健康・医療

《冬はリスク上昇》「お風呂場で死ぬ」を避けるために何をすべきか ヒートショックを防ぐ対策「入浴前にコップ1杯の水」「お湯の温度は40℃以下に」 

お風呂で倒れる女性
「お風呂場で死ぬ」を避けるために何をすべきか(写真/PIXTA)
写真5枚

疲労回復、むくみ解消、腰痛や肩こり改善などさまざまな健康効果が期待される入浴だが、冬になると風呂場は一転して危険エリアに変わる。「服を脱ぐのは寒いけど、がまんすればいいや」「寒いから熱々のお風呂にゆっくり入ろう」。その何気ない行為が、死のリスクを高めている。

風呂場で倒れたら約7割は溺水で亡くなる

俳優で歌手の中山美穂さん(享年54)が、自宅の浴槽で亡くなっているのが発見されてから1か月余りが経った。

中山さんの早すぎる死にショックを受けた新潟県在住の会社員・高田春奈さん(仮名・53才)は、「お風呂では気をつけよう」と改めて思い直したという。しかし、新年早々、浴室で恐怖を味わったと不安な表情を浮かべる。

「寒い日で長湯をしてしまったのが原因かもしれませんが、湯船から出ようとしたときに意識がもうろうとして、浴室の床に倒れてしまいました。幸いにも物音に気づいた家族が飛んできてくれたので、打ち身程度ですみましたが、また同じことが起きたらと考えると怖くて…」

東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信さんが言う。

「お風呂場で倒れても病院に運ばれ、九死に一生を得る人はいます。しかし、亡くなる人が圧倒的に多く、約7割は溺水で亡くなっていると推計されます。命が助かっても後遺症が残るケースも珍しくありません」

入浴中の事故は寒い季節に増加する。消費者庁によると「不慮の溺死及び溺水」(約8割が入浴中に死亡)の死亡者数は、秋以降から増加し、12月に急増する。

冬になると溺水事故が急増!

冬になると溺水事故が急増!
冬になると溺水事故が急増!
写真5枚

更年期以降の女性はリスクが上がる

いちばんの理由は、部屋と風呂場の寒暖差が激しいため、「ヒートショック」が起きるからだ。

杏林大学医学部付属病院脳卒中センター長で脳卒中専門医の平野照之さんが解説する。

「急激な温度変化にさらされると、体温を維持するために体表の血管が収縮あるいは拡張し、血圧が急変動します。これによって心臓や血管に大きな負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中、意識障害などが起きることを一般的にヒートショックと呼びます。

風呂場は体がもっとも温度差にさらされやすく、ヒートショックを起こすリスクが高いのです」

中でも危険なのは、脱衣所だと東丸さんは言う。

「服を脱いで冷気に触れるので体が体温を調整するために血圧が急激に上がります。気温18℃未満の脱衣所は、18℃以上の脱衣所に比べてヒートショックを起こすリスクが1. 8倍増加するというデータがあります。脱衣所の温度が高くても、浴室内の温度が低ければ脱衣所から浴室に移動した際にヒートショックが起きやすいので注意が必要です」

命の危険が潜むのは暖かい部屋から寒いところへの移動に限らない。

平野さんは浴槽での事故にも気をつけてほしいと警鐘を鳴らす。

「お湯につかるまでは、寒さで血管が収縮して血圧が上昇していますが、湯船で体が温まると末梢血管まで血液が流れるため血圧が下がっていきます。特に危険なのは湯船から出ようと立ち上がるときで、体にかかっていた水圧がなくなると圧迫されていた血管が一気に拡張して、血圧が急低下します。

ただでさえ立ったときには『起立性低血圧』によって、脳への血流が減少し、貧血状態で立ちくらみを起こしやすくなります。意識を失えば浴槽で溺れることもあるのです」

入浴による血圧の変動は誰にでも起きるが、高齢者のリスクはより高くなる。

「年を重ねるほど動脈硬化が進んで血管の柔軟性が失われるため、若い頃より血圧が急変動しやすくなります。特に更年期以降の女性は、女性ホルモンの減少とLDLコレステロールの増加によって急激な動脈硬化が進みやすいことを意識してください」(平野さん)

