
食後に集中力が切れる、夕方になるとなぜかイライラする──なんとなく気分がすぐれないのは血糖値の乱れが原因かもしれない。体だけではなく、メンタルにも影響を与える血糖値の働きを理解してそんな悩みの解消につなげてみよう。【前後編の前編】
「疲れているだろうし、夕飯は簡単なものでいいよ」
金曜日の19時過ぎ。仕事と買い物を終え、急いで食事の準備をしていた会社員のAさん(58才)は、夫からこんな言葉をかけられた。いつもなら優しさと受け止められるのに、その日は激怒して包丁をまな板に叩きつけてしまったという。
「疲労がたまっていたのもあると思いますが、なぜか“早く飯を作れ”と言われている気がして、気づいたら“じゃあ、あなたが作れば?”と叫んでいました。夫の思いやりと気遣いから出た言葉なのはわかっているのに怒鳴ってしまった自分が情けなくて、あとから落ち込みました」
実はこの怒りの正体は「血糖値」にあるという。『気分の9割は血糖値』の著者で、こいけ診療所院長の小池雅美さんが指摘する。
「血糖値の乱れはさまざまなメンタルの不調を引き起こします。夕食前は昼食から時間が経って、血糖値が大きく下がっている時間帯です。低血糖により交感神経が刺激され、感情が高ぶりやすくなり、爆発したと考えられます」
そもそも血糖値とは、血液中に存在するブドウ糖の量のこと。食事で摂った糖分は体内で分解され、ブドウ糖として血液を通じて全身に運ばれ、体のエネルギー源となる。
「ブドウ糖は、体を動かす“ガソリン”のようなものです。多すぎても少なすぎても不調の原因になる。本来、体には血糖値を一定に保つシステムがあり、余った糖は一時的に肝臓や筋肉に蓄えられ、糖が少なくなると血中に補充されます」(小池さん・以下同)
特に気をつけたいのは普段の血糖値は正常なのに、食後に血糖値が急激に上昇し、その後急降下する「血糖値スパイク」だ。
「通常、食事をすると血糖値はゆるやかに上昇し、その血糖値を下げるためにすい臓から体内の調整機能が働いて、徐々に血糖値が下がります。しかし、この調整機能がうまく働かなかったり、炭水化物を多く含む食品を摂取すると血糖値が急上昇。それを下げるためにインスリンが大量に分泌されて今度は血糖値が急激に下がり、眠気や倦怠感、肩こり、めまいなどさまざまな症状が起こります。
また、インスリンには余った糖を脂肪として蓄える働きもあり、過剰に分泌されると食べすぎていなくても太りやすくなります」
食後1〜2時間のうちに血糖値が140mg/dL以上だと、血糖値スパイクの疑いがある。この血糖値の乱高下が続くと血管への負担が蓄積し、動脈硬化との関連が指摘されている。それだけではなく、がんや認知症のリスクを高めるとも指摘されているのだ。
血糖値が急降下すると戦闘モードになる
血糖値と聞くと、糖尿病との関係を思い浮かべる人が多いだろう。しかし前述の通り、心の状態にも大きく関係している。
「血糖値は自律神経と密接につながっているので、感情にも影響を与えます。血糖値が下がると脳は“飢餓状態”だと判断して、『攻撃ホルモン』のアドレナリンやノルアドレナリンを分泌します。本来は身を守るためのホルモンですが、これによって交感神経が優位になって興奮し、イライラや不安、攻撃性が高まるのです」
冒頭のAさんが突然、夫に激怒したのも、まさにこの状態だったといえる。
東京都在住のBさん(42才)も、義母からの電話に激高した経験があると明かす。その電話はBさんが遅めの昼食のトーストをコーヒーで流し込んだ直後だった。
「“孫の七五三の着物はどうするの? こちらで手配しようか?”という親切な申し出で、普段なら“ありがとうございます”と答えるはずでした。でもその日は、着信音を聞いた瞬間から心臓がドキドキして冷や汗が出て、義母から“どうせ準備できてないんでしょ”“頼りないわね”と責められていると感じて、“決めているから放っておいてください”とキレて、一方的に電話を切ってしまったんです」

これは血糖値が不安定になることで起きる脳の過剰反応だという。
「パン(精製糖質)とコーヒー(カフェイン)の組み合わせはジェットコースターのように血糖値を急上昇、急降下させます。
低血糖により脳が飢餓状態になったため『戦闘モード』に入り、攻撃性が高まって目の前の相手を『敵』と誤認したのでしょう。何気ない言葉を『攻撃』と誤認し、ちょっとしたことで反撃してしまうのです」(小池さん・以下同)
血糖値スパイクは男女共通して起こるが、特に女性は感情面の影響を受けやすいとされる。
「女性の多くは月経による鉄欠乏の状態にあり、交感神経が優位に働きやすい。そこに血糖値スパイクが重なると、興奮状態による感情面の弊害が強く現れます。
イライラしたときに甘いものを食べる手が止まらないのも、血糖値が影響しています。生命の危機を感じた脳が、“早く血糖値を上げるものを摂れ”と強い指令を出しているからです」
閉経から時間が経っても、鉄分不足が続いているケースは珍しくない。
「更年期以降は女性ホルモンの減少や加齢の影響で、血糖を処理する力が弱まり、血糖値スパイクが起きやすくなります。また、加齢で筋肉量が減ると、糖の一時的な貯蔵庫である『糖の受け皿』が少なくなり、余った糖が血液中にあふれて血糖値のコントロールが難しくなります。逆にいえば、血糖値さえ管理できれば、イライラやストレスが解消され、精神的にも安定するのです」
(後編に続く)
※女性セブン2026年3月12日号