
ボスママならぬ“ボスババ”のいじめ、元エリートたちのマウント合戦、恋愛トラブルで四角関係、暴力、詐欺──。“終のすみ家”にと思って選んだ場所なのに、予想外のトラブルに巻き込まれることも…。今回は実際にあった事件を施設職員や入居者、入居者家族から聞いた。高齢者ホーム内で起きているリアルに迫る!
家族のカスハラが昨今、大問題に!
「他人同士」で生活を共にする高齢者ホーム。入居者同士の人間関係のいざこざのほかに、施設内で起こるトラブルに、いま変化が起きている。
「最近は、家族による施設や職員への迷惑行為が増えています」 とは、弁護士の武田竜太郎さんだ(「」内以下同)。
「入居者を心配する気持ちがある一方、『言いたいことを言わないと損をする』と思う家族が増え、カスハラ(※)が激化しています。度を越すと、入居者が施設から退去させられ、割を食うことになります」
職員と入居者、双方の立場で起こりうるトラブルの実情を知れば、対策が見つかるかもしれない。
※カスタマーハラスメントの略称。顧客が従業員に対して行う、不当な要求や過剰な言動といった迷惑行為を指す。
家族からのカスハラ、入居者からの暴力ーー職員を煩わせる事件&トラブル10
職員による入居者への暴力が世間を騒がせるが、入居者やその家族から職員への迷惑行為も頻発。その事実を知ってほしい。
法律で解決
事件【1】ルール違反を咎められ八つ当たり
弁護士の介入を要するほど複雑化するトラブルには、入居者家族によるカスハラが昨今は圧倒的に多いという。
「勤務時間が不規則で面会時間内に来られず、母親に会えないとかねて不満を募らせていた男性がいました。あるとき職員への感謝のつもりで菓子折りを持参したのですが、『規則だから受け取れません』と断ると激怒。廊下で声を荒らげて職員に詰め寄ったため、警察によって強制退去させられました」
これは業務妨害と不退去罪にあたる。同じことをしたら退去してもらう旨の警告文を送った。
事件【2】いないはずの身内が入居者の死後、突然現れて
「90才の身寄りがない男性が施設に入ることとなり、施設が代理で男性の家(建物)を売り、そのお金を入居費用にすることに。3年後に男性が亡くなると、息子を名乗る人物が『父の財産を返せ』と要求。現在、和解に向けて話し合い中です」
【類似ケース】
「入居者の女性(87才)が他界すると、絶縁していた息子から連絡が。息子に通帳や遺品を渡した際、『何度か通帳からお金が引き出されているが、職員が盗んだのではないか』とクレーム。職員は女性の指示で出金していたことを説明し、納得してもらいました」
事件【3】職員による入居者への虐待もまれに起こる
「入居者の横暴な態度に夜勤の疲れが重なり、ストレスから認知症の入居者に職員が暴力を振るった事件が。同僚が止め、入居者に大きなけがはなかったものの、施設が和解金を支払って謝罪しました」
【類似ケース】
「認知症で寝たきりの90代男性に、40代の男性職員が暴力を振るっていた事件もありました。監視カメラに暴力の現場が録画されていて発覚。虐待事件はめったに起こりませんが、万が一にもそういう施設を避けるためには、『職員が生き生きと明るく働いているか』『施設専任の弁護士がいるか』を確認するのがおすすめです」
事件【4】認知症の入居者が杖で職員を殴って骨折させ…
暴力は入居者が振るうケースの方がかなり多い。
「無理やり施設に入れられた89才男性が、その不満から、職員を後ろから杖で殴り、上腕部を骨折させたことがありました」(介護福祉士・川西弘子さん)
入居者に認知症の症状があったため罪には問えず、家族とも話し合いの末、職員の治療費は施設が負担した。その入居者には杖の使用をやめてもらい、代わりに歩行器を使用してもらうことになったという。

機転で解決
トラブル【1】チップおばあさんのお小遣い攻撃に神対応
「認知症の入居女性Aさん(88才)は元会社経営者で、かつては従業員にお小遣いをあげていたのでしょう。職員を従業員だと思い、お世話するたびに1000円のチップをくれるんです。気持ちはありがたいのですが、金品の受け取りはNG。かといって受け取らないと機嫌を悪くするので、施設の対応としてAさんに悟られないように財布に戻していました」(川西さん・以下同)

トラブル【2】財産が心配で夜中に何度も職員に確認をせがみ、業務を妨害
「施設の金庫に全財産があると思い込んでいる認知症の女性Bさん(83才)は、夜になると『お金があるか確認して』と訴えるんです。『大丈夫でしたよ』と伝えると安心するのですが、朝まで同じことを繰り返すんです」
職員の仕事に支障をきたしたため、コールボタンの近くに「お金はすべて○○銀行に預けました」と貼り紙をしたところ、呼び出しが減ったという。

トラブル【3】アクセサリーが盗まれたと、職員を犯人にして大騒ぎ
「認知症の女性Cさん(85才)は日中使用したアクセサリーを部屋のどこかにしまってそのことを忘れ、夜になると『盗られた』と大騒ぎします。職員総出で大捜索し、見つかっても『あんたが盗ってここにしまった』と責められます。これが一晩に何度も続くのです」
そこで「素敵なアクセサリーだから額に入れて飾ってはどうか」と提案したところ、問題行動を起こさなくなったという。

トラブル【4】職員が困った様子を見たくてわざと問題行動をとる
「職員が困っている様子を見るのが楽しいらしく、わざといたずらをする90代の女性入居者がいました。おむつの中の高分子吸水剤を床にまいたり排水口に詰めたり…。吸水剤は無害でも高齢者が飲み込むと命にかかわるのでいつもハラハラしていました」
排水口に詰まると、業者に処理してもらわないとならない。こうした行為が毎晩3回は続いたため家族と相談の末、退去となった。

トラブル【5】レクリエーションの講師を罵倒して雰囲気を壊す
「89才の女性Dさんは華道の先生でおしゃれなかたでした。そのせいか、レクリエーションで訪れる華道の講師に対して毎回、『下手!』『センスが悪い』などと罵倒。ほかの入居者さんたちに嫌な思いをさせるので、『今回の講座、Dさんのようなプロにはもの足りなかったですね』とフォローしつつ、その時間は自室で交代で職員がおしゃべり。さりげなく、講座には参加させないようにしました」

トラブル【6】若い女性職員にプロポーズ。セクハラ問題になることも…
「元会計士の男性Eさん(88才)はダンディー。30代の女性職員に恋をし、『私の専属になってください。一緒に暮らしましょう』とプロポーズを繰り返していました」
これはトラブルにまでならなかったが、女性職員が自分の思いを受け入れてくれないと暴力を振るったり下半身を露出したりするケースも。職員がうつ状態に陥ることも多く、退去をすすめられる原因に。

◆教えてくれたのは:弁護士 武田竜太郎さん
弁護士法人おかげさま 横浜法律事務所在籍。神奈川県弁護士会所属。不動産会社や外資系の法律事務所などでキャリアを積み、現在、さまざまな角度から介護問題に取り組んでいる。
◆教えてくれたのは:介護福祉士 川西弘子さん
グループホームや特養などでの介護歴は12年。先輩の指導や実務を通して「本当に幸せな老後」とは何かを知り、介護の仕事のすばらしさの普及に努める。
取材・文/上村久留美 取材/川辺美奈子
※女性セブン2025年10月16・23日号