『みなさん毎日、集団での体操やレクリエーションを頑張っていますよ』と答えたのに、別の職員は『興味がある、またはできる人だけ体操やレクをやっています』と答えたら、これだけでも話が違ってくるわけです」

5つ目は、「掲示物や展示物の様子」から、細部にまで気が回っているかの確認だ。古いポスターやイベントのチラシがそのままになっている、展示物の季節感がおかしかったり、ほこりをかぶっていたりする、休憩室で流れるビデオが毎回同じ…といったことだ。介護の業務に追われ、生活の豊かさへの余裕がない可能性があるといえる。

6つ目は、「1人ひとりに合わせた介護」ができているかどうか。例えば、おむつ交換が同じ時間に一斉に行われている場合、ある時間だけ便や尿のニオイが漂っている場合があるという。これは介護される側に合わせた時間の流れではなく、「職員主体の時間の流れになってしまっている」ということだと川畑さん。

介護施設の職員
職員にとっていい職場に見えるか、ということも重要(写真/photoAC)
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「ほかにも、廊下にやけに人が出ているなと思ったら、一斉に起床させて、一斉に歯みがきをさせていると言う施設も少なくありません。限られた見学の時間では難しいかもしれませんが、介護の主体が職員になってしまっていないかも、できる限りチェックしてみましょう」

これらのポイントは、入居者だけでなく、職員にとってもいい職場かどうかということに重なる。「介護する人に余裕がなければ、お互いに曇り空。これは、家でも施設でも、同じことなんです」と川畑さんはまとめる。

家族を施設に入れてからやるべきこと

「施設に入れたら、あとは全部おまかせ」と考えて、罪悪感を覚える人もいるというが、川畑さんは「家族が入居したあとにも、あなたにできること、しなければいけないことがたくさんある」と話す。

施設での面会は入居している家族だけでなく、担当している職員と会う機会でもあり、そこで本人の様子や健康状態を確認することになる。特に、認知症が進行して本人とのやりとりがうまくいかない場合は、職員とのコミュニケーションが重要だ。

認知症の人の情報を伝える

まず、職員に、口ぐせや趣味、興味や関心ごと、習慣、特技、大切にしている考え方といった本人の情報を積極的に伝えること。

「こういった、本人を構成する心の部分や、歩んできた歴史を伝えると、『あ、こういう人なんだ』とわかります」

湯呑みを手に笑顔の女性
職員に介護される家族のことを伝える重要性(写真/photoAC)
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人としての興味がわいて親近感をもつことができるだけでなく、認知症が進行して、一見理解が難しい言動が増えたときに、なぜそうするのかを知るヒントにもなるからだ。朝ごはんをどうしても食べてくれない人が、実はずっとパン食だったとわかり、パンを出したところ改善したというケースもあったという。

職員に家族との関係を教える

その際に、本人と家族の関係を伝えておくことが意外と大切だと川畑さんは言う。例えば、本人が一番頼りにしているのが、家族の中でも誰か、といったことだ。

「その情報があれば『長男の幸一さんから、今日はお風呂に入って、リハビリを頑張ってきてほしいと頼まれているんですよ』なんて具合に、職員のかたが、関係の良好な人の名前を水戸黄門の印籠のように使えるわけです」

◆教えてくれたのは:理学療法士・川畑智さん

スーツ姿のめがねをかけた男性
理学療法士の川畑智さん
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かわばた・さとし。理学療法士。熊本県認知症予防プログラム開発者。株式会社Re学代表。1979年、宮崎県生まれ。理学療法士として、病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立し、熊本県を拠点に「脳いきいき事業」を展開。さらに、脳活性化ツールの開発に携わったり、講演活動を行ったりしているほか、メディア出演や著作も多数。

◆監修:脳心外科医・内野勝行さん

うちの・かつゆき。脳神経内科医。医療法人社団天照会理事長。金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院を経て、現在は金町駅前脳神経内科の院長を務める。脳神経を専門として、これまで約1万人の患者を診てきた経験をもとに、薬物治療だけでなく、栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなどを踏まえた積極的な認知症治療を行っている。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。

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