
私たちは日ごとに年を重ね、老い、最期に向かっている。人生100年時代、人はより長く生きられるようになっているが、80代、90代という“未経験”の長寿に不安を覚える人も多い。どんな準備をしておけば安心して老後を送り、長寿時代を生きられるのか。上手に老いるための備えを知っておこう。【全3回の第1回】
進学、就職、結婚、出産、子育て、子供の自立、定年など人生にはいくつかの大きなライフイベントがあり、それに伴い生活は変化する。「老後」に明確な定義はないが、だからこそ戸惑いを覚える人は少なくない。都内に住む女性Hさん(68才)はこう口にする。
「再雇用で働いていた夫が昨年仕事を辞めて、私も半年前にパートを辞めました。仕事をしている間はなんとなく“現役”のつもりで、“老後のために少しでもお金を貯めておきたい”という思いもあったんです。
でも、私たち夫婦はすでに老後に足を踏み入れていたんですよね。旅行に行こうにも体力がないし、夫は先日転んでけがをしてしまい、自宅のトイレとお風呂に急いで手すりをつけました。見積もりを精査する時間もなく、工事の前に申請しておけばもらえる補助金のことも後から知りました。正直、もっと早く準備を始めておけばよかったと後悔しています」
老前整理コンサルタントの坂岡洋子さんが言う。
「人は必ず老化しますが、そのスピードや症状は人によってそれぞれ。だからこそいろんなことを想定して備えておくことが大切です。いつまでも自分は元気だと過信するのではなく5才、10才年上のかたの生活を現実として捉え、早め早めに判断して準備をすることが大事です」
終活相談の大半が不動産
では具体的になにから、どのように始めるべきか。家のこと、お金のこと、あらゆることに共通するのは「整理」だ。終活総合支援士でリンテアライン株式会社代表取締役社長の武藤頼胡さんが話す。
「私自身、15年前から心がけているのが、物を増やさないことです。40才のときに一念発起して、1部屋ずつ自宅の物を出して収める作業をしました。はさみが4個、爪切りが5個も6個もあったりと、細かな物でもこんなにあふれていて、洋服や台所用品、それからクレジットカードに至るまで使っていないものがたくさんあったんです。
物がたくさんあっても、年をとると使い切れません。ただやみくもに減らす必要はないですが、自分の生活の適正化を図ることは重要。私は洋服がすごく好きだけれど、一度整理してからは1着買うなら2着処分してから、というルールを決めるなど物を増やさないように心がけています」
持ち物の整理の先にあるのが「家の始末」だ。
「終活の相談会を毎月無料で行っていますが、大半が不動産についての相談です。ただし、家のことは自分たちだけで決めてしまうと失敗するケースもあります。親戚中に確認をする必要はありませんが、少なくとも子供たちにどうしたいかを聞いておくといいですね」(武藤さん)
一度は家を出た子供が、実家に戻るパターンも増えている。
「これからの社会状況により、子供夫婦が経済的に不安で親の持つ家に戻ってくる、家を相続したいという可能性も充分考えられます。親が勝手に判断してしまうのは危険です」(坂岡さん)

実際に親の賢明な判断がいまの生活を支えてくれていると感謝しているのは、埼玉県に住む女性Uさん(65才)だ。
「15年前、当時70代だった両親が実家をバリアフリーにリフォームしました。父の退職金を使って、家中に手すりをつけたり段差をなくしたり、風呂、トイレ、キッチンなどの水回りも高齢者向けに設備を入れ替えるなど、かなり本格的です。おかげで父は80才、母は85才で亡くなるまで、身の回りのことは自分たちでやりながら暮らしていました。
3年前、私と夫は両親が住んでいた実家に引っ越したのですが、自分たちの経済状況ではリフォームまで手が回らなかったので、両親が残してくれた家はありがたいです。少ない年金で暮らせるのもローンや家賃がないおかげです」
必要なのは物理的な整理だけではない。人間関係も見直し、精査すると、より生活はシンプルになる。
「どんなところに住みたいか、どんな暮らしをしたいかと考えていくと、人間関係の整理につながっていきます。ストレスなく精神的に負担の少ない生活を送るためには義理のつきあいを減らしていくことも、老後準備としては大切なポイントになると思います」(坂岡さん)
千葉県に暮らす女性Sさん(66才)も交友関係の整理で、生活が楽になったと話す。
「還暦をきっかけに最初は年賀状じまいから始めました。本当に親しい人とはメールやラインで交流していますから。ついでに携帯電話のアドレス帳も見直した。名前を見て、相手や関係性がすぐに思い浮かばない人は即削除。
母が亡くなったとき、誰に連絡すればいいのか悩んだことや、“自称・かつての親友”という見知らぬ女性に母の遺品を勝手に持ち去られた経験も教訓にし、生前の人間関係を可視化したいという思いも。おかげで自分のお金も時間も本当に必要な人たちとの交流に使えるようになりました」
(第2回につづく)
※女性セブン2026年7月9・16日号