【認知症でも自分らしく生きるための「家族会議」】元気なうちから介護などについての希望を周囲に話しておくことが大事 生活支援を決めるうえで重要な指針は「本人の希望」

家族が認知症になったら──これは決して他人事ではなく、どのようなケアが最適か家族で話し合うことは重要だ。それは“いつか自分が認知症になったとき”のためにもなる。誰もが認知症になりうる時代、家族を忘れ、できることが少なくなったとしても自分らしく最期までいられたなら本望だろう。認知症と共に生きるため、どのタイミングで何を相談すればよいのだろうか。【全3回の第1回】
厚労省によると、2022年時点で認知症高齢者(65才以上)は443万人、また軽度認知障害(MCI。日常生活に大きな支障がないものの、認知機能の低下が見られる状態)の高齢者も559万人と推計される。2025年には65才以上の認知症患者数が約650万〜700万になると予測されており高齢者の5人に1人が認知症になる計算だ。
都内に住むAさん(66才・女性)が言う。
「昔はがんになるのは避けたいと思っていましたが、年を重ねるうちに認知症への不安が増してきました。2年前に亡くなった母が、晩年に認知症を発症したことも影響しています。家族のこともわからなくなり、徘徊したりよくわからないことを言ったりと介護が大変で……。最終的には施設に入れてしまいましたが、個室に隔離されてみるみる症状が進行してしまった。いつか自分もみんなに迷惑をかけて、わけのわからないまま死んでいくのかもしれないと思うと怖いです」
奥村メモリークリニック理事長の奥村歩さんは「認知症は生老病死のうち、病と死の間にある5つ目の宿命と考えるべき」と話す。
「誰もが認知症になりうることについては少しずつ理解が進んでいますが、“何もできなくなる”という誤解は根強く残っています。認知症は記憶障害や見当識障害、実行能力の低下、理解や判断力の低下などによって、確かにできなくなることも増えますが、イコール不幸ではありません。不便にはなりますが、サポートがあれば人生を楽しむことはできるので、認知症になったからと絶望する必要はないのです」(奥村さん)
負のスパイラルに陥らないために必要なのは、患者とその家族が「認知症になっても自分らしさは失われていない」と認知症状に対して正しく対応することだ。
自分の価値観を共有しておく
認知症になる前に家族会議を開くことが大切だと説くのは、介護保険外看護サービス・わたしの看護師さん代表の神戸貴子さんだ。
「人間はいつ交通事故などで意思表明ができなくなるかわかりませんから、元気なうちから介護や終末期医療などの希望について、周囲の人に話しておくことが大事です。家族がそうなったら、ということと同様に自分ならどうしたいかという話もできます。その際に“もし認知症になったら”というテーマについても触れるといいでしょう」
発症してからでも遅くない。アルツクリニック東京院長の新井平伊さんが言う。
「残念ながら現段階で完全な治療法や予防法は存在しないので、認知症になる可能性は誰にでもあります。
発症してしまった場合、病気を持った人生をどう送っていきたいかを話し合うことで、家族もどのようにサポートすればいいか考えられます」
神戸さんが言い添える。
「家族が認知症を発症した後の会議は、介護者のための会議に陥りがちなので、本人を前にしたときは傷つけないように発言に注意が必要です」
認知症は段階的に進む病気で、軽度、中等度、重度を5年間隔程度の期間で進行していくため、必要なサポートも段階的に変わっていく。そのときの生活支援を決めていくうえで重要な指針であるのが、「本人の希望」なのだ。

「認知症ですから忘れることもあるため、話し合った内容をノートに書いておくことは大切です。
また人の意見は時間とともに変化するのは当然です。認知症は脳の病気ですが、脳全体の機能が落ちるわけではなく正常な部位も多く残っています。認知症だからと特別視する必要はなく、本人の希望に合わせて都度話し合いをしてください。医学的な部分の判断は主治医に聞くとよいと思います」(新井さん)
認知症は家族もサポートにあたり戸惑うものだと、川崎幸クリニック院長で社会医療法人財団石心会理事長を務める杉山孝博さんが指摘する。
「介護する家族は4つの心理ステップをたどります。第1ステップは認知症のかたのこれまでにない言動に戸惑い否定したいという気持ち。それを乗り越えると次は第2ステップの、認知症のかたの言動への対応法がわからない戸惑いや苛立ち、疲弊しての拒絶です。
そして第3ステップになると割り切りや諦めで精神的負担が減り落ち着いた関係となり、第4ステップでは認知症患者をありのままに家族として受容できるようになります」(杉山さん・以下同)
認知症患者と接するうえでは、第1、2の苦しさをどう解消できるか。これができないと、当事者も自分自身も苦しむことになる。そのため会議には、医師を含めた専門家にも参加してもらおう。
「その時々でさまざまな専門職種の人と接して、いろいろな知識やケースを知ることが大事です。話をするなかで自分の感情や疑問なども整理ができるので冷静になることができます」

(第2回につづく)
※女性セブン2025年8月14日号