健康・医療

《体温を1℃上げる》「暑いのにお腹は冷たい」「なんとなくだるい」など“冷えバテ”不調を撃退!医師が解説する4つの温活

寒がる女性と健康そうな女性
“暑くて寒い”夏の乗り切り方を医者が伝授(イラスト/とげとげ。)
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外はこんなに暑いのに、私たちの体温は低下の一途を辿っているのをご存じだろうか? 恐ろしいことに、更年期以降の体は、さらに冷えを加速させている。“暑くて寒い”夏をどう乗り切ればいいのか。夏に不調が起きやすい人に必読の「温活ワザ」満載!

現代の夏バテは“冷えバテ”

近年、冬よりも夏の方が体の冷えは深刻になっている。その理由を医師の石原新菜さんが説明する。

「夏に特徴的なのが『内臓型冷え症』です。冷房、薄着、冷たい飲み物や食べ物などで内臓が冷えてしまっている状態です。内臓の不調はだるさや疲れやすさをもたらしますが、そうした症状で、『調子が悪い』と診察に訪れる患者さんは、冬より夏の方が多い。現代の夏バテは『冷えバテ』と、私は呼んでいます」

では、夏が過ぎれば体が温まるのかというと、そうではない。現代人は低体温になっているというのだ。

「1957年に東京大学教授の田坂定孝さんらが、約3000人の健康な男女の体温を測定したところ、7割以上の人が36.9℃ありました。一方、現在の日本人の体温は35.5〜36.2℃がもっとも多いといわれています。約70年で、1℃前後も体温が下がっているのです」(石原さん・以下同)

たかが1℃、と侮れない。体温が1℃下がると、体の機能は大きく変化する。

「体温が1℃下がると基礎代謝は12〜13%下がるといわれています。加えて、免疫力も約30%落ちるため、抵抗力が弱まり、風邪をひきやすくなるのです」

体が冷える原因のひとつに「血行不良がある」と石原さんは言う。

「いちばんの要因は『運動不足』でしょう。交通手段の発達で、多くの人は歩かなくなりました。かつては重労働だった家事も、家電の進化でずいぶん楽になりました。仕事もデスクワークが増えるなど、体を動かす機会が圧倒的に減っています。

体温の約40%は筋肉から作られているため、体を動かさない人、男性に比べて筋肉量が少ない女性は、どうしても体温が下がりやすくなるのです」

ソファに座っている女性
生活が便利になり、体を動かすことが著しく減った結果、筋力が低下(イラスト/とげとげ。)
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食生活の変化もある。

「伝統的な和食や和菓子より、パンやケーキを好む人が増えました。しかし、小麦や白砂糖などの精製された食品は、代謝を下げ、体を冷やしてしまいます」

パンを食べる女性
栄養素や食物繊維を取り除いた精製食品で冷え症に(イラスト/とげとげ。)
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さらに、仕事や人間関係のストレス、睡眠不足、浴槽につからずシャワーだけで済ませるなど、さまざまな生活習慣が積み重なり、体は冷えていくばかり。夏はこれに「冷房、薄着、冷たい飲み物や食べ物」が加わり、もっとも冷える季節となるのだ。

こうした習慣に加え、なんと「加齢」も冷えを加速させる要因になるというから、聞き捨てならない。

パソコンとスマホを操作する女性
24時間情報が流れてくる現代は、ストレスの宝庫ともいえる(イラスト/とげとげ。)
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更年期以降が危険なワケ

「女性は20代から徐々に筋肉が減少するうえ、更年期で女性ホルモンの分泌が大幅に低下します。すると、自律神経が乱れて血流が滞り、より冷えを感じやすくなるのです。

さらに問題なのが、毛細血管の“ゴースト化”。血管はあるのに血液が流れていない『ゴースト血管』が、加齢で促進するのです。

毛細血管は全身の細胞へ酸素や栄養素を届けるという重要な役割があるため、ゴースト血管が増えると血流がみるみる滞る。しかも、70代で約4割の毛細血管がゴースト化するともいわれています」

漢方医学には、人間の体は「気・血・水」で構成されるという考え方がある。「気」は元気、気力など目に見えないエネルギー、「血」は血液と栄養素、そして「水」は血液以外の体液を表す。

「3つのバランスが整った状態が健康とされるため、『血』が滞って冷えを生むと、『気』『水』のバランスも乱れてさまざまな不調が起きるのです」

「気・血・水」の相関図
漢方医学には「気・血・水」の考え方がある
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血の滞りで起こる日常の不調は、むくみや肥満、肩や腰のこりや痛みなどだ。

「低体温で代謝が下がると、体脂肪が燃えにくくなって暴飲暴食をしていなくても太りやすくなる」

冷えが高じると、生活習慣病に至ることもある。

「内臓も筋肉ですから、冷えて血行が悪くなると胃痛や消化不良が起こるほか、腸では便秘や下痢、お腹にガスがたまるなどの不調も。ひどくなると、高血圧や脂質異常症、糖尿病のリスクも高まります。生活習慣病には、『冷え』も大きくかかわっているのです。『血』の滞りと連動して『水』が滞ると、肌の潤いが不足し、かゆみや乾燥を引き起こします。そして、『気』が滞れば気分の落ち込みや不眠というメンタルの問題が生じる。漢方医学で『冷えは万病のもと』というのはその通りで、冷えを軽く見てはいけません」

