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「もうろうとした意識のなかに現れたのは、私が看取ってきた猫たちでした」──死に瀕した瞬間に見えた景色について、そう振り返るのは曹洞宗長福寺の住職で、ペット霊園ソウルメイトを運営する横田晴正さんだ。
寒さで全身の震えが止まらなくなり…
昔からお坊さんに憧れていた横田さんはサラリーマン生活を経て27才で出家し、修行のため新潟県北部にある修行寺に上山した。
1年4か月に及ぶ修行を終えた2001年3月、修行寺から約100km離れた妻の実家である長福寺まで托鉢しながら歩いて帰る道中で、ひどい土砂降りに見舞われた。
「修行後に徒歩で自分の寺に戻る古いお坊さんへの憧れもあり、黒い僧服に網代笠、裸足に草履で歩いていました。その日は風が強く、夕方から大雨になるなか、路上に車にひかれて亡くなった白茶の猫がいるのを偶然見つけて、亡骸を道端に寄せてお経をあげました」(横田さん・以下同)
3月の新潟は底冷えするほどの寒さ。夜が更けると大雨は大雪に変わり、ずぶ濡れになった横田さんはみるみる体温が下がり、手足の感覚がなくなって全身の震えが止まらなくなった。
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深夜2時頃、「さすがにこれはまずい」と屋根のあるバス停に駆け込み、自販機で買ったお茶で暖を取ろうとしたが極度の疲労でまぶたが重くなり、そのまま眠りに落ちてしまった。
「そこからフィルムのスライドショーを見ているような感じで、自分の生い立ちからの歴史が流れた。走馬灯というものを見ているんだ、と思いました」
そのスライドショーに現れたのが、猫たちだったという。
「10才の頃に何者かに虐待されて、助けてあげたかったけど助けられなかった猫の『ミク』がスローモーションで現れました。そのほかにも、小6のときにいじめられて自殺を決意したとき、私のもとにすり寄ってきて自殺を思いとどまらせてくれた片目の『タマ』や、私がこれまでに看取った動物たちが続々と現れ、最後に登場したのがつい先ほど路上でお経をあげた白茶の猫でした。スローモーションの動物たちを見ながら、“こういう子たちを供養したくて出家したのに死んじゃうのか”と残念な気持ちでいました」
聞こえてきた「寝たら死ぬよ」という声
凍てつく寒さのなか、低体温症で命を落とす危険がすぐそこまで迫った。だがそのとき、「寝たら死ぬよ」という声が聞こえてきた。
「過去に死んでしまった猫を供養したとき、何度か“ありがとう”という声を聞いたことがありました。それと同じような声で“寝たら死ぬよ”という呼びかけが聞こえてきて、ハッと目を開けて周囲を見たけど誰もいませんでした。バス停の周囲を見渡しても人や動物の姿はなかった。臨死中は映画を見ているような時間感覚でしたが、胸に抱えていたお茶がまだ温かかったので、現実の時間ではわずか1~2分ほどの出来事だったのかもしれません」
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猫たちの必死の呼びかけで一命をとりとめ、寝落ちしないようにお経を唱えながら30時間ほど歩き続け、無事に長福寺に辿り着いた。
雪が降りしきる下山中に見た景色によって、横田さんの抱いていた自信は確信に変わったという。
「もともと私は子供の頃から不幸な動物たちと接することが多く、大学を出てから就職した広告代理店をやめて収入ゼロの修行の道に入ったのも、あの子たちを供養したかったからです。
僧侶の道に進むことに不安もありましたが、かつてお経をあげてあげたかった動物たちが走馬灯のなかに現れてくれたことで志を新たにし、自分がこれから歩む僧侶の道が正しいのだと改めて確信しました。それを教えてくれた動物たちに感謝します」
動物たちに救われた命──それを大切にして、今日も横田さんは動物たちの供養を続ける。
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【プロフィール】
横田晴正さん/僧侶。1971年、東京都生まれ。大学卒業後、ペット用品販売、広告代理店勤務を経て、27才で出家。新潟県長岡市の長福寺で住職をしながら新潟と東京に「ペット霊園ソウルメイト」を設立。ペットのお坊さんとして葬儀なども行っている。著書に『ありがとう。また逢えるよね。ペットロス 心の相談室』(双葉社)がある。
※女性セブン2025年2月20・27日号