
「日常の不調」をすぐに相談できるかかりつけ医は、健康維持にとって欠かせない存在だ。訪問医療や看取りも見据え、「人生の最期」まで寄り添ってくれる、いい医師、いい病院に出会うためにはどうしたらいいだろう。ジャーナリスト・鳥集徹と女性セブン取材班がレポートする。
がんや脳卒中など命にかかわる重大な病気に襲われた場合には、専門的な治療ができる大学病院や専門病院にかかる必要がある。一方で、風邪やインフルエンザなどの日常的な感染症やちょっとした体調不良、高血圧や糖尿病といった生活習慣病など、継続的な診療が必要な場合に頼りになるのが「かかりつけ医」だ。
大病院の医師でなくとも、町の開業医が重大な病気を見つけてくれたおかげで、命拾いしたという人がいる。また、家族が認知症になったときや最期を迎えようとするときに、自宅で安心して過ごせるかどうかも、いい「かかりつけ医」を見つけられるかどうかにかかっている。
そんな「信頼できるかかりつけ医」に出会うには、どんなポイントを見極めればいいのか。総合診療や訪問診療の分野で著名な医師たちに取材し、7つのポイントにまとめたので、ぜひ参考にしてほしい。
「赤ひげ先生」こそ理想のかかりつけ医
そもそも「かかりつけ医」とは、どのような存在であるべきなのか。高齢者の在宅医療に取り組む、ひらやまのクリニック院長の森田洋之医師が解説する。
「かかりつけ医というのは日本医師会が作った言葉で、世界的には『家庭医』とか『プライマリ・ケア医』、『総合診療医』(GP=General Practitioner)などと呼ばれています。病気のときや心身の困りごとがあったときにまず診てもらい、必要があれば専門医に紹介するという『二段構えの制度』にしようというのが、かかりつけ医制度が作られた本来の趣旨です。
たとえば頭痛で大きな総合病院に行ったとしても、一般の人には、どの診療科で診てもらうべきか判断できないことが少なくありません。その点、本物の家庭医やプライマリ・ケア医、総合診療医であれば、内科だけでなく外科、婦人科、眼科、精神科等々、すべての診療科の知識を一通り修めています。頭痛といっても脳神経外科ではなく、もしかすると耳鼻科や婦人科の病気に由来するものかもしれない。いろいろな可能性がある中で、総合診療的な視点を持っていれば、専門医に頼ることなく幅広く対応することができる。そういうメリットがあります」

日本にも、日本プライマリ・ケア連合学会が認定する「家庭医療専門医」「プライマリ・ケア認定医」や、総合診療専門医検討委員会が認定する「総合診療専門医」などの制度がある。そうした認定医・専門医・指導医の資格を持っていたり、地域医療に従事した経歴があれば、かかりつけ医として頼りになるだろう。
欧米では、医師の多くをプライマリ・ケア医が占めており、こうした家庭医を登録して、紹介状などを書いてもらわなければ大きな病院にかかれない国が多い。そうすることによって、本当に必要な人に専門的な医療を集中できるようにする意味合いもある。
しかし、日本ではそこまで広く浸透していない。福島県立医科大学総合内科・総合診療学講座で主任教授の濱口杉大医師が話す。

「日本ではまだまだ、総合診療の専門医が少ないという問題があります。昔はどんな町にも『赤ひげ先生』のような医師がいて、小児からお年寄りまで、どんな患者にもとりあえず対応していました。
しかしいまは、かつてより医師の専門が細かく分かれ、大学病院などで専門医としてやってきた医師がセカンドキャリアとして開業するケースが増えています。となると、小児は何十年も診ていないとか、婦人科系が専門であるため、男性の病気は詳しくないといったことになります。それぞれ得意分野や苦手分野があるので、以前のようにひとりの医師がどんな患者にも対応するというのは難しい状況になっています。
たくさんの医師が開業している都会であれば、抱えている病気ごとに別々の専門医にかかることができますが、複数の病気はひとりの患者の中でお互い影響し合っているため、総合的に診る必要があります」
患者に医療情報を提供するハブになる
高齢になると、複数の病気を抱えることが多い。そのような場合に複数の診療科の専門医にかかるのは、致し方ない面がある。認知症を専門とする、くるみクリニック院長の西村知香医師も、複数の医師にかかることは、決して悪いことではないと話す。その中で、「もっとも生活に支障がある病気の専門医をいちばんのかかりつけ医とするのが適している」とアドバイスする。

