
当初、一部のファンからは反対の声も上がり、いまだにそういった声は少なからずある。しかし、一方で番組をきっかけに、彼らのひたむきな姿に感動しファンになった人は数多くいる。早くも、今年の新語・流行語大賞の候補に浮上という報道すらある「タイプロ」。タイプロとは一体何なのか。なぜ、このオーディション番組はこんなにも多くの人を魅了したのか──その社会現象を読み解いた。【前後編の前編】
社会現象となった「タイプロ」
新メンバー発表から1か月あまりが経過してなお、“新生timelesz”の勢いが止まらない。華々しく表紙を飾ったファッション雑誌『anan』(3月12日発売)は緊急重版が決まり、新体制初となる冠バラエティー番組『タイムレスマン』(フジテレビ系)が4月20日からスタートすることも発表された。
彼らが大きく飛躍するきっかけとなったのが、新メンバーオーディション「timelesz project(通称・タイプロ)」である。昨年4月、グループ名を「Sexy Zone」から「timelesz」に変えて再スタートした菊池風磨(30才)、佐藤勝利(28才)、松島聡(27才)の3人が新たなメンバーを迎え入れるために「仲間探し」をコンセプトにオーディションを開始。6次審査までの10か月にわたる道のりがNetflixで全世界に配信されたのだ。

新たな道を選んだ3人が自ら審査員を務めるオーディションには、ファンの間でもさまざまな意見が飛び交った。しかし、厳しい審査の様子や課題に向き合い切磋琢磨する候補生らの姿が回を追うごとに話題を呼び、視聴者数が急増。これまで一度もアイドルにハマったことのない女性はおろか、男性たちも取り込み、飽和状態と指摘されるオーディション番組の中で異例の盛り上がりを見せた。
そして2月15日、橋本将生(25才)、猪俣周杜(23才)、篠塚大輝(22才)、寺西拓人(30才)、原嘉孝(29才)が晴れて新メンバーに選ばれ、グループは8人体制に移行した。タイプロを見て新生timeleszの虜になり、早速ファンクラブに入会した都内在住のKさん(42才/女性)が語る。
「会員証の発送を待っていたら、運営から『現在、会員証の作成にお時間をいただいております』とのメールが届きました。私のような新規の申し込みが殺到して、処理が追い付いていないのだと思います」
社会現象となったタイプロは、ほかのオーディション番組とどこが違ったのか。そして、何が多くの人を魅了したのだろうか。
5人のメンバーが3人と2人に分かれたことで多くのファンが「セク鬱期」に
日本を熱狂させている彼らだが、その道のりは決して平坦ではなかった。2011年11月、菊池、佐藤、松島、中島健人(31才)、マリウス葉(24才)の5人はSexy Zoneとしてジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT、以下スタート社)からシングルデビューして、オリコン初登場1位に輝いた。平均年齢14.4才の初登場首位デビューは歴代最年少記録となる快挙だ。そんな華々しいデビューだったが、本人たちの胸中は複雑だったようだ。
「デビュー時の握手会には事務所の先輩であるKis-My-Ft2やA.B.C-Zが参加して多くのファンを動員しました。つまり、Sexy Zoneのデビューシングルを購入すると、この2グループのメンバーとも握手ができるので、そのファンたちがCDを買って売り上げが伸びたということ。5人は“1位になったとはいえ、自分たちの力はまだまだ足りないんだ”と不安だらけだったそうです」(芸能関係者・以下同)

2012年に男性グループ史上最年少のDVD首位記録を打ち立て、2013年に『NHK紅白歌合戦』に初出場するも、その後は伸び悩んだ。
「若くしてデビューしたのでトーク力がほかのグループと比べて弱く、地上波の冠番組をなかなか持つことができなかった。特に風磨くんは“とがって”いて、レギュラー出演していたテレビ番組の収録にスマホを持ち込み、MCに話を振られても無愛想に返すだけ。年配女性へ投げキッスする演出も露骨に嫌がりました」
2014年には松島とマリウスがSexy Zoneとは別のユニットで活動することになり、グループは事実上分裂した。
「5人のメンバーが3人と2人に分かれたことで多くのファンが心を痛めました。この悲惨な時期はファンの間では『セク鬱期』と呼ばれます。しかもこの頃、同じ正統派路線のKing & Princeの前身となるユニットが結成され、キャラが強い彼らに話題が集まりました」
2015年に5人体制に復帰するも、その後も松島の療養やマリウスのグループ卒業など激震が相次ぎ、2024年3月にはとうとうグループを牽引してきた中島が離れた。どん底まで落ちた3人が苦しみの果てに選んだのが、タイプロだった。
「中島さんが抜けたときは解散しかないと思っていたので、オーディションをすると聞いて驚きました。当時、デビュー時からのファンは猛反対したけど3人は死ぬほど悩んで話し合った末、“中島やマリウスに恥ずかしくない仲間を必ず見つけてやろう”とタイプロの開催を決めたそうです」
苦難の道を歩いてきた3人にとって、タイプロは自分たちのアイドル人生を懸けたオーディションだったのだ。
「選ばれる側」ではなく「選ぶ側」の葛藤にフォーカスしていて魅了された
課題を与えられた候補生のパフォーマンスを菊池、佐藤、松島とダンストレーナーのNOSUKEさん、ボイストレーナーの宮本美季さんが指導・審査したタイプロ。アイドル好きの若い世代だけでなく、老若男女問わず番組に熱狂した。
「股関節の手術から退院後に配信を見始めたら、止まらなくなりました」
そう語るのはお笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐら。
「全体としてスポ根作品で、ドラマ『スクールウォーズ』や『ルーキーズ』(ともにTBS系)を見ている感覚になり、熱にあてられて4回泣きました。学生時代、スタート社のタレントは顔がいいからモテるのだと思っていたけどタイプロを視聴して、あれだけ努力して見せ方を考えて何百人もいるなかから勝ち抜くなんて、そりゃモテるはずだなと思いました。ぼくの妹は昔からスタート社のタレントのファンですが、あれだけ一生懸命やっている人たちなら人間的に信用でき、兄として“妹よ、ハマっていいぞ”と強く思いました」(もぐら)

