
気温の変化によって血圧が変動し、心臓や血管の疾患が起こる「ヒートショック」。「高齢者だけの問題」と思っている人は注意が必要です。そこで、漢方にも詳しい管理栄養士の小原水月さんに、ヒートショックの予防法と普段から取り入れたい食材、おすすめの漢方薬について教えてもらいました。
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ヒートショックの原因は血圧の大きな変動
ヒートショックとは、周りの温度の急激な変化によって血圧が上下に大きく変動することで起こる循環器疾患です。具体的には、失神、心筋梗塞、不整脈、脳梗塞、脳出血、大動脈解離などがあり、11月〜2月に発生する頻度が高まります。

ヒートショックに関連した入浴中急死者数は、交通事故死亡者数より多いと推計されているほど、実は身近なものなんです。
ヒートショックになりやすい人の特徴
ヒートショックは「高齢者に起こるもの」というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、そうでなくても起こり得ます。

血管のしなやかさが失われる動脈硬化が進んでいたり、血圧や体温の調整をする生理機能が低下していたりすると、ヒートショックを起こしやすくなるので、以下のチェックリストに該当する場合は、特に対策を心がけましょう。
・高血圧、糖尿病、脂質異常症
・肥満
・睡眠時無呼吸症候群
・慢性的な睡眠不足や疲労
・熱い風呂が好き
・飲酒後に入浴するときがある
・30分以上湯船に浸かっている
ヒートショックが風呂場やトイレで起こりやすい理由
最も多くヒートショックが起きているのは入浴時です。暖房のついていない脱衣所や浴室は10℃以下になる場合もあり、衣服を脱ぐと体の表面全体が急激に冷やされます。そうすると、自律神経の交感神経が刺激され、血管が収縮し血圧が急上昇するため、失神や心筋梗塞などが起こる場合があるのです。

一方、温かい湯船に浸かると自律神経の副交感神経に刺激が入り、血管が拡張し血圧が急激に低下します。血圧が低くなりすぎると脳への血流量が不十分になり、失神を起こす場合もあります。
暖房器具を設置したり、シャワーでお湯を張って浴室全体を暖めたりして、寒くなり過ぎないよう工夫をしましょう。
ほかにも、トイレなどの暖房設備がない場所や、早朝の外出などでもヒートショックが起こりやすいので、服装で調整するなどの対策が必要です。
ヒートショックを予防する、血管にいい食材
ヒートショック予防としては、血管をしなやかに保ち、高血圧や動脈硬化を防ぐことが必要です。室内外の寒暖差を小さくする基本の対策にくわえて、食事にも気をつけ、血圧が乱高下しづらい体に整えておくと、ヒートショックのリスクを下げられます。血管を若々しく保つのに効果的な食材と、それらに含まれる栄養成分を知って食事に取り入れてみましょう。
マサバ

サバの脂に含まれるオメガ3系脂肪酸のDHAとEPAには、血管をしなやかにし血液を詰まりづらくする作用があり、動脈硬化予防に有効です。
12月〜2月に流通するマサバは「寒サバ」とも呼ばれ、脂がのりおいしくなります。また、手軽にとりたい場合は、缶詰や塩サバを利用するといいでしょう。
ごぼう

ごぼうに含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸には抗酸化作用があります。抗酸化作用とは、呼吸やストレス、食品添加物などを摂ることで発生する活性酸素が、血管を刺激して老化を早めるのを防ぐ働きのことを指します。
クロロゲン酸は水溶性のため、あく抜きをする際は短時間にし、みそ汁など煮汁ごと食べられる料理にするのがおすすめです。
春菊

冬が旬の春菊に多く含まれるβ-カロテンにも、抗酸化作用があります。抗酸化作用は活性酸素の害から血管を守るだけでなく、ダメージを受けた細胞の修復をする働きもあります。
春菊は生のままドレッシングなどで和えてサラダで食べてもおいしいですし、鍋物など火を通すとかさが減り、たっぷりの量を食べることができます。
高血圧や動脈硬化対策には漢方もおすすめ
高血圧や動脈硬化対策には漢方薬も役立ちます。漢方薬は自然の生薬からできていて、一般的に副作用が少ないとされているため、初めての人でも安心して利用できます。
漢方薬のなかには、「高血圧症」「動脈硬化症」などの症状に効果が認められており、内科で処方されているものもあります。また、漢方薬は症状の改善だけではなく、根本から体質改善をするので、高血圧や動脈硬化になりにくい体を目指すこともできます。

高血圧、動脈硬化の対策ができる漢方薬を選ぶ
高血圧や動脈硬化は、加齢だけでなく、「血管の柔軟性の低下」「血行不良」「ストレスや不眠による自律神経の乱れ」などが原因と考えられます。
高血圧や動脈硬化の対策には、「血圧降下作用」で血圧を下げる働きのほかに、「加齢によるホルモンバランスの乱れを整える」「血流をよくして全身に酸素や栄養を行き渡らせる」「ストレスで乱れた自律神経を整える」「睡眠の質を上げてストレスを改善する」などの働きを持つ生薬を含む漢方薬を、体質や症状に合わせて選びます。
高血圧や動脈硬化が心配な人におすすめの漢方薬2つ
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
老化によって衰えた体を温める働きを高め、動脈硬化傾向のある人におすすめの漢方薬です。疲労感がある、口が渇くなどの症状がある人に用います。
・釣藤散(ちょうとうさん)
ストレスによる緊張を鎮め、高血圧傾向のある人におすすめの漢方薬です。頭痛やめまいがある人に用います。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。