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15才以上の犬・猫の過半数が認知症の疑い…犬・猫が認知症になる前に&なったらやるべきこと

犬
犬・猫が認知症になる前に&なったらやるべきこととは?(写真/Getty Images)
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ペットフード協会の『令和5年 全国犬猫飼育実態調査』によると、犬の平均寿命は14.62才、猫は15.79才で、いずれも過去最長を記録した。長生きは喜ばしいことだが、高齢化に伴い、認知症になる犬や猫が増えているという。「うちの“子”に限って…」はあり得ない。どんな犬や猫もなりうる病気について、飼い主はどう向き合い、何を知っておくべきか──。一緒に考えていきたい。

15才以上の犬・猫の過半数が認知症の疑い

認知症とは、脳の病気や障害などさまざまな要因により認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出る状態を指す。人間特有の病気と思われがちだが、「犬や猫も認知症になる」と、獣医師の江本宏平さんは話す。

「アメリカで実施された調査では、犬の場合、11~12 才の約28%、13~14才の約45%、15~16才の約68%に認知症を示唆する徴候が見られました。猫の場合も、11~14才の約28%、15才以上の約50%に認知症の兆候が認められたとの研究報告もあり、認知症は高齢犬・高齢猫にとって身近な病気となってきています」(江本さん・以下同)

発症頻度の高い特定犬種はないとされているが、日本国内で認知症を発症した犬のうち、83%が日本犬(日本犬系雑種を含む)だとの調査報告もある。

「私が診察してきた認知症の犬は、柴犬が多い印象です。しかし、認知症はどの犬種、猫種でも発症するので、“うちの子は大丈夫”と油断してはいけません」

ペットの認知症については研究が進んでおらず、未知の部分も多い。

「現状、原因の全容解明には至っていません。ただ、人のアルツハイマー型認知症の原因と同じ“アミロイドβ”などのたんぱく質の蓄積が関係していることがわかってきました。

認知症のような症状が出ている犬の脳に、アミロイドβの沈着が見られ、脳の神経細胞の萎縮や脳室の拡大など、脳の状態が変化していたんです」

猫
認知症は人間特有の病気ではない(写真/Getty Images)
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猫は犬よりもわかっていない部分も多いが、犬にいえることは猫にも当てはまると考えられている。

夜鳴き&昼夜逆転は飼い主を悩ませる

では、認知症となった犬や猫には、どのような行動が見られるのか?

「代表的なのは、理由もなく鳴く(夜鳴き)、目的もなくひたすらウロウロする(徘徊)、クルクル回るように歩く(旋回)、呼びかけに反応せずにぼーっとしている、トイレの粗相、隙間に挟まる、生活が昼夜逆転するなどです。中でも夜鳴きと昼夜逆転は、飼い主への負担が大きく、“夜中にずっと鳴いていて眠れない”などで体調やメンタルを崩す飼い主も多いです」

これらの症状・行動が見られたら、飼い主だけで抱え込まず、動物病院を受診するなど、相談できる専門家を味方につけておこう。

「いまのところ認知症を治す方法はありません。しかし、食事療法や症状に合わせた薬・サプリメントを取り入れることで進行を遅らせたり、症状を緩和させたりできます。認知症の早期発見のためにも、11才を過ぎたら半年に1回、チェックリスト(別掲)で、認知機能などに変化はないか確認しましょう」

認知機能の低下が見られたら、室内環境も見直そう。

「認知症になると空間把握能力が低下するので、家具の角にぶつかったり、家具の隙間に挟まることが多くなります。けがを防ぐためにも、床に物を置かない、家具の角に緩衝材を貼る、テレビ台と壁の隙間に入り込まないようガードを置くなどの対策をすること」

何でもやってあげるのではなく、自力でえさを食べたり排泄したりできるうちは、サポートしてあげることも大切。たとえば、食事の際は、イラスト(別掲)を参考に食べやすい工夫をしてあげるとよい。大切なペットとの日々を後悔なく送れるよう、元気なうちに知識をつけ、準備しておきたい。

高齢犬・猫の食事時の工夫
年を取ると後ろ足の踏ん張りがきかなくなるので、えさや水皿を高い位置に置き、顔に近づけてあげると、足腰の負担が軽減して食事がしやすい(イラスト/さややん。)
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犬の認知症チェックリスト&猫の認知症チェックリスト

犬の認知症チェックリスト

【やり方】

設問ごとに該当するスコア(数字)を選んでください。0=なし、1=軽度(まれにある)、2=中等度(時々ある)、3=重度(最低でも1日1回、あるいは常にある)※8才までにその傾向があったが、それ以降の変化がない場合は0を記入。

