健康・医療

《「薬をやめたい」と医師にうまく伝える方法》円滑にいくタイミングは「診察開始時」、最終手段は「担当医を変える」“説明責任”を果たしているかどうかで見極める

医師に薬を辞めたいと上手にはっきり伝える方法がある(写真/イメージマート)
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体の不調を改善するはずの薬だが、さまざまな副作用があるのも事実。高齢になると複数の不調が重なるようになり、何種類もの薬を服用した結果、“多剤併用”の状態となり体に悪影響が出ることもある。しかし、いざ薬をやめよう、減らそうと思っても医師にその思いを伝えるのはそう簡単ではない。「一度相談したら怒られたことがあるから、また伝えるのが怖い」「関係が壊れるかもしれない」──そんなハードルに悩んでいる人のために、自分の意思を上手にはっきり伝える方法を医師と薬剤師に徹底取材した。【前後編の後編。前編から読む

体の不調を伝え、それが薬と関係しているか尋ねる

医師に薬をやめたいことを伝える場合、どう伝えるかだけではなく、「いつ」伝えるかも重要なポイントだ。

島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授の大野智さんがすすめるのは「診察開始時」。

「多くの医師は最初に患者さんが診察室に入ってきたとき“体調にお変わりないですか?”と聞きます。そのときに “実は出してもらった薬をのみ始めてから下痢になりやすくて……”と切り出すと話が円滑に進みます。

そのきっかけがない場合は、一通りの診察が終わって次の予約を決めるタイミングがよい。医師から“次は4週間後でいいですか”と聞かれたときに“けっこうですが、先生ちょっとよろしいですか”と話を切り出す。

医師としても次の処方を決めるときなのでタイミング的に適しています」

医師に薬をやめたいことをいつ伝えるかが重要なポイント(写真/PIXTA)
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診察が終わりに近づき、「ほかに質問はありませんか」と医師が尋ねたときもベターなタイミングだ。

ただし、すべての過程を終えた後だと医師の逆鱗に触れやすい。

「診察を終えて処方箋のプリントアウトなどもすべて終わってから“実は先生……”と切り出されると事務作業が最初から全部やり直しになります。医師も人間ですから、そのタイミングで言われるとイラッとする確率が高いです」

緊張などでどうしても医師に直接伝えられない場合、別ルートを試してみよう。函館稜北病院総合診療科の舛森悠さんが指摘する。

「受付の人に言って医師に伝えてもらうとか、話しかけやすい看護師に伝えてもらう手があります。 問診票を記入する場合は、そこに書き込んでアピールしましょう」(舛森さん・以下同)

「薬一覧」を準備しておく

複数の診療科にかかって多剤になっている場合はどうすべきか。

「内科でなくても整形外科や皮膚科でかまわないので、 気軽に相談できるかかりつけ医を見つけることが最も大事です。いきなり薬を減らしたいと言うのではなく、いまの健康状態や不調の状態を伝え、それが薬と関係しているのかを尋ねるといい。あくまで相談ベースで話を進めることが望ましいです」

その際は「薬一覧」を準備しておきたい。薬剤師で銀座薬局代表の長澤育弘さんが語る。

「おくすり手帳や各科で処方された薬を一覧に整理して持参し、“いま処方されている薬です。これらの薬の相互作用や重複について確認したいです”と聞くと、医師が判断しやすく適切なアドバイスを得やすくなります」(長澤さん・以下同)

副作用によるふらつきや転倒は命にかかわる (写真/PIXTA)
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患者本人が医師に言いにくければ、「家族」が伝える方法もある。

「その際は“家族が気にしているので”などと理由を伝えて、同席した家族が発言しやすい環境をつくると効果的です。加えて、冷静に要点を伝えられるように事前に話をまとめておくといいでしょう。

その上で “親がこの薬をのみ始めてから調子が悪いようなんです”“この薬が本当に必要なのか、ちょっと確認したいです”と具体的な変化を説明しつつ、“先生のご意見を伺いたいです”と柔らかく伝えるのがポイント。 薬の服用記録や症状の変化を見せると説得力が増します」

その際に、家族が居丈高になることは避けたい。

「主治医の立場からすれば、それまでの患者さんとの関係性があります。いつも外来に付き添って経緯を把握している家族ならいいですが、いきなり診察室にやってきて“薬が多くないですか”と言われたら、主治医も“そういうあなたは誰ですか?”と反発しやすい。

家族が代わりに伝えるなら“この胃薬をのんでいるけど、胃がムカムカするの?”“下剤をのむのは便秘だから?”など、 あらかじめ患者本人に聞いて健康状態と薬の関係を一つひとつ確認しておき、患者の代理として医師に接する努力が求められます」(大野さん)

家族はあくまで主治医と患者の関係性を尊重し、柔らかい物腰で主治医と接することが肝要だ。

大切なのは処方についてしっかりと説明してくれる医師を選ぶこと

交渉術をフルに活用しても医師が薬を減らしてくれない場合もある。

「特に多いのが年配の開業医のケース。“ウチはこの薬しか出さない”と頑なに処方を変えないことがあります」(長澤さん・以下同)

そうした場合は、薬剤師が頼りになる。

医師に伝えにくい場合は、薬剤師に相談するのも手 (写真/PIXTA)
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「“先生にはこう言われましたが、不安が残るので意見を聞きたいです”と申し出れば、薬剤師は対応します。また、処方箋の内容について、発行した医師に薬剤師が問い合わせる『疑義照会』を利用して、“高血圧の薬が出ているが、本人は減塩をがんばると言っているので処方を中止していいですか”と医師に伝えることもできる。

小さなクリニックなどは医師と薬剤師が顔見知りで、薬剤師が医師に直接連絡して減薬を助言することもあります」

ただし、大学病院など大きな病院では薬剤師の力が及びにくい。

「大病院は疑義照会の窓口が薬剤部だったりして、薬剤師と医師が直接話す機会がほとんどない。薬剤師を通すとかえって時間がかかるので、 大病院の場合は患者が直接担当医に減薬を相談する方が現実的です」

複数の病院にかかっている場合は、「かかりつけ薬局」をつくることで自衛したい。

「薬局を1つに決めると、効果が同じような薬が複数のクリニックから処方されていたことを把握しやすく、減薬につながる可能性がある。かかりつけ医のほか、かかりつけ薬局をつくって薬剤師をよき相談相手にすることが求められます」(大野さん)

この先、処方薬情報を網羅するマイナ保険証が普及すれば、薬の服用状況がさらに簡単に把握できて利便性が増すはずだ。

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