犬の感染症予防のためのワクチンといえば「〇種混合」などという言葉をよく聞きます。「○種」は多ければ多いほどいい? そもそも打たなければいけないもの? 接種の理想的な頻度って? 副反応のリスクが特に高い犬種はある? 今回は、ワクチンにまつわる気になることについて、獣医師の山本昌彦さんに教えてもらいます。
狂犬病ワクチン接種は飼い主の義務
ワクチンとはご存じのように、毒性を弱めたり無くしたりした病原体を体内に注入し、感染症への抗体を作って、免疫をつける効果を狙うものです。ワクチンを打っておけば、その感染症にかかりにくくなったり、かかっても軽症で済みやすくなったりします。
山本さんによれば「犬用のワクチンでメジャーなものは、2種類。狂犬病ワクチンと、混合ワクチンです。このうち、狂犬病ワクチンは、飼い主さんの価値観や考え方に関係なく、必ず接種させなければいけません」といいます。
そもそも日本では、犬の飼い主に【1】現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること、【2】飼い犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせること、【3】犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着することが法律で義務付けられているのです。
毎年4~6月が狂犬病予防注射月間で、接種させなかった場合は、飼い主に20万円以下の罰金又は科料が科せられます(※アレルギー体質等の場合は接種免除を申請できます)。
日本国内に狂犬病が侵入する可能性も
「狂犬病は、『狂犬病ウイルス』の感染で生じる疾患になります。通常、ウイルスには<種特異性>があり、感染する動物種が限定されますが(例:人のインフルエンザは犬には感染しない)、狂犬病ウイルスは例外で、哺乳類全般に感染します。
そのため、狂犬病は犬だけでなく、人間を含む全ての哺乳類に共通の感染症となり、人が感染した場合の致死率は、ほぼ100パーセントときわめて高いことから、厳重な予防措置が取られています。日本では1950年代に狂犬病は撲滅されましたが、この危険な感染症を避けるために、予防接種は大切です。現在でも海外では、狂犬病は一般的な感染症であり、海外に行った日本人が現地の犬にかまれて狂犬病に感染した事例なども稀に発生しています。
また、さまざまな種類の動物が輸入されていますので、日本国内に狂犬病が侵入してくる可能性も考えられます。『国内に狂犬病はないから』と予防接種を受けさせないことは避けてください」(山本さん・以下同)
法的義務ではないけど接種しておきたい混合ワクチン
狂犬病ワクチンと違って、混合ワクチンには法的な接種義務はありません。しかし、愛犬を感染症から守るために重要であることは間違いありません。また、ペットホテルなどでは、混合ワクチン接種が利用条件に含まれているところも多いようです。
犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス感染症などを予防
日本では、2~10種類の感染症を予防する混合ワクチンを動物病院で接種できます。予防する感染症は、犬ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス感染症、犬パルボウイルス感染症、犬コロナウイルス感染症、犬パラインフルエンザウイルス感染症、犬レプトスピラ感染症など。
感染力の高い病気や、かかった場合の死亡率が高い病気、症状が重くなりやすい(=苦しい)病気、後遺症がある病気を積極的に予防しようという考え方です。
〇種混合ワクチン、種類は多いほうがいい?
それでは、ワクチンの種類は多ければ多いほうがいいのでしょうか。山本さんは、そうとも言い切れないと指摘します。
暮らす環境によってリスクの低い感染症も
「その子が暮らす環境によっては、もともと感染のリスクが低い感染症もあります。例えば、最近、逗子方面で、レプトスピラで死亡した犬がいるとSNSで話題になっています。
レプトスピラ感染症は、保菌動物(ドブネズミなど)の尿に汚染された水や土壌から感染するので、飼い主さんが水辺のレジャーが好きで愛犬もよく連れて行くとか、ワンちゃん自身が散歩中に草むらに入るのが大好きだとかいうことでなければ、感染のリスクは低くなってきます。
予防できる感染症の種類が多いと、副反応のリスクもその分高まるので、何でもかんでも受ければいいとは言えないんです。かかりつけの獣医さんと相談して決めてほしいですね。愛犬に10種ワクチンを受けさせたあと、発熱してつらそうだったので、翌年は8種ワクチンに切り替えたら今度は副反応が出なかったという例もあります」