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《「痛くない死に方」を迎えるには…》医師や看取りのプロが語る終末期の現在地「適切な緩和ケアを施せば9割以上の確率で強い痛みから解放される」 

「死」を上手に迎える方法とは(写真/PIXTA)
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「自分らしく死にたい」「最期は自宅で家族に看取られたい」と願う人は多いだろう。しかし、少しでも間違えるとその願いは叶わない。それどころか、肉体的な痛みだけでなく、自分の尊厳が奪われる苦しみも味わうことがある。いつかは必ず訪れる「死」を上手に迎える方法とは──名医と看取りのプロフェッショナルに話を聞いた。【前後編の前編】

《久米は、最後まで“らしさ”を通したと思います。大好きなサイダーを一気に飲んだあと、旅立ちました》

 今年1月1日に肺がんのため亡くなった久米宏さん(享年81)の穏やかな最期について、妻の麗子さんはこんなコメントを発表した。

 苦しむことなく、安らかに自分らしく旅立ちたい──誰もがそう願うが、現実は厳しい。

 乳がんで38才の妻を亡くした、都内在住のAさん(42才)がつらそうに語る。

「がんがわかったときはすでに末期でしたが、妻は幼い子供のために根治すると誓い、手術で片方の乳房を全摘して抗がん剤治療に臨みました。しかし思うように薬が合わず常に不調を訴えるようになり、どんどんやせていきました。

 結局、半年持たずに力尽きました。闘病生活は壮絶の一言で、妻に“がんばれ”と言い続けた自分をいまも責めています。もっと安らかな最期を迎えさせてあげればよかった」

 さまざまな経験や思いとともにたどり着く人生の最終局面。どうすれば痛みや苦しみがなく、穏やかな最期を迎えられるのか。

寝ている間に致死的な不整脈が出て亡くなるのは“苦しまない死に方”

 そもそも「痛くない死に方」は存在するのか。

 現役の看護師で、『後悔しない死の迎え方』の著者である後閑(ごかん)愛実さんが語る。

「結論から言うと、“この病気なら痛くない”“この死に方なら苦しまない”という病気や死に方はありません。ただし、痛みや苦しみが比較的出にくい経過をたどりやすい場合はあります」

 痛くない死に方として、早期緩和ケア大津秀一クリニック院長で緩和ケア医の大津秀一さんが指摘するのは「老衰」だ。

「本当にまったく苦痛がないかを他者が把握するのは難しいですが、客観的に観察する範囲で老衰は苦しみが少ない例が多いように見受けられます。

 最近、私が施設で看取った80代後半の女性は老衰で必要以上の医療行為を望まず、自然なかたちで最期を迎えることを希望しました。彼女は少しずつ食事の量が減り、最期は眠るように息を引き取りました」

 実際、国立がん研究センターが亡くなった患者の遺族を対象に聞き取りを行った「遺族調査報告書 2023年度調査」によると、遺族が「痛みが少なく過ごせたと感じた」疾患別のトップは「老衰」で、以下、「アルツハイマー病」「認知症」「心疾患」「腎不全」が続いた。後閑さんが続ける。

「高齢者の心不全や感染症は徐々に体力が落ちて意識がぼんやりし、眠っている時間が増えていきます。その結果、苦痛を強く訴える前に死を迎えることがみられます」

 大津さんも「眠っている時間」と「痛くない死」との関係に注目する。

「寝ている間に亡くなった場合、一般に苦しみが少なくなると考えられます。たとえば、寝ている間に致死的な不整脈が出て亡くなるケースは、苦しまない死に方のひとつといえると思います」

 一般に脳血管疾患や急性心臓死などによる「突然死」は苦痛が少ないイメージがあるが、そうとも限らないと後閑さんが指摘する。

「年齢や症状の程度などでも異なりますが、突然死だからといって必ずしも苦痛が少ないとは限りません。特に目が覚めている場合は、発作から亡くなるまでの間に強い息苦しさや不安を感じるかたもいます」

日本人の死因トップは「がん」
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 中には、強い痛みとともに死に至る病もある。その代表が、日本人の死因トップである「がん」だ。

「すべてのがんで痛みが出るのではなく、さまざまな統計はありますが、3割程度のがんは最期まで痛みがないという見解があります。

 それでも、がんが大きくなって周囲の神経を圧迫したり、骨転移や内臓への浸潤がみられたりすると強い痛みが生じることがあります。また、末期のがんは体の痛みだけではなく、しばしば倦怠感や息苦しさといった苦痛症状を伴います」(大津さん)

 がんが骨転移した際は、「寝返りを打つだけで激痛が走る」という深刻な症状もみられるという。

 日本人の死因2位の「心疾患」のうち「心筋梗塞」は心臓の冠動脈が詰まって血流が止まり、心筋が壊死する病気だ。その痛みは「熱した鉄棒で心臓をえぐられるよう」と表現されることがある。

 2年前に心筋梗塞で夫を亡くした、都内在住のBさん(53才)が恐怖の時間を振り返る。

「自宅でくつろいでいた夫が突然胸を押さえてうずくまり、苦悶の表情を浮かべて手足をばたつかせ、その後、搬送先の病院で息を引き取りました。がまん強かった夫が悶えて苦しむ姿が目に焼きついています」

 激痛を感じる血管系の疾患はほかにもある。

「背中に比較的近い場所を走る大動脈の壁が裂ける大動脈解離は、しばしば猛烈な痛みを伴うのが特徴で、発症すると短い時間で死に至ることがあります。

 脳梗塞は、発症時はそれほど痛みが出ませんが脳内で感覚を司る視床に影響が及ぶと、後遺症で難治性の痛みが出るケースが少なくありません」(大津さん)

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