
現在放送中のテレビ東京系ドラマ『夫よ、死んでくれないか』が、注目の的となっている。丸山正樹さんの同名小説が原作で、安達祐実(43才)、相武紗季(39才)、磯山さやか(41才)がトリプル主演を務める。夫に強い不満を持つ3人の妻が、満身創痍で命を削りながら“幸せ”を求め、あがく物語だが、放送が始まった当初はあまりにもストレートなタイトルが物議を醸した。夫に対して「死んでくれないかなぁ」と切実に願う3人の妻の姿に、「いくらなんでもセンセーショナルすぎる」と評され炎上したのだ。
しかし一方で、「よくぞ言ってくれた」「私も夫に死んでほしい」と秘かに共感する妻の声も聞こえる。賛否両論を呼んだドラマの背後には、夫婦のいまをめぐる世相が潜んでいる。
「本当に怖いモラハラ」は暴力や暴言、無視よりも恐ろしい
『夫よ、死んでくれないか』でも、2人のモラハラ夫が注目されている。「誰の稼ぎで暮らせているんだ」と専業主婦の妻・友里香(磯山)をバカにする夫・哲也(塚本高史)と、相武演じる璃子の夫・弘毅(高橋光臣)だ。特に弘毅はGPSを使った束縛や妻のメールチェックに加えて、空気を読まず笑顔でこなす奇行の数々が話題となっている。
ドラマを見て、自身の置かれている境遇を璃子に重ねてハッとしたのは、都内に住む会社員のAさん(46才)だ。
「38才で結婚した同じ年の夫との間には子供はいません。不妊治療をしていたこともありましたが、去年、もうふたりで生きていこうと決めました。
すると徐々に夫に“監視”されているような気分になったんです。お昼に何を食べたのか、夜の予定について、休日の過ごし方、買い物したレシートのチェック……『ふたりの時間を楽しみたいから』『裕子の好みをもっと知りたいから』と言われては断りにくくて。『秘密にするようなことがあるの?』と問われると、教えないわけにはいかなくなりました」
そんなことを繰り返しているうちにAさんの行動にはある変化が表れた。
「“夫に見られているから変な買い物はしないようにしなきゃ”“ひとりになりたいときのためのバーにはしばらく行かないようにしよう”と思うようになって。気がついたら、私の24時間の行動はすべて夫が把握している状態になっていました」(Aさん)

モラハラというと、「相手を支配しようとし、思い通りにいかないと殴る、蹴るなどの暴力を伴う」「暴言を吐いて威圧しようとする」などの高圧的なイメージが浮かぶが、実際はそうではないからこそ、悩む妻は多いと夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんは続ける。
「弘毅のように“きみのためだ”と押しつけて縛りつけると妻は自分がモラハラを受けていると気づきにくく、“私が悪いのかな”と自分を責めます。一見、愛情があったり、まともなことをしているように見えて、静かにじわじわと身動きを取れなくするタイプのモラハラは、わかりやすい暴言や無視より恐ろしい。
ドラマの3人の夫のなかで、弘毅がいちばん怖いんですよ」
モラハラ被害が可視化されるようになったことで、被害に気づいた妻たちは「夫に制裁を加えたい」、「夫に復讐したい」などと意識し、口にするケースが増えている。
「昔から夫にやり返したいと望む人は一定数いました。ただし昨今は、表立って『制裁したい』とか『殺したい』といった憎悪的な感情を口にする妻が増えています。実際にカウンセリングの現場でも、相手の心の奥底を引き出していくと、『正直にいうと、夫に死んでほしいと思うときが何度もあります』と打ち明けられることが多々あります」(高草木さん)
一方で、それでも「夫よ、死んでくれないか」と口に出す人は氷山の一角だ。
「モラハラだけでなく、夫の無関心や不倫、DVなどに怒り、“死ねばいいのに”と内心で思っている妻は水面下にかなりの数が隠れていると思います。特に子供の扱いがひどい夫や、子育てに協力しない夫への妻の怒りは計り知れません」
些細なことの積み重ねが何十年もかけて極めて強い恨みや憎しみに
都内在住のBさん(51才)も夫の死を願う妻のひとり。息子への愛情を持たない夫に敵意があると打ち明ける。
「夫は息子が小さい頃、『家がうるさくて落ち着かない』と勝手に会社に願い出て単身赴任しました。戻ってきてからも私や息子が体調を崩すと『自己管理ができていない』と怒るくせに、自分に微熱があると大騒ぎして看病を要求します。
心が弱く不登校になった息子を『お前は一生逃げ続けるダメ人間だ』と罵倒したときは心が凍りつき、夫を殺そうと真剣に思い詰めました。そのときは何とか思いとどまりましたが、家の階段や駅のホームから夫を突き落とそうと考えたことは、一度や二度ではありません」(Bさん)
妻が夫の死を望むようになるのは、ひとつの出来事が原因ではない。小さな「恨み」がいくつも積み重なって「死んでほしい」という気持ちに達する。
「離婚も同じですが、暴力を振るわれて一発で離婚したいと思うよりは、ちょっとした裏切りや嘘やごまかしが繰り返されて破局にいたるケースが目立ちます。小さな恨みがミルフィーユのように何重にも積み重なって、何かのきっかけで限界に達して『この人、本当にもう死ねばいいのに』と思うようになる。
些細なことの積み重ねが何十年もかけて、“これまで何度も伝えてきたのにこの人は変わらない”と諦めの境地に達して、極めて強い恨みや憎しみが生じるのです」(高草木さん)

※女性セブン2025年6月5・12日号