高齢になると温度の変化を感じる皮膚感覚も鈍くなる。寒さを感じなくても、血圧が大きく上下していることがあるのだ。

湯船での血圧低下を予防するにはコップ一杯の水を

では実際、入浴中にヒートショックで命を落とさないために、何に気をつければいいのだろうか。平野さんは、脱衣所や浴室の温度を上げることから始めてほしいとアドバイスする。

「血圧の急上昇を防ぐには、入浴前にヒーターなどで脱衣所や浴室を暖めておくのがベストです。お湯をためるときは、シャワーを使って高い位置から浴槽にお湯を注いだり、浴槽にふたをせずに湯気で浴室全体を暖めるようにするといいでしょう」

湯船での血圧低下を予防するには、コップ1杯の水が有効だ。

「お風呂で汗をかいて脱水状態になると、血液の量が減って低血圧になりやすい。入浴前には水分補給をするようにしましょう。

ペットボトルの水を持ってお風呂に入るのも、脱水症状の防止に効果的です」(平野さん)

入浴前の1杯の水が命を救う
入浴前の1杯の水が命を救う(写真/PIXTA)
写真5枚

乾燥する冬は夏よりも脱水状態になりやすく、高齢者は喉の渇きに気づきにくいので普段より意識して水分を摂るようにしよう。水分といっても、飲酒後の入浴は絶対にNG。

「酔っていないつもりでも、アルコールには発汗や利尿作用があります。脱水症状を起こしやすく、低血圧になりやすいので、飲酒するなら入浴後にしてください。湯船で動けなくなると浴室内熱中症になることもあり、大変危険です」(東丸さん)

食後すぐも消化器官に血液が集まって血圧が下がりやすいので、食事から入浴までは1時間以上あけること。万が一、浴槽内で意識がもうろうとしたら、すぐに浴槽の栓を抜こう。

熱いお湯と長湯は避ける、お湯は40℃以下に

忘れてはいけないのは、湯船につかる前のひと手間。

「急激な温度の変化を避けるため、手足の先から心臓へと少しずつかけ湯をしてから湯船に入ってください。いきなり熱いお湯につかると、心臓に大きな負担がかかります」(平野さん)

冷えた体を温めようと熱いお湯に肩までじっくりつかる人もいるが、熱いお湯と長湯も避けるべきだ。

「42℃のお湯に10分間入ると、体温は38℃まで上昇します。入浴中は汗をかいている自覚が薄いものの、体が温まると発汗が促され、脱水状態になりやすい。お湯の温度は40℃以下にして、10分以内に出るのが理想です。どんなに長くても、30分以内に湯船から出るようにしてください」(東丸さん)

お湯は40℃以下に
お湯は40℃以下に(写真/PIXTA)
写真5枚

脱衣所の温度や入浴時間は、温度計やタイマーを活用して簡単にわかるようにするといい。湯船から出るときも細心の注意を払おう。

「起立性低血圧による転倒を防ぐために、湯船から出るときは浴槽のふちに手をつくか、手すりを持つなどして、ゆっくりと立ち上がりましょう」(平野さん)

東丸さんも言い添える。

「普段から立ち上がったときにめまいやふらつきなどの経験がある人は、起立性低血圧を起こしやすいので気をつけてください」

入浴前は家族にひと声かけておくと、いざというときに気づいてもらえる可能性が高い。

「もし入浴中に異変があったら、ためらわずに救急車を呼んでください。脳梗塞や心筋梗塞なら、1分1秒で生死やその後の生活が大きく変わる可能性があります。降圧剤をのんでいる人は入浴前に血圧を測ることをおすすめします。収縮期血圧が160㎜Hg以上、もしくは薬が効きすぎて110㎜Hg以下になっていたら、その日は入浴を控えた方がいいでしょう」(東丸さん)

お風呂での事故や病気は完全に防げない。だが、ちょっとした心がけが命を救うことは間違いない。

ヒートショック「危険スポット」ランキング
ヒートショック「危険スポット」ランキング
写真5枚

※女性セブン2025年1月30日号