すでに各地で熱中症警戒アラートが発表されているが、冷えは熱中症の発症リスクをも高めるという。

「四季がはっきりしていた時代、体は汗をかくなどして徐々に暑さに順応する『暑熱順化』ができていました。しかし、低体温になると汗腺を閉じたり開いたりする能力が低下するため、昨今のように急に暑くなると体温調節がうまくいかず、体の中に熱がこもって熱中症になるのです。
とはいえ、いまの気候で冷房をがまんするのは危険ですから、部屋は涼しいまま“温活対策”をする必要があります」

温活のためには、まず自分の体温を知ることだ。

「代謝、免疫力ともに高い健康な人の体温は36・5〜37℃とされていますが、現代の環境を考えると36・5℃あれば理想的で、最低でも36℃はあってほしいですね。35℃台のかたは、すぐに温活にとりかかる必要があると思います」
体温は、いつどう測るのがいいのだろうか。

「朝の起き抜けは体温が低く、14〜15時はいちばん高くなる時間帯なので、間をとって午前10時頃、脇の下で測定してください」

臓器、美容、代謝、免疫力、メンタルの健康は、「適正体温」になってこそ叶う。先述の「ゴースト血管」も、温活に励むことで進行を食い止めることができる。

4つの温活で体温を1℃上げる!

「対策としては、『内臓の冷えバテ』を防ぐため、深部の体温(体内の体温)を上げることが重要です。

全身の免疫細胞の約7割が腸に集中しているといわれており、腸を冷やすと7割もの免疫細胞の活性を下げることになってしまいます」

ガッツポーズする女性
体温を1℃上げることを目指そう(イラスト/とげとげ。)
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そこで石原さんが提唱するイチオシの温活法が「夏でも腹巻き」だ。

「腸をはじめ、主要な臓器はお腹に集まっているので、とにかく温めるのがいちばん。暑いのにお腹まわりは冷たいというかたは、ぜひ試してください。私も一年中腹巻きを手放さず、日中は服に響かない薄手のもの、寝るときは厚手のものと、使い分けています。夏は、すぐに乾いて暖かいシルク入りが使いやすいですが、機能性素材の腹巻きも出ているので、自分に合ったものを探してください」

石原さんは、診察中もレッグウオーマーと靴下のダブル使いで足を保温する。

「大きな筋肉が集中する下半身を冷やすと全身が冷えてしまうので、私は夏でも下半身の熱を逃がさないようにしています」

「外ではたくさん汗をかくし、冷えている自覚がない」という人も、油断できない。

「汗をかく場所が上半身だけという人は、下半身が冷えている可能性が高い。自分が思う以上に冷えは進んでいますので、足を冷やさないようにしましょう」

熱を作るもととなる筋肉を落とさない対策も重要だ。

「特に、下半身を動かすこと。おすすめは、手軽にできるスクワットです。30回やっても1分程度と、手軽にできます。1日20分くらいのウオーキングができたらよりいいのですが、夏は無理せず、簡単なスクワットで充分です」

一日中冷えていた体を温め、深部体温を上げるには夜の入浴が欠かせない。

「40℃くらいの湯に10〜15分つかりましょう。汗がじんわり出てきたら、体温が1℃上昇したサインです。スクワットと入浴をセットにすれば、すでに体が温まっているので入浴の効果が表れやすいです」

食事のときには、薬味を“ちょい足し”する習慣を。

「ねぎやしょうがは体を温め、胃腸の血流や消化を促します。また、たんぱく質が摂れて腸内環境をよくするみそや、ミネラル豊富な天然塩も温活の強い味方。夏が旬のきゅうりやトマトは体を冷やしますが、みそや天然塩を添えることで冷えを補ってくれます。みそ汁を毎日の習慣にするのもおすすめですが、面倒ならみそとお湯を溶くだけでもOK。毎日飲んでいただきたいですね」

しょうがやねぎを器に入れている
薬味の“ちょい足し”も温活に(イラスト/とげとげ。)
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4つの習慣を実践することで、1か月で1℃アップも夢ではないという。

「私もかつてはひどい花粉症やにきび、冷えに悩まされていましたが、19年前くらいから4つの習慣を続け、いまは体も心も絶好調です。

健康のレベルを上げておくと、少々疲労がたまっても引きずらず、好不調の幅が少なくなりますよ」

体温+1℃を目指す4つの温活

【1】内臓と下半身の保温

長時間の外出以外は腹巻きで内臓を保温。室内では足元を冷やさないことが大事。

腹巻きや靴下
保温グッズを活用(イラスト/とげとげ。)
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【2】軽い運動

いすに座るよう腰を落とし、座る直前で立ち上がる。これを30回繰り返す。下半身の筋肉維持になる。

いすに座るよう腰を落とし、座る直前で立ち上がる
いすに座るよう腰を落とし、座る直前で立ち上がる(イラスト/とげとげ。)
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【3】入浴

浴槽につかり、内臓まで温めよう。暑くてつらいときは、クール系の入浴剤などで涼やかな演出を。

風呂に入る女性
浴槽で内臓まで温める(イラスト/とげとげ。)
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【4】食事に薬味をちょい足し

おかずや汁物などに、刻んだねぎとしょうがを加える習慣をつけよう。

◆教えてくれたのは:医師、温活マスター・石原新菜さん

イシハラクリニック副院長。漢方医学、自然療法、食事療法により種々の病気の治療にあたる。わかりやすい医学解説にも定評がある。『カラダを温めて冷えをとる!温活365日』(内外出版社)ほか著書多数。

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2025年7月31日・8月7日号

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