3人とはドラマなどで共演経験もあるもぐらだが、なかでもドラマ『ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~』(日本テレビ系)で共演した菊池の奮闘に目を奪われたと語る。
「ぼくが何度かドラマの撮影に遅刻して現場の空気が悪くなったとき、風磨くんが“もぐらさん、叙々苑入れるしかないっしょ”と声をかけてくれて、それを機にぼくが叙々苑弁当を70個差し入れしてスタッフと和解し、空気がよくなりました。20万円かかりましたが風磨くんの気遣いはいい兄貴という感じで、お金以上の価値があった。
風磨くんは常にカッコよく明るくて余裕がある印象ですが、タイプロでは自分がプロデュースしたグループの候補生が落選して、そのメンバーたちに“自分のせいだ”と泣きながら謝っていたんです。彼の人間としての本質が見えた気がしてとても感動しました」
同じくコンビでタイプロにハマった空気階段の水川かたまりはこう言う。
「もぐらの言うとおり、タイプロは完全なスポ根で、アイドルの華やかさとは真逆のギャップにもっていかれました。ぼくが初めて脚本を書かせてもらったドラマで佐藤勝利くんとお仕事を一緒にやらせてもらえた縁で、Sexy Zoneのコンサートも何度か見に行っていたからこそ、それまでの彼らとは違う新しい一面に驚きも感じましたね。
自分も番組やライブのオーディションを経験しているので、あのドキドキ感は自分事のようでした。怒られた後に、人を楽しませようとするのって本当にキツいので、すごいことやってるなと、まさに手に汗握る感じで見ていました」
文芸評論家の三宅香帆さんは、自身の世代で圧倒的人気を誇ったSMAPや嵐の活動をリアルタイムで見ていたがゆえにtimeleszには詳しくなかったが、「選ぶ側の葛藤」にも魅せられたと語る。
「これまでのオーディション番組は候補生の喜怒哀楽を描くことがほとんどでしたが、タイプロは選ぶ側の葛藤にもフォーカスしていておもしろかった。選ぶ3人の人柄がどんどん見えてきて、そっちのファンになるオーディション番組はあまりなかったと思います」
当初、三宅さんは新メンバーになった橋本を応援していたが、最終的には松島の推しになったと続ける。
「松島さんはシンプルに、いつ見てもきれいで肌がきめ細かいことにも魅かれますが、アイドルの職業人としてのプロフェッショナルな部分を担保しつつ、候補生の心のケアをするバランスがすごいなと思った。候補生に苦手なことを課しながら上手にコミュニケーションを取る松島さんは“教育者”だなと感じて、どんどん好きになりました」

本誌『女性セブン』で『山田EYEモード』を連載している放送作家の山田美保子さんもタイプロにハマったひとり。
「リーダーシップを取って候補生に本気で物申す3人と、それに応じようと自分の枠組みを取っ払ってがんばる候補生の姿が徐々に見えてきて、スポーツ合宿を見ているようなドラマ性がありました」(山田さん・以下同)
審査はサバイバル方式で進み、4次審査からジュニア出身で、スタート社の俳優部に所属する寺西と原が参加した。「彼らが加わって審査が引き締まった」と山田さんは指摘する。
「あの2人はレッスンを積んで舞台やドラマで活躍していて、ほかの候補生とはスキルが全然違いました。外部の人間ばかりでなく、“事務所イズム”が刷り込まれている2人が最後まで残ったことには大きな意味があった。
私は『国民の元カレ』と愛された寺西くんを10年以上前から応援していました。彼はグループやユニットの経験がなく、ずっとひとりで舞台俳優をがんばっていました。そんな彼が、実はグループに入ることを切望していたことを知って、ビックリして“がんばれ! 絶対に落ちないで!”と必死に応援しましたね」
当初はオーディションに反対だったが、候補生たちの成長を見て心変わりしたファンも少なくない。都内在住の主婦・Mさん(58才)が言う。
「最初はtimeleszの3人と見合う一般人がいるとは思えなかったので、どうせ話題づくりで“合格者なし”のオチかなと冷ややかに見ていましたが、頼りなかった子たちがどんどん洗練されていく様子に目が離せなくなりました。心が折れそうになるメンバー3人を見て、“その気持ちわかるよ”と感情移入もした。住む世界は違えども、挫折感を共有した気になりました」
選ぶ側と選ばれる側がぶつかり合って生まれる熱気―それにあてられてハマっていった人たちは、口々に言う。
「男と男の真剣勝負という感じがした」(37才女性)
「がんばるのはダサいことではなく、カッコいいことだと思わされた」(58才女性)
「久しぶりに熱い気持ちになれた」(70才女性)。
やらせでも、話題づくりでもない、アイドル生命を懸けた「本気」が熱狂を生んだのだ。

※女性セブン2025年4月10日号