
ライター歴45年を迎えたオバ記者こと野原広子(66歳)。一昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った。そんなオバ記者が“他人の介護問題”に首を突っ込んだことから、ひと騒動起きてしまったという。何があったのか? オバ記者が綴る。
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友人のA子から突然の絶縁宣言
66歳。人によって違うけれど、介護の苦労もひと段落の年ごろじゃないかしら。私の場合、義父(享年81)と母親(享年93)があの世に旅立って、ってことは次は私の番? という状況だけど、正直なところそれまでにはまだまだ時間はある気がしている。それで油断したのかな。人の家の介護問題にうっかり首を突っ込んだら、とんでもないことになったの。

「あんた、E子と連絡とっているんだって? E子に変なこと吹き込まないでっ。てか、もう連絡してこないで」
古い友人のA子(61歳)から先日、こんなLINEが届いたのよ。E子(58歳)はA子の妹で、若い頃、2、3度会ったことがあるけれど20年以上、音信不通。それを言うならA子とだって5年以上会ってない。「いつも読んでいるよ。『介護のリアル』は身につまされた」というメールが届いたのが半年前でね。

「いやいや、私が母ちゃんを介護していたのは2年前だけど」と言う間もなく、LINEだけの関係が続いたの。そしてE子ともFacebookでつながってMessengerから来たメールに返した。そのことが原因でA子から絶縁宣言されたわけ。
「お母さんの介護を引き受けたら?」のひと言が…
そもそも半年前にA子が私に連絡をよこしたのは、長くパートをしていた倉庫会社を雇い止めになったからでね。夫とは10年前に離婚して子供も独立していて経済的に頼れるところはない。離職してからは貯金を切り崩してきたけど、家賃を払うのも厳しくなってきた。そんな時に相変わらずその日暮らしの私の顔が浮かんだそうな。

でも私たちの世代、若い頃の貧乏と決定的に違うんだよね。それは健康不安があると働きたくても働けないこと。A子の場合、高血圧に軽い糖尿病。膝に水が溜まって、原因不明の腰痛もある。最近は自律神経失調症も加わって夜も眠れない。定期的にかかりつけ医から薬を処方してもらっていたけど、「最近は病院に行く気力もなくて」と、低い声で延々と。
この時、私は、「そうなんだ」「大変だよねぇ」と、このふたつを繰り返し言っていればよかったの。ところがそれが出来ない。A子のためというよりも先のない話に私自身がガマンできなかったんだよ。
A子のLINE電話が、ひとり暮らしをしている母親の話題に移ったとたん、そこにA子の抜け道があるように思えて一歩踏み込んじゃったのよ。物忘れがひどくなり、この夏は食事をとり忘れて急激に痩せてきたというから、「じゃあさ。実家に帰ってお母さんの介護を仕事だと思って引き受けたら?」と。

介護を申し出る姉に妹は「家賃、いらないもんね」
A子の実家は資産家というほどではないけれど、都心に土地と庭付きの家がある。大手企業に勤めていた父親の企業年金もある。なら、いま経済的に困っているA子が母親の介護の中心人物になったら、相続も有利になるんじゃないかと思ったからよ。「その前に妹のE子と、ほとんど実家に寄り付かないという兄(64歳)に集まってもらって、今後のことを相談するといいよ」と。
「母親とは子供のころから波長が合わなかったけど、それしかないかぁ」と、そのときはA子も納得して、さっそく専業主婦の妹と兄に連絡をして、母親を囲んで介護会議。と、ここまではよかったの。

A子によると、ひとり暮らしの家に久しぶりに一家が全員集合して母親は大はしゃぎ。最初は体重が10kg以上痩せて40kg前後になった姿を見てギョッとした兄も、好物の冷やし中華を出されたら「なんだ、心配して損したよ。まだまだひとり暮らしで大丈夫じゃね?」と言い出したんだって。
「まぁ、A子がここに住むというなら安心は安心だけど、まだ先でもいいんじゃないかな」と言ったらしい。母親の現状を知っている妹はその時は口を挟まなかったけれど、後から「ここなら家賃、いらないもんね」とボソッと言ったそうな。

「介護」のググり方を教えただけなのに…
「もう、そのひと言でブチ切れたよ。だって一家が集まる前、ゴミ屋敷だったありさまをE子は見ているのよ。で、3日かけて私が掃除したら、半日だけ手伝ったけど仕事があると言って逃げたのよ。もう、前からそう。イヤなことからは逃げるくせに、もらうものはもらいたいっていう典型的な妹根性!」
そんなことがあったとは知らない私は、E子からのLINE、「相続の法律」ってスマホで調べられるのかな。調べるとしたら何て入れたらいいの?」に、「『相続の基本』と入れたらたいがいのことはわかるよ」返信したの。

「えっ、そんなこと誰でも知っているじゃない?」と思うのは、スマホでググる習慣がある人でね。私と同世代、いやもっと若い人でもスマホはカメラ付き電話しか使わない人がいるんだって。E子もそう。それを知っていたA子は妹からスマホ片手に「相続ってこうなんだよね?」と言われたもんだから、「誰から教わった!」となり、私には「よけいな知恵つけないで」と怒ったわけ。
そりゃそうよ。E子は「お姉ちゃんが実家に住んで介護をするのはいいけど、それと相続は話は別だよ」と言ったらしいから。
もちろん私は良かれと思ってA子に助言したのよ。E子には一般的なことを答えただけ。それでも一家に余計な波紋を起こしたことには変わりないんだよね。

老後の問題って、みんなそう。それぞれの性格からトラブルの汁が湧きだしてくるのよ。その加減は一軒一軒違うからさ。口出し無用。アドバイスなんてもってのほかなんだって。聞かれても「みんな違うからわからない」が正解だったと、今は思っている。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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