「たとえば、心臓病で薬の調整が必要といった場合は、循環器内科医をいちばんのかかりつけ医とするのがいいと思います。あるいは糖尿病が持病なら、内分泌内科の専門医がふさわしいでしょう。かかりつけ医は、患者に医療情報を提供するハブ(中核)の役割を担います。ですから、患者さんが自分の専門外の病気になった場合でも、それにふさわしい専門医を紹介できれば問題ありません。
たとえば、内科医に受診した際に、『最近腰が痛いんです』と伝えたとします。それを『年ですから仕方ないですね』で流されたら、なにも解決しません。信頼できる整形外科を紹介するなど、患者に適した問題解決を提示できる医師でないと、かかりつけ医には適さないと思います」
つまり、いざというときに、信頼できる専門医のネットワークを持ち、すぐに紹介できる医師ほど、いいかかりつけ医と言えるだろう。多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹医師も次のように話す。

「実は医療関係者の中にも『口コミ』があります。たとえば、大学病院の外科の教授というと、みんな偉くてすごいと思うかもしれませんが、人によって手術の腕に実力差があります。それに教授ではない先生の方が、手術が上手といったこともある。しかし、それを知っていても、私たちは大っぴらには言えません。
ネットに書かれている口コミも参考にはなりますが、やはり患者さん側だけの評判なので、情報の精度という面では限界はあります。ですから、なんでも気軽に相談でき、医療関係者だけが知る情報を教えてくれる医師をかかりつけにするのがいいと思います」
必要なのはバランス感覚
ただし、注意しなくてはならないのが、「ポリファーマシー(多剤服用)」の問題だ。薬の種類や量が増えてしまうと、作用が複雑に絡み合い、副作用が強く出て、かえって健康を害してしまうケースも出てくる。特に6種類以上の薬をのんでいる場合には、その害が出やすいといわれている。
「ポリファーマシーの1つの原因は、複数の医療機関にかかり、同じような作用の薬が処方されてしまうことにあります。特に高齢者で認知機能が落ちていると、どんな薬が出ているのか細かく把握できないために、ポリファーマシーになりがちです。お薬手帳の普及でだいぶん改善されたとは思いますが、いまも問題視されています」(濱口医師)
薬の処方が増えてしまうのは医師側だけでなく、患者側にも問題があるという。濱口医師が続ける。
「治療を受けたという実感を得るために、みずから薬を求めてしまう人がいるのです。医師が『のみすぎだから、これ以上薬は出しません』と言うと、『あの先生は薬すらくれない』と、その医師を低評価してしまう患者もいます。
高齢者の中には、薬を出してくれる医師ほど、『いいお医者さん』という思い込みもある。しかし、ポリファーマシーの害を避けるためにも、本来は余計な薬は出さずに、処方薬を必要最小限に整理してくれる方がいいのです。薬を処方するときに、のむ期間や、どうなればやめることができるのか。その目安を伝えてくれる医師なら信頼できると言えるでしょう」
もちろん、「薬を出さなければいい」というものでもない。ティーズ内科クリニック院長の土山智也医師は、「かかりつけ医に必要なのはバランス感覚だ」と強調する。

「たとえば、風邪の患者にむやみやたらに抗生剤を処方する医師は困ります。ウイルスによって引き起こされる風邪に、抗生剤は基本的に効かないからです。また、抗生剤を乱用すると耐性菌が出て、患者さんを苦しめてしまう場合もあります。
ですが、高熱が続く患者さんが受診された場合は別です。新型コロナやインフルエンザの検査で陰性だったとしたら、簡単な血液検査をします。そして白血球が増えていたり、炎症マーカーが高かったりした場合には、抗生剤の投与も検討します。細菌感染を起こしている可能性があるからです。
このように、高熱が出ているにもかかわらず、新型コロナやインフルエンザの検査で陰性だったからといって、『風邪ですから寝ててください』で終わらせるのはよくない。逆に、大した熱も出ていないのに、『とりあえず抗生剤を出しましょう』という医師もよくない。なぜ薬が要るのか、あるいは要らないのかを、きちんと説明してくれる医師がバランスが取れていると思います」
高血圧や糖尿病などの生活習慣病の診療にも、バランス感覚が必要だという。土山医師が続ける。

