湯船での血圧低下を予防するにはコップ一杯の水を
では実際、入浴中にヒートショックで命を落とさないために、何に気をつければいいのだろうか。平野さんは、脱衣所や浴室の温度を上げることから始めてほしいとアドバイスする。
「血圧の急上昇を防ぐには、入浴前にヒーターなどで脱衣所や浴室を暖めておくのがベストです。お湯をためるときは、シャワーを使って高い位置から浴槽にお湯を注いだり、浴槽にふたをせずに湯気で浴室全体を暖めるようにするといいでしょう」
湯船での血圧低下を予防するには、コップ1杯の水が有効だ。
「お風呂で汗をかいて脱水状態になると、血液の量が減って低血圧になりやすい。入浴前には水分補給をするようにしましょう。
ペットボトルの水を持ってお風呂に入るのも、脱水症状の防止に効果的です」(平野さん)
乾燥する冬は夏よりも脱水状態になりやすく、高齢者は喉の渇きに気づきにくいので普段より意識して水分を摂るようにしよう。水分といっても、飲酒後の入浴は絶対にNG。
「酔っていないつもりでも、アルコールには発汗や利尿作用があります。脱水症状を起こしやすく、低血圧になりやすいので、飲酒するなら入浴後にしてください。湯船で動けなくなると浴室内熱中症になることもあり、大変危険です」(東丸さん)
食後すぐも消化器官に血液が集まって血圧が下がりやすいので、食事から入浴までは1時間以上あけること。万が一、浴槽内で意識がもうろうとしたら、すぐに浴槽の栓を抜こう。
熱いお湯と長湯は避ける、お湯は40℃以下に
忘れてはいけないのは、湯船につかる前のひと手間。
「急激な温度の変化を避けるため、手足の先から心臓へと少しずつかけ湯をしてから湯船に入ってください。いきなり熱いお湯につかると、心臓に大きな負担がかかります」(平野さん)
冷えた体を温めようと熱いお湯に肩までじっくりつかる人もいるが、熱いお湯と長湯も避けるべきだ。
「42℃のお湯に10分間入ると、体温は38℃まで上昇します。入浴中は汗をかいている自覚が薄いものの、体が温まると発汗が促され、脱水状態になりやすい。お湯の温度は40℃以下にして、10分以内に出るのが理想です。どんなに長くても、30分以内に湯船から出るようにしてください」(東丸さん)
脱衣所の温度や入浴時間は、温度計やタイマーを活用して簡単にわかるようにするといい。湯船から出るときも細心の注意を払おう。
「起立性低血圧による転倒を防ぐために、湯船から出るときは浴槽のふちに手をつくか、手すりを持つなどして、ゆっくりと立ち上がりましょう」(平野さん)
東丸さんも言い添える。
「普段から立ち上がったときにめまいやふらつきなどの経験がある人は、起立性低血圧を起こしやすいので気をつけてください」
入浴前は家族にひと声かけておくと、いざというときに気づいてもらえる可能性が高い。
「もし入浴中に異変があったら、ためらわずに救急車を呼んでください。脳梗塞や心筋梗塞なら、1分1秒で生死やその後の生活が大きく変わる可能性があります。降圧剤をのんでいる人は入浴前に血圧を測ることをおすすめします。収縮期血圧が160㎜Hg以上、もしくは薬が効きすぎて110㎜Hg以下になっていたら、その日は入浴を控えた方がいいでしょう」(東丸さん)
お風呂での事故や病気は完全に防げない。だが、ちょっとした心がけが命を救うことは間違いない。
※女性セブン2025年1月30日号