(見当識障害)

・隙間に挟まる、物をよけられない、ドアの蝶番側を通ろうとする
・壁、床、空中などの何もないところをぼんやり見つめる
・よく知っている人や動物を認識できない
・家の中や庭で迷子になる
・視覚刺激(見ているもの)や聴覚刺激(音)に対する反応が鈍い

(社会的交流)

・以前よりも来訪者や家族、ほかの動物に対して、怒ったり、怖がったり、攻撃的になった
・接近、あいさつなどの触れ合いや、なでられるなどの愛情表現に対する興味が減った

(睡眠/覚醒サイクル)

・夜間にウロウロと歩く(常同步行)/落ち着きがない/あまり眠らない/夜間に覚醒する
・夜間に、鳴いたり吠えたりする

(粗相、学習と記憶力)

・新しいことを覚えにくい。あるいは、すでに習得しているコマンドの反応が鈍い
・家の中のトイレ以外の場所に排尿や排便をする。あるいは屋外に出たがらない
・犬の気を引くことが難しくなった、注意散漫である、集中力が減った

(活動性)

・探索をしたり、おもちゃや家族、そのほかの動物と遊ぶ頻度が減った
・無目的な歩行(常同步行)や徘徊などの活動が増えた
・旋回運動、咀嚼、舐め、ぼんやりと宙を見るといった反復行動を示す

(不安)

・飼い主と離れると非常に不安がる
・視覚刺激(見えているもの)や聴覚刺激(音)に対して過敏になったり、怖がったりするようになった
・場所や環境(例:新たな環境、外出など)を怖がることが増えた

【結果】トータルスコア4~15点:軽度、16~33点:中等度、33点以上:重度。

引用元:Dr. Gary Landsberg, DVM, DACVB, DECAWBM, Vice President, Veterinary Affairs CanCog Technologies; to aid in diagnosing Canine Cognitive Dysfunction Syndrome

犬の認知症チェックリスト
犬の認知症チェックリスト
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猫の認知症チェックリスト

【やり方】愛猫の日常の様子を思い浮かべながら、答えてみよう。以下の症状に、「はい」「いいえ」「たぶん」でチェックを。

・飛び乗ったり飛び降りたりしたがらない
・低い場所しか飛び乗ったり飛び降りたりしたがらない
・時々体がこわばっているように見える
・以前よりしゅん敏さが低下している
・足をひきずる
・猫用ドアからの出入りが困難になる
・階段の上り下りが困難である
・抱き上げると鳴く
・トイレ以外での排泄が増える
・身づくろいすることが減る
・飼い主とのかかわり合いに消極的になる
・ほかの動物やおもちゃで遊ぶことが減る
・眠る時間が増え、活動性が低下する
・理由もなく大声で鳴く
・忘れっぽいように見える

【結果】「はい」の数が多いから認知症だというわけではないが、増えてきたら要注意。

引用元:Gunn-Moore DA. Cognitive dysfunction in cats: clinical assessment and ma Topics in Companion Animal Medicine 17-24, 2011

 

猫の認知症チェックリスト
猫の認知症チェックリスト
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将来のために!認知症予防になる3つの生活習慣

【1】一緒に遊んで、脳に刺激を与える

脳に刺激を与えたり、体を動かすことは、脳機能を活性化させる。

「おもちゃなどで遊ぶのもいいですが、おすすめは、マットや容器におやつを隠して探し出させる遊び。におい当てゲームのようなもので、嗅覚を使うので脳が刺激されます」(江本さん・以下同)

【2】適度な日光浴でセロトニンを増やす

セロトニンは脳内の神経伝達物質のひとつで、睡眠を促すホルモンの材料。

「朝日を浴びるとセロトニンが分泌され、夜にしっかり眠れるようになります。昼夜逆転生活にならないためにも、適度に日光浴させるのがおすすめ」

【3】DHAやEPAなどを含むサプリメントを摂る

「ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質は、老化の原因を抑えるため、認知症予防におすすめ。脳の神経細胞の働きや情報の伝達を活性化させる、DHAやEPAなどもサプリメントで摂るといいでしょう」

◆教えてくれたのは:獣医師・江本宏平さん

往診専門動物病院「わんにゃん保健室」院長。飼い主に寄り添う診療をモットーに、年間150症例以上を構築。主な著書に『猫の介護ハンドブック 気持ちに寄り添う緩和ケア・ターミナルケア・看取り』(ねこねっこ)など。@Koheiemoto @wannyan_hokenShitsu

取材・文/鳥居優美

※女性セブン2024年10月10日号

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