「毎回『変わりないですね。いつもの薬を出しておきます』で診察を終え、ずっと同じ薬を出し続けている医師はちょっと不安です。知らない間に副作用が出ていることもありますし、加齢とともに薬が効きすぎることもあります。また、生活習慣病はほかの病気を合併して発症することもあるので、そのチェックも必要です。
それに、数年もすると新しい薬が出てきます。古くてもいい薬がありますので、患者さんによってはその方が向いていることもありますが、新薬の方が明らかに優れているなら、処方を変えるべきです。もちろん、なんでも新薬というのも極端ですが、勉強を続けて常に新しい知識を取り入れる必要がある。こうした点でも、医師のバランス感覚は、とても重要です」
漫然と同じ薬を処方し続けるのではなく、その薬の必要性について別の薬に変える可能性や服薬をやめることも含め常に気を配りながら心身の状態をチェックしてくれる医師が、いいかかりつけ医と言えるだろう。
若いうちは、定期的に医師を受診することは少ない。だが、年を重ねるほど、医療機関に頼ることが増えてくる。特に認知機能が低下してきたり、体が衰弱してきた場合には、訪問診療、訪問看護、訪問介護などの支援を検討する必要も出てくる。その場合、最期まで支えてくれるかかりつけ医を探すには、どうすればいいだろうか。西村医師がアドバイスする。
「高齢者であれば、まずはお住まいの自治体の『地域包括支援センター』に聞いてみるのがいいでしょう。支援センターの相談員さんは、地域の開業医のことをよくご存じです。『その症状であれば、この先生がいいですよ』と教えてくれるはずです。
また、意外かもしれませんが、地域の医師会に電話してみるのもいいと思います。常勤の職員さんが、地域の医師の情報を把握しています」
最期を自宅で迎えたいなら早めに見つけるべき
在宅療養を希望する人は、必要に迫られてからかかりつけ医を探すことが多い。だが、「そうなる前に、信頼できるかかりつけ医を見つけておくことも重要だ」と大橋医師は言う。
「訪問診療は自分の家の中に他人が入ってくることになるので、それまで信頼してかかりつけにしていた医師がそのまま訪問してくれるのが、患者さんにとってはいちばんです。ですから、自宅で最期まで過ごしたいと思うなら、早めに訪問診療もしてくれる医師を見つけておいた方がいい。
その際、地域のケアマネジャーさんや訪問看護師さんの意見は、非常に参考になると思います。『あの先生はしっかりやってくれる』といった情報を持っているはずですので、地域の各事業所に相談してみてください。そうすれば、訪問介護や訪問看護と連携の取れているクリニックを紹介してくれるでしょう。最期まで伴走してくれる体制を持っているかかりつけ医だと、患者さん自身も安心だと思います」(大橋医師)

最期まで診てもらうとなると、しっかりコミュニケーションがとれるかどうかや、人となりも大切となってくる。濱口医師はこう念を押す。
「専門分野を問わず、治療をする前に必ずその根拠を説明したうえで、治療を開始する医師が優れた医師と言えます」
自分と相性の合うかかりつけ医を見つけるには、どんな点を見極めればいいのか。森田医師はこう話す。
「風邪をひいたとか、花粉症だとかなんでもいいから理由をつけて、とりあえず医師に会ってみるといいと思います。そして、しっかり話を聞いてくれるかどうかを確かめてください。電子カルテの画面ばかりを見て、全然話を聞いてくれず、患者の目すら見ない医師がいるという話をよく聞きます。
いい医師は患者さんの目を見て、ちゃんと話を聞いてくれるはずです。そして、患者さんの意思を尊重してくれる医師を探してください。患者さんの意見を聞かないで、医療的な『正解』を押し通そうとする医師も結構います。
医療は本来、患者さんが選択するべきものです。薬をのむのものまないのも、最終的には患者さんが決めること。いいかかりつけ医であれば、『治療を受けない』という選択肢も尊重してくれるはずです。医師の元を訪れるのは全然失礼なことではありませんから、自分に合ったかかりつけ医を真剣に探してください」
誰もがいつかは医療のお世話になるときが来る。最期まで自分らしく生きられるかどうかは、いい医師に巡り合えるかどうかにかかっているとも言えるだろう。あなたが住み、最期を迎える地で、ぜひ信頼できる「かかりつけ医」を見つけてほしい。

※女性セブン2025年3月13日号