
「猛暑日が続くいま、めまいを訴える人が増えています」とは、脳神経内科医の丹羽潔さん。体の平衡感覚を司る三半規管を満たすリンパ液が脱水で減り、流れが悪くなるのが原因だという。ほかにも原因はさまざまあるが、めまいには深刻な病気が隠れていることも。めまいのせいで転び、けがをして寝たきりになれば認知症になる可能性も上がる。危険なめまいの対処法について専門医に聞いた。
4種のめまいタイプを診断の目安に
日本語国語辞典『広辞苑』によると「めまい」とは、「目が回ること、目がくらむこと」とある。脳神経内科医の丹羽潔さんは、「このように、『めまい』という言葉の意味があいまいなせいで、症状も原因疾患も多岐にわたります」と話す。
脳や耳に原因があるめまいをはじめ、熱中症や貧血、アルコール・乗り物に酔った際の症状にも「めまい」が含まれる。年齢を問わず悩む人が多いのが特徴だが、加齢とともに患者数は増え、65才以上の約3割にめまいの自覚症状がある。特に女性は男性の約1. 7倍も有訴者率が高い(※データは厚生労働省が行った「令和元(2019)年 国民生活基礎調査」より。有訴者とは自覚症状のある人のことをいう)。
「医療現場では、めまいを症状別に4つのタイプ(ぐるぐる・ふわふわ・くらくら・ふらふら)に分けて大まかな診断の目安とします。
最も患者数が多いのが、目がぐるぐると回る真性めまいで、中でも『良性発作性頭位めまい症』が最多。次いで『メニエール病』が多いといえます。最近ではスマホの使いすぎによって猫背となり、頸椎が変形(通称・スマホ首)して交感神経が刺激されて起こる『頸性めまい』も増えています」(丹羽さん・以下同)

女性に多いめまいは主に2種類ある
丹羽さんのめまい専門外来を受診する患者の4割以上が良性発作性頭位めまい症、約1割がメニエール病だというが、それぞれどんな疾患なのか。
「良性発作性頭位めまい症は、就寝前や起床時などに寝返りをうったり、起き上がったりするときに発症しやすく、ぐるぐると目が回るような状態が数分から1時間程度続きます」
平衡感覚を司る三半規管に耳石(※耳の奥にある「前庭」という器官に存在する、炭酸カルシウムの結晶でできた小さな粒。頭の傾きや重力を感じる役割を担う)が入り、それが三半規管内のリンパ液を異常な流れにすることでめまいが起きるという。
「耳石は本来、三半規管の前に位置する耳石器の上に固定されているのですが、それが何らかの理由で剝がれ落ちてしまうのです。エストロゲンの減少や加齢、骨粗しょう症などが原因のひとつとされるため、更年期前後の女性に患者が多いといえます」
一方メニエール病は、30〜50代の女性に比較的多く、ストレスなどによって内耳のリンパ液が増え、三半規管や蝸牛(内耳にある聴覚を司る器官)が水ぶくれの状態になることでめまいが起こる。
「難聴、耳鳴り、耳が詰まる感じなどの蝸牛症状を伴うめまい発作を反復する場合は、メニエール病の可能性が高いといえます」
原因がわからない場合はMRI検査を
良性発作性頭位めまい症やメニエール病によるめまいは症状が強いケースが多いが、適切な治療で改善可能である。めまいが怖いのは、症状が強いからといって、必ずしも悪い病気というわけではなく、それほど強くないめまいでも死に至る病気と関係することがある点だ。また、ぐるぐると回転するようなめまいが、必ずしも良性発作性頭位めまい症やメニエール病ではないなど、めまいの症状だけで病気が特定できないのも厄介だという。

「私の患者さんにも、軽いめまいだったにもかかわらず、大きな腫瘍が見つかったケースがあります」
女性は日常的に低血圧や貧血の症状を抱えているケースが多く、ちょっとしためまいを「いつものこと」と軽視しがちだが、自己判断は厳禁だ。
「めまいの発作を繰り返すようなら、たとえすぐに症状がおさまったとしても、一度検査を受けましょう。診療科は『めまい外来』が理想的ですが、近くにない場合は、耳鼻咽喉科か脳神経内科へ。めまいと同時に耳鳴りや難聴を発症した場合は、耳のトラブルが疑われるので耳鼻咽喉科へ。それ以外の場合で、特にめまいとともに、激しい頭痛や手足のまひ、舌のもつれ、ものが二重に見えるなどの症状があれば、かなり危険。小脳や脳幹部でのトラブルが疑われるので、すぐにMRI検査が可能な脳神経内科を受診してください。救急車を呼んでもいいと思います」
耳のトラブルではないめまいの原因疾患を調べる場合、血液検査やCT検査ではなく、MRI検査が有効だという。CT検査ではめまいを起こす小脳や脳幹部が撮影できないからだ。
「どうしても診断がつかないケースも2割程度ありますが、MRI検査を受ければ脳腫瘍などの深刻な病気が関係しているかどうかがわかりますから、そこで危険な兆候がなければ、ひとまず安心できます」
原因がわからない場合や脳が関係していない場合は、家庭でできるセルフケアで改善することもある。
「道路の白線の上を、はみ出さないように10mほど歩いたり、何かにつかまりながら目をつぶって30回ほど足踏みしたりする習慣をつけるだけでも三半規管は鍛えられます」
さらに詳しいセルフケア方法は以下